4章
第29話:理解と対話1 バルトの悩み
ようやく目的の街へと辿り着く。
バルトは数ヶ月前を思い返し、唇を噛み締めた。流石に数ヶ月前の事は覚えていないのか、バルトに対して声を上げる者はいない。一先ず、それに安堵し宿をとった。準備を整える為にも今日は一日自由行動とし、バルトはベッドに倒れ込む。今回の目的は戦闘ではない。あくまでも魔王が生きているのか、お嬢様の正体を確認することである。だが最悪の場合は想定するべきだ。あの男は何者なのか。戦闘は避けられるのか。コルドの行方は……。考えたい事が多くまとまらない。自分が精神的な準備をしたいがために今日は自由行動にしたと言っても過言ではなかった。
「バルト、いる?」
扉は叩かれる事なく開かれる。顔を覗かせたユーリはバルトがいるのを確認すると部屋に入り扉を締めた。
「どうした?」
「準備しなくていいの?」
「準備中だ」
「寝てるだけじゃない」
呆れたユーリはそのまま、バルトが寝ているベッドの横にあるもう一つベッドに腰を下ろす。
「他は?」
「フィーレとデリダは一緒に街を見てる。ハイラ君は定時報告、ジレンさんは馬を見てるわ」
「準備はいいのか?」
「ここに来て済んでない訳ないでしょ」
「お前ならそうだな」
ユーリは不測の事態を含め、常に準備を済ませている。それは魔王戦においても同様である。だが、あれに関しては規格外過ぎて備えなど無いも同然であった。もちろん自分を含め全員が備えなど関係がなかった。そもユーリが備えられないのであれば自分達が備えている訳がない。いつだってユーリは最善で万端である。魔法の知識、魔族の知識、それらを複合し更に自分たちの能力を加味して、足りない時に必要なものを提示してくれる。その信頼は魔王と会敵以前、敗戦後も変わらない。ユーリの事だ、効果があるかは別にして魔王の対策、想定した従者の対策も考えているだろう。だからこそ自分は、その時に迷わない様に精神的な整理を進めている。
「……って言いたい所なんだけど」
「済んでないのか?」
「んー、どうなんだろ。正直魔王に関しても従者に関しても情報が足りなすぎて」
「それは仕方ない。従者に関しては俺しか戦っていない。伝えられる情報は限られる」
「そうなんだけど、とりあえず色々と準備はしてる。それとは別に……」
僅かに言いよどむユーリに珍しさを感じたバルトは起き上がると向かい合うようにベッドの脇に座り直す。
「何だ、言ってくれ」
「自分が考えうる限りの準備はしたんだけど」
そう言いながら普段から首にかけている水晶を手の平に乗せ、バルトを見やる。
「私が思いつく限りの対策はしたんだけど、容量余ってて。何を入れようか悩んでたんだよね」
「……確か魔法を保存できる水晶だったな」
「そ、魔力を込めるだけで任意の魔法を発動できる優れ物」
「あと何個保存できるんだ?」
「3つね」
「3つか。正直お前が準備してるもの以上の考えはないぞ」
「何でもいいから言ってみて」
対魔王、対従者。ユーリは戦う事を想定した魔法を組んでいるはずだ。攻撃、防御、補助魔法。知識も運用方法もユーリが上、今更俺が言える事はないだろうに。それでも聞かれたならば何かしら答えたいもの。しばし思案の後に考えていた事を口にする。
「戦闘以外でもいいか?」
「何でもいいわよ」
「相手が嘘をついていないかわかる魔法はあるか?」
「あるにはあるけど、あんまり精度良くないわね」
「それは相手にかけないと効果はないのか」
「んー、その辺が精度の悪さに繋がるんだけど魔法の対象自体は相手じゃないのよね」
「俺にかけられるか?」
