epilogue

E-1

 ぱたぱた、と軽い足音が歩き回る。

 もうすっかり埃のたたなくなった床を。白っぽく煤けていた品物はどれもこれも鈍く光を弾くほど磨かれて、並び直されている。商品には簡単な名前と来歴までが記された小さな紙が添えられていた。

 すっかり濁りのなくなった入口から、陽差しが差し込む。ソファのある場所までは届かないのがせめてもではあったが、まったく店内も様変わりしたものだった。

 そのおかげか、最近では時折客のようなものも訪れる。普段の金払いのいい客、ではない。ふらりと立ち寄ってみた、といった街の人間がだ。商売などやる気は相変わらずなかったが、売上も少なからず出ているようだった。このままでは、まっとうな骨董品屋になってしまいそうだ。

 ぱたぱたぱた。軽い足音はリズムを変えず、軽やかに動き回っている。

 ふ、と空気が動く。奥の扉が開いて、僅かな風が通り抜けた。

「ミナ、こっちは終わった?」

 顔を出したのは、朝からキッチンにこもっていたエリクだ。

 ミナがぱあっ、と貌を輝かせる。

「いつでも大丈夫ですよ。エリクさんは?」

「うん、こっちも準備出来たよ~。沢山作ったからね、楽しみにしてて!」

「チーズたっぷりのパニーニも?」

「勿論! トマトとバジルとパンチェッタでしょ。ミナの初めてのリクエストだからね、いっぱい用意したよ!」

 だからホラ、とエリクは笑う。

「早く出かける用意して、アーク! チーズが冷えて固まっちゃう前に、トンプソンズ・スクエアパークまで行かなきゃならないんだから」

「―――ああ」

 アークはいつも通りに寝そべっていた店のソファから、ゆっくりと起き上がった。

「すぐ行ける」

「じゃあ、もう出かけるよ!」

 エリクがひょい、と掲げた片手には、どこから出してきたかと思うような大きなバスケットが握られていた。

 ミナが店のドアの鍵を閉める。そうして裏口から、三人は揃って家を出たのだった。




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