ブルクハルト伯領 4
武器屋を出てさらに進むと、繁華街らしきものが見つかった。
飲食店のような店も何軒かあるようで、既に人の流れも出来始めている。
当然、バイト募集の張り紙なんてものはないだろうけど、まずはどんな店があるのか見て回ろう。
もしかしたら、タイミングよく人を募集している店が見つかるかもしれない。
「やっぱり、無理だよ……」
しかし、僕は早くも心が折れかけていた。
店を見て回っていると、何度か知らない男達に話しかけられた。
何かと思えばすべてナンパだった。
知らない人間に突然話かけられるのもそうだけど、男に口説かれるというのは恐怖体験だ。
だけどそれで気づくことができた、いや、気づいてしまった。
大通りを歩いている時から、視線を感じるとは思っていた。
でも、その理由はピンク髪が珍しいとか、この世界に慣れていないから何かおかしな行動を取っているのかも、と考えていた。
一番重要なことを失念していたんだ。そう、今の僕の見た目は美少女だ。
それに気づくと、感じていた視線が胸や股に集中していることが分かってしまった。
もしかしたら、自意識過剰なだけかもしれないけど、そんな気持ちの悪い視線に
「お待たせしました! こちら、レーヴ鶏の香草焼きになりますっ!」
店内で元気に接客するウェイトレスが料理を運んできてくれた。
彼女を見れば分かるが、飲食店で働くとなれば当然、彼女のようにヒラヒラした恰好をすることになるだろう。
それが今よりも注目を集めるのは確実じゃないか。
そんな視姦まがいの状況に耐えられる精神は持ち合わせていない。
……大体、なぜ仕事を見つけようなんて思ったんだろう?
「そうだ。こんなことする必要、初めからなかったんだ」
この世界で生きるために仕事を探し始めた。
だけど、羞恥に耐えてまで生きる必要があるのだろうか? いや、ないだろう。
生きるということにそこまでの価値があるとは思えない。
そして、生きるため以外にこんなことをする理由もない。
残りの人生は、この街の観光にでも使えばいい。好きに生きて、そして、野垂れ死ぬでも何でもすればいいじゃないか。
そうしよう、その方が何倍も有意義だ。えっと、手持ちのお金はあと何日分になるのか――
所持金を確認しようと懐にしまったポーチを取り出すと、ノラのことを思い出した。
……「返しに来て」、か。
「いや、まだ転生初日だ……。諦めるには早いか」
このお金が尽きるまでは、少なくともまだ余裕がある。
それまでは生きる
でも、羞恥に耐えて働こうとは思えないなぁ。
うーん、いい考えが思いつかないし……とりあえず、目の前の食事にしよう。
初めて食べる異世界料理はどんなものだろうか?
「おいっ、今日の成果はまずまずじゃないか!?」
「ああそうだな。だけど毎日ゴブリン討伐ってのもつまらないよなぁ」
「そうは言っても、俺たちのランクで出来ることって、ゴブリン討伐か……薬草集めくらいだろ?
どぶさらいなんて嫌だぞ……」
食事を始めると、近くの席から会話が聞こえてきた。
ゴブリン討伐って、冒険者か何かだろうか。
……そういえばノラたちも冒険者とか言っていたような?
冒険者といえば、モンスターを討伐するイメージしかなかったけど、そうか薬草集め……採集系の仕事もあるのか。
「いいかもしれない。ゴブリンは怖いけど、薬草集めくらいなら……」
ゴブリンだとか何かしらのモンスターに出会ったら、その時は仕方がない。
諦めて死ねばいい。
どちらにしろ何もしなければ野垂れ死にするんだ。
それよりはマシ……いや、大して変わらないかな?
「うん、スパイスが効いてておいしい」
明日の予定と食事に満足したところで、宿に帰ることにした。
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