「かけてもいいけど、この魔法って簡単に言えば洞察力が上がる感じの魔法なの。例えば今みたいに話してて普段なら気にならない動作の中で、瞬きの回数が増えた気がするとか、少し早口な気がするとか、声が高い気がするとか。正直、ほとんど初対面の相手に使っても効果は期待できない魔法ね」
「どうせ余ってるんだ。それを入れてくれ」
「……まぁ、良いけど」
バルトは以前戦った従者をコルドだと疑っている。それを確かめる為に、この魔法を使いたいのだろう。ユーリはこの考えに懐疑的であった。第一にコルドが自分達に説明なく魔王と共にいるとは考えられない。第二に街を見る限り平和だ。とても魔王がいる城から近い街とは思えない。第三にコルドがバルトに勝った所を見た事がない。これに関しては殺し合いじゃないからだと昔バルトに言われた事を思い出す。
「それと戦線離脱する魔法も欲しい」
「……勝てないって事?」
「前回は負けたが、またここにいる。何も一回で勝つ必要はない。戦力を削り撤退し、準備を整え、また挑めば良い。誰かが欠ける方が問題だ」
「あんまり遠くには逃げれないわよ」
「構わん。生き残る可能性が高ければ良い」
前回の戦いでコルドが欠けた。今回は同じことを避けるための措置。正直、バルトは死んでも勝つつもりだと思っていた。
「……一応言っておくが出立前に言った通り、今回の目的は魔王の確認、お嬢様と呼ばれる存在、従者の存在の確認が主目的で戦闘が目的ではない。それはあくまで最悪の場合。今回は情報収集だ」
「……忘れてたわ。そういやそうだったわね」
「お前はいつも正面突破しようとするな」
「いいじゃない、まどろっこしいのが嫌なの」
「……時間も限られてるしな」
「そうよ。もうこれが終わったら私は家に籠もるんだから」
旅の終わりは目前、と言うか延長戦に入っている。本来ならばユーリは既に家に籠もって魔法の研究を進めていたはずだった。はっきり言って魔法を極めるなど人の寿命では無理だと感じてはいるが、それを探求するユーリ。そんな彼女だからこそ問題は最短で片付け、魔法の研究の時間を作りたいのだろう。
「……これが終わったら引き籠もりかぁ」
「似合わないな」
「うっさいわね、もともと引きこもってたのに引きずり出されたのよ」
「楽しめただろ」
「そうね、退屈はしなかったわ」
「後はそうだな、何か鎮静効果がある魔法も欲しい。俺の頭に血が登る可能性がある」
「あんたも冷静なのか違うのかわからないわね」
「別に冷静なつもりはない。それはコルドの役目だ」
「……そうだったわね。私の魔法が代用になるかはわかんないけど入れとくわ」
普段は冷静だがバルトは好戦的である。そんな彼が大人しく話を聞くのはコルドだけであった。もちろん付き合いが長いこと、自分達以上に信頼している事はわかっている。それでもそれは、自分と対等だと思っているのはコルドだけで、彼にとって私達は共に仲間であって守る対象なのだ。いつだって彼の横で命を張るのはコルドである。だからこそ彼はコルドを勇者とし、自身を収める鞘だと考えている。それが少しばかり悔しい。別に差別を受けている訳ではない。生死をかけた死地には共にいた。それでも前衛と後衛、敵の眼前に立つ者と立たない者の違いは大きい。
「これで全部埋めたな」
「……ねぇ、あんたがやりたいことって何?」
「やりたい事?」
「今回は情報収集が主目的って言ったじゃない。でもそれは仕事でしょ。それは置いといて、今回一番達成したいことは何なの?」
答えなどわかりきっていた。自分だって知りたい事だ。それでもバルトの知りたいとは熱意が違う。自分の知りたいは言わば好奇心、野次馬に近い。だがバルトの知りたいはコルドを助ける、連れ戻すなのだ。
「コルドの所在を知りたい。何故あいつだけ王都に戻ってこないのか、従者が何故あいつの剣を持っていたのか。生きているのか。魔王の前に立ったんだ、死んでいる事も覚悟はしている。それでも生きているのであれば……」
