ガス…いいえ、不潔なだけです



いやぁ…

思わぬ反撃だったぜ…

まさかこんな状態異常攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。

しかも常時発動型とは恐れ入るぜ…


「おいクソガキ…中々強烈な攻撃方法じゃねぇか」


「ぐっ…テメェ…何、言って…やがる…」


Bから離れて少しして、ようやくヨロヨロと立ち上がったBに対し俺が告げるとふらふらしながら俺を訝しんでいる。

どうやら本人は俺に何をしたのか分かっていないらしい。


しょうがない、教えてやろう…

俺はBを指差しこう告げた。


「近付いて来た相手に対してガスによる毒攻撃を与えるスキルかなんかだろう?」


「………はぁ?」


「実際してやられたよ。思わずとどめを刺すよりも後退優先にしちまうくらいだしな」


「ぐっ…だからテメェはさっきから何言ってやがる…ガス…?」


とぼけんなよ。お前さんに近づいた時のその匂いだよ。それが毒のスキルなんだろう?」


「に、匂いだと…?」


Bの困惑がさらに強まる。

俺もBの様子に首を傾げる。


あれ…?

何だか雲行きが怪しくなって来たぞ…?


「あの…キーダ様」


俺とBが二人して困惑していると、申し訳なさそうにクレア嬢が俺の服をくいくいっと引っ張る。


「ご指摘している最中誠に申し訳ないのですが…」


「どうかしましたか?」


「おそらくですが、あちらの冒険者はたぶんクエスト明けなのではないかと…」


「クエスト明け…?」


「はい…それもしばらくの間野営が必要なクエストだったのではないかと思われます…」


え〜…それはつまり…

野宿が続いてて入浴出来なかったという事ですかい?

気になったのでクレア嬢に聞いてみた。


「入浴というか身体を拭いたりして無かったんじゃないですかね?入浴は貴族様や王族の方々、裕福な商人が入るような贅沢なものなので一般的には水やお湯を絞った布で身体を拭いて清潔を保つのですが、あの冒険者さんは…その…」


クレア嬢がその先を言おうとしていたが、俺は言わなくても良いといった感じで手で制す。


「おいお前」


「あぁん?」


「お前、最後に身体拭いたのいつだ?」


「たしか…ひと月前ぐらい、いや、もっt『めちゃくちゃ不潔なだけじゃねぇか!!』ぐべぇっ!!ーーーー」


思ってたより酷かったから思わずツッコミを入れながらもう一回地面とこんにちわさせてやった。

もちろんすぐさま距離を取るまでがセットです。


「これは…!?総員、怪我人を最優先で保護して救護にあたれ!!」


どこからともなく、誰かが通報したのか十数名の衛兵らしき一団が現れ現場の惨状を把握し対応を始める。

隊長の様な衛兵が近くにいた住人に軽く事情を聞いている様子だったが、質問されていた住人が俺を指差したかと思うと、俺を確認した隊長さん?が話しかけてきた。


「私はこのエルドラドで警備隊長を務めているオリバーという。あの荒くれ者を倒したのは貴君で相違ないか?」


「どうも初めまして。俺はキーダ。Bを倒したのはまぁ間違いないですね」


「び、びぃ???」


「あぁ…あいつら全部で4人いたし名前も知らんかったので適当に呼んだだけですよ。あそこで右肘が折れてるのがA、地面とイチャついてる有毒ガス野郎がB、あと2人は…逃げたっぽい?」


CとDの姿が見当たらないので隙を見て逃げたんだろうが、この荒くれ者連中のリーダーっぽいのはBだし、とりあえず残ってる2人に尋問でもなんでもすれば芋蔓式に捕まるのも時間の問題だろう。


「そ、そうか…詳しい事情を詰所で聞きたいんだが同行願えるだろうか?」


「時間がかかりそうなら断るし詳しくも何も絡まれたから返り討ちにしたってだけの話なんだが?」


俺にも目的がある以上どうでもいい事に時間を割きたくないし、ハッキリ言って事情聴取なんて面倒臭い。

それにそんなことより俺は一刻も早く風呂に入りたい。


「その絡まれた辺りを詳しく聞きたいんだが…」


「こちらに絡まれる様な理由は無いんだから詳しく話すことが無いと言っているのが分からないんですか?」


内心苛立ってきていた俺の言葉は刺々しい物言いになってしまい、警備隊長のこめかみに青筋が浮き出る。

これ以上は一触即発といった様子になってしまうが、隣にいたクレア嬢が割って入る。


「キ、キーダさんは何も悪くありません!キーダさんは私を助けてくれただけなんです!」


ピリついた空気を感じ取ったらしいクレア嬢が慌てて俺と隊長さんの間に割って入る。

それから数分掛け、事の成り行きを隊長さんに説明していた。


「ーーーーーという訳でキーダさんが聴取を受ける必要は無いと私が証明いたします」


「いや、しかしだねぇ…」


「これでも私の話は信用していただけませんか?」


「こ、これは…!?」


クレア嬢が胸元からカードのような物を取り出し隊長さんに見せると、隊長さんの態度が一変。

顔色も怒りで赤身掛かっていたのも青白く一変。

リアルで胸の谷間に物を仕舞ってる女性なんて初めて見たなぁなんてくだらない事を考えていた俺だったが、隊長さんが俺に向けていきなり敬礼したので呆気に取られる。


「大変失礼致しました!貴殿に疑うべき箇所など何一つない事を確認いたしました!」


「は、はぁ……???まぁ、分かってくれたのならそれで結構ですが…」


「では我々はそこな荒くれ者達を連行します。これから厳しく取り調べをして然るべき対処を行いますのでこれにて失礼いたします!」


再度ビシッと敬礼をした隊長さんは事後処理へと戻っていく。


「あの態度の変わりよう…いったい何を見せたんです?」


「乙女の秘密です…っと言いたいところですが、私の本当の立場を知っているキーダさんには無意味ですね。私が彼にお見せしたのは私のギルドカードですよ」


「あぁ…そういう事ですか」


彼女の本当の役職

商業ギルド、ギルドマスター


世界公認の商業ギルドマスターからの証明ともなれば、その言葉の信憑性はずば抜けて信用出来るものになるのだろう。

格差社会を目の当たりにした…


「ちなみに胸元からカードを取り出したのは、

この【ポーチネックレス】にカードを仕舞っていたからで、決して谷間にアイテムを入れている訳ではありませんからね?」


小悪魔のようにウインクをして微笑むクレア嬢。

別に邪な事を考えていた訳ではないのだが、女性は視線に敏感と言うからなぁ…

俺は苦笑するしかなかった。


ちなみに【ポーチネックレス】というのは簡単に言えば【マジックバッグ】のネックレス版のような物らしい。

空間魔法を付与してあり、嵩張ることもなく使い勝手が良いとのことだが、おそらくは一般人がおいそれと手を出せるような金額ではないのだろうというのは想像に難くない。


「ではそろそろ宿に向かいましょうか」


「そうですね…案内よろしくお願いします」


予期せぬイベントがあったが、ようやく本来の目的である宿へと向かうことが出来そうだ。

俺は気を取り直して先を歩くクレア嬢に追随する様に歩き出した。

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集団異世界召喚に巻き込まれた35歳アラフォーおっさんは、スローライフを送るために全力で集団から遠ざかるために頑張ります? 銀狐@にゃ〜さん @minelva

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