episode13 初デート1

 激動のとまで言うほどではないが、一時的に学生達を憂鬱にさせるテスト週間が今終わった。

 教室では最後の科目のテストが終わり、喜んでいる人や、うまくいかなかったのか、落ち込んでいる人、打ち上げの計画を立ててる人等、様々な感情が見える。


 そこで、オレは一人の問題児の様子を見てみた──前回ほぼ全教科赤点という快挙を成し遂げた岸山柚凪という女。

 その女の表情を見てみると、「ふぅやりきったわね」と言わんばかりの自信に溢れた表情をしていた。

 ──すると、オレの視線に気づいたのか、柚凪が振り返り、親指でグッドマークを作り、キリッとはにかんだ。

 今回は余程自信があるそうだ。

 まあ、毎回学年トップ3に入ってるオレにマンツーマンで教えてもらって酷い点数は取れるまい。

 とりあえずオレも周りにバレないよう小さくグッドマークを返しておいた。

 実を言うと、このクラスというか周りには誰一人としてオレたちが付き合ってることは公言していない。

 まあよく一緒に帰ってるからバレたらバレたらそこまでなんだが。極力面倒事は避けたいため、オレも柚凪もバレるまで隠そうということになったのだ。

 そういうことなのでクラスの中ではあまり柚凪とは話すことはない。

 学校でなにか話したいことがあればラインを送ることになる。

 ──そんな訳で

 帰りのSHRが始まるまでスマホを見ていた柚凪にオレはメッセージを送った。


『テストも終わったしこの後どこか遊びでも行こう』


 すると一瞬で既読がつき、メッセージが返ってきた。


『もしかして、それってデート!?』

『まあ、そうだけど。どうかしたか?』

『いやなんか翔とちゃんとデートするの始めてだなぁって』


 言われてみれば付き合ってから一ヶ月デートというデートをしていなかった。

 ひとつ行ったところがあるとすれば、バイト帰りに柚凪と一緒に寄ったインドカレー屋くらいか。

 さすがにオレも男として、付き合ってから一ヶ月彼女をデートに誘わなかったというのは少々無神経すぎたのかもしれない。

 だからこそ、今日の初デートは絶対良いものにさせてみせる。

 そう心の中で息巻いていた時だった──


「ゆっずなー!この後カラオケいこ!」


 とクラスの女子、新谷結菜にいやゆながそう柚凪の席の所へ行き、声をかけた。

 普段柚凪とよく一緒にいる一人。

 そして、オレと体の関係をもった一人である。

 結菜は根っからの陽キャで男女問わずコミュニケーションを取ってくるため非常に人気がある。背は小さめだが柚凪に負けず劣らずの美貌を持ち合わせている。

 なぜそんな彼女とオレが一回だが体の関係になったかと言うのは後に話すとしよう。


「テストも終わったんだしド~ンとはしゃいじゃおうよ!来望くるみ愛華あいかも来るよ!」


 柚凪の返事を待たずして、結菜は柚凪を

 ちなみに来望も愛華も同じクラスの柚凪の友達だ。


「ごめん!今日午後用事があって、

 また今度誘って!」

「そっか〜、残念。もしかして彼氏とか?」


 結菜がそう聞くと、柚凪は一瞬ポカンとした表情を浮かべ口を開いた。


「うーん、まあそんな感じかな」


 バカあ!それは言わない約束だろうが!

 そんな事言ったら更に追求されるぞ!


