ブルクハルト伯領 5

 宿に帰ってきた。

 夜の街に興味がないわけではなかったけど、いまの僕にその勇気はなかった。


 途中、替えの服がないことに気づいて服屋に寄ったが、何とか服を……勇気を出して女性用の下着類も含めて調達してきた。

 この体は女の子なんだし、当然だよね。何も悪いことをしていないのに罪悪感を感じるけど。


 今日はもうやることもないから、少し早いけどお風呂に入って寝ようかな。



「すみません、部屋にお風呂がないようですけど、ここは共用なんですか?」


「部屋に風呂? ここには、そんな贅沢なもんないよ。風呂なら風呂屋に行きな」



 カウンターでお風呂のことを聞いたら、風呂屋を紹介されてしまった。


 どうしよう。風呂屋ってことは女湯に入ることになるのかな?

 ……役得という感じもするけど一人は心細いな。いや、前世とは違うから混浴かもしれない。


 どちらにしろ、この慣れない体で、それも一人で行くのは不安だ。

 だけど、お風呂に入らないのは、不衛生だし何より落ち着かない。



「風呂屋が嫌なら、外の井戸から自分で水を汲む分にはタダだよ。

 お湯にしたいなら銅貨10枚かかるけど、どうする?」


「銅貨10枚出すので、お湯をお願いします」



 仕方がない。ここはお湯で体を拭うことにしよう。

 明日からも問題になることだし、早めに対処法を考えないと。


 とはいえ、風呂屋に行く以外の方法があるとは思えないけどね。



「さて、一応全身拭いたけど、やっぱり物足りないな……」



 お湯をもらって自分の部屋に戻ってきた。

 誰にも見られないで完結できるから、そこは問題ないのだけど、どうしても物足りなさを感じる。


 どうにかできないだろうか? 部屋にお風呂がないのはまだ仕方がないとして、この宿共用の風呂とかもないなんて……。

 この小さな宿だったら浴室も小さいだろうから、一人用かもという可能性に期待したのに。


 思い切って宿を変えようかな。他の宿だったら考えた通りのお風呂があるかも。

 ……だけど、所持金のことを考えればそんなに余裕もないよね。



「何かいい方法はないかな。ボクも魔法が使えれば、やりようもあるのかな……」



 魔法か……。そういえばこの世界には魔法があるんだよね。

 でも、魔法なんてどうやって使うのだろう?


 そんなことを悶々と考えていると、半透明のウィンドウが自己主張するように目の前に現れた。



 アクションウィンドウ

 - 魔法

 - スキル



 今、出て来られても、ステータスなんて確認したってどうしようもないから。

 これのせいで牢屋送りになるところだったし……うん? 何か前に見た時と違うような……。



 アクションウィンドウ

 - 魔法

 - スキル



 やっぱり違うっ!"魔法"に"スキル"なんて書いてあるよ!

 ……でも当然ながらそんなもの使えるようになった記憶がない。

 何も使えるものがないとか、そういう落ちじゃないよね? まずは確認しないと……。



 魔法:

<テレポーテーション:Lv10><ファイア:Lv10><ヒール:Lv10><ポイズン:Lv10><パラライズ:Lv10><フレア:Lv10><クリア:Lv10><ファイアアロー:Lv10><ファイアボール:Lv10><スリープ:Lv10><フレアランス:Lv10><チャーム:Lv10>・・・



 なんだこれ……延々と魔法名っぽいものが書かれている。


 これ全部使えるのかな? だけど、どうやって使うのだろう。

 ここから選べばいいのかな? ……いや、違う。

 それでもいいけど、もっと簡単に使う方法が……。



「……<クリア>」



 その瞬間、魔法陣のようなものが周囲に展開され、自身の体と服が清潔な状態になった。

 まるで、お風呂から出たばかりのような爽快感を感じるし、服も洗い立てのようだ。


 ――クリアは、状態異常を癒す魔法だ。また、高位のクリアは身に着けているもの含め清潔にする付加効果がある。


 なぜだろう、魔法の使い方が分かる。それだけでなく、魔法の効果やその効果範囲、必要な魔力量などが初めから知っていたかのように頭の中に入ってくる。


 それじゃあスキルも同じ感じかな?



 スキル:

<言語理解:Lv10><毒耐性:Lv10><パワースラッシュ:Lv10><睡眠耐性:Lv10><魅了耐性:Lv10><身体強化:Lv10><魔法強化:Lv10><ラピッドスラッシュ:Lv10><鑑定:Lv10><スラッシュ:Lv10><魔法理解:Lv10><麻痺耐性:Lv10>・・・


 スキルの方も同じで、膨大な数のスキルが延々と表示される。

 そして、意識すればその詳細が頭に浮かんでくる。

 ただ、どちらにもいえることだけど、系統や効果といったもので整理されているわけではないらしい。


 並び方は乱雑でどこにどんな魔法やスキルがあるのか把握しにくい。

 スキルに至ってはアクティブ系、パッシブ系すら混ざっているようだ。



「これは全部見るだけでも時間かかるなあ。……明日、試してみようか」



 情報量が多くてだんだんと面倒になってきたし、後は明日考えることにしよう。

 クリアで綺麗になった服に包まれて、眠ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る