「えー!相手だれ!だれ!」


 ほらな。

 結菜に言ったらいろいろと面倒なことになる予感がするから出来れば、いや絶対に言ってほしくないんだが。


「それは言えないかな。約束してるし」


 ふぅ。さすがに口を割らなかったか。


「そっか〜、気になるけど約束してるなら仕方ないよね。また今度遊ぼ!」

「うん!また誘って!」


 結菜が自分の席に戻っていくのを確認して、オレは柚凪にメッセージを送った。


『名前をださなかっただけまだよしとしよう』

『ごめん、彼氏がいるってつい認めちゃった。でもさすがに相手が誰かなんて結菜もわからないよ』


 と柚凪が弁明のメッセージを送ってきたが、そんなフラグは一瞬で回収されることになる。


 柚凪とのトーク画面に上乗せするようにある1件のメッセージが届いた。

 名前を見てみると、先程まで柚凪と話していた結菜からだった。

 オレはトーク画面を開く前に後ろの席に座る結菜を見てみると、にまにました表情でこちらを見ていた。

 うっ………なんなんだ………。


 オレは恐る恐るトーク画面を開いた。

すると、こんなメッセージが届いていた。


『柚凪を幸せにしてやりなよ』


 …………は?

 なんで、こいつ知っているんだ………

 落ち着こう。まずはとぼけるとこから始めよう。


『幸せ、というのは?』

『とぼけないでよ、付き合ってるのは知ってるんだから』


 いやいや、あり得ない。

 オレは誰一人として他言していないし、柚凪も約束を破って人に言うことはない筈だ。

それに、学校でも基本的に付き合っている素振りは見せていない。


『なんで………知ってるんだ?』

『認めるのね?』

『ああ、認める。なんで知ってるんだ?』

『まあ、女の堪ね』


 なんだそりゃ、と言いたくなるが『女の堪というのも』あながち間違いではないのかもしれない。

 柚凪もオレが結菜とセックスしたことがあるって見抜いていたし………


『もっと具体的に言うと?』

『休み時間も授業中もずっとお互いキョロキョロ見合ってた』


 言われてみて、ハッと気づく。

 無意識のうちにオレは柚凪を見ていたし、柚凪もオレのことを見ていたのか。

 家では、好きなだけ話せる、触れ合える。

だけど学校ではそのどれ一つもしていないから柚凪を見ることくらいしかできなかった。


『すごいな、女の堪ってやつは』

『でしょー、でも別に翔と柚凪のカップルだったら誰も文句言わないと思うんだけど公表しないの?』

『まあ、あんま目立つの好きじゃないしな』

『そか、なら私も言いふらすことはしないよ』

『当たり前だ』


 そんな会話をしていると、柚凪から大量のスタンプが送られてきたことに気付く。

 慌てて、柚凪とのトーク画面を開くと怒りマークのついたクマのスタンプが何十件と送られてきていた。


『やっと既読ついた』

『ごめんごめん』


 とりあえず結菜がオレたちが付き合ってることを知っているのは柚凪には伏せておくことにした。

 バレてたと知ったら柚凪が責任を感じてしまうかもしれないからな。


『それでさ、デートどこ行くの?』


 そう柚凪が送ったと同時に柚凪はオレの方を向き、ジトッとした目で見つめてくる。


『それが……実はまだ決めてないんだ』


 そう送ると柚凪はガクッと首を落とした。

 確かに呆れられるのも無理ない。

 なんのデートプランもなくデートに誘ったオレが100悪い。


『どこか行きたいとこあるか?』

『うーん、八景島とか行ってみたいな』


 ああ、八景島か。

 確かにデートスポットとしてはかなり最適といった場所だろうか。

 正確には『八景島シーパラダイス』

 水族館、遊園地、ショッピングモールといったまさに娯楽施設を詰め込んた複合商業施設となっている。


『いいな、じゃあそこにするか』

『あ、でも待って』

『どうした?』

『今からの時間じゃ移動時間も含めて十分遊べないと思う。17時までしか営業していないし。』

『そっか、じゃあ休みの日早くから行ってみるか』

『そうだね。今日は映画でも行こうよ』

『そうしようか』

『うん楽しみ』

『そうだな』


 その後SHRを終え、オレたちは地元の映画館があるショッピングモールへ向かった。



 









 

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家庭環境が複雑なクラスの女子を深夜まで家に泊めることになった ちぃーずまん @ayumu1572

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