コルドとバルトは騎士団の同期として戦地で生きてきた。生死を共にした数は自分達とは比べられない。そんな世界で生きてきたのだ、どちらかが死ぬ事など覚悟済みなのだろう。それでも死んだという事実がなければ希望はある。今のバルトは魔王を倒すためではなく、コルドを探す為に今も魔王を追っている。
「まぁ、そうでしょうね。聞くまでもなかったわ」
「お前も気になるだろう」
「そりゃあね。死んでるとは思いたくないけど、それなら何で私達の所に来ないのかは知りたいし」
「それがわからん。例え俺達と同じように遥か遠くに飛ばされたとして王都に連絡くらいはできるはずだ。それもないのが気になる。死んでいるか、連絡ができない状態なのか」
「従者がコルドねぇ。見てないからなんとも言えないけど、洗脳されてるとか?」
「わからん。そもそも本当にコルドかも判断できん。もしかすると姿形を模しただけの魔族の可能性もある」
「……なんにせよ、明日会ってからね」
「……正直気が重い。ここに近づく度、悩みが大きくなって増えていく。漠然とした不安というか、自分の行動に自信が持てないと言うか」
ユーリは意外な言葉に、言葉を探る。
彼は自分から見れば竹を割ったような、はっきりとした人間に見えていた。やるやらない、出来る出来ない、要不要。それらを判断しはっきりと伝えてくる。その毅然とした態度はいつだって自信があるように見え、私達は自然と彼の指示に従っていた。
「……珍しいわね」
「……そんな事はない。吐き出す場がなければ溜まる一方だ」
「私はコルドじゃないわ」
「そんな事はわかっている。だが今日準備時間を作ったのも俺が気持ちの整理をしたかったからだ。フィーレやデリダはまだ弱い。俺の不安は見せられない。だがお前は違う。はっきりと意思を持ち、俺やコルドが迷おうが進む力がある。だから、俺は……」
座る足に両肘を載せ、深く落とした頭を両手で受ける。声はもう独り言のように小さい。ここまで弱っているバルトを見るのは初めてであった。そんな彼にかける言葉が見つからない。
「俺は勇者になれない。そんな事は自分が一番わかっている。だから俺は勇者をコルドに押し付けた」
「押しつけたって……」
私達が合流した時、コルドは既に勇者であった。
「話した事なかったな。最初は俺が勇者として選ばれたんだ」
零す言葉は懺悔。
「国王からの命令で勇者探しが始まった。国を守る騎士団に白羽の矢が立つのは自然な事だ。だが様々な国と争う王国が主戦力と呼べる人間を勇者として、国から外に出す訳がない。そこで騎士団の団長や副団長、上の人間が話し合い何人かの候補が選ばれた。その中の一人が俺とコルドだった」
初耳である。一向に頭を挙げないバルトは話し続ける。
「団長からは俺達で倒してこいと言われたが、話し合いの結果俺が選ばれた。だが俺は勇者ではない、俺は勇者にはなれない。それは俺ではなくコルドであるべきだ。だから俺は、俺も帯同する代わりにコルドを勇者にさせた。……あいつは苦笑しながら、俺がいるならと勝手を許してくれた」
呆れ顔で笑うコルド。それは想像に容易いものである。
「……俺は初めての戦地で敵に殺されかけた所をコルドに助けられた事がある。あいつは初めて投げ出された戦地でも自分のやることを見失わなかった。あいつは俺より強くて俺より弱い。だから互いの欠点を埋める為に一緒に戦おうと俺が持ちかけたんだ」
「……意味わかんない」
「あいつは誰かの為にしか生きられないんだ。俺は自分が何をすべきかわからなかった。戦地で生き抜くため、コルドは俺の為に、俺は俺達が生き残る刹那の為に……。俺には行動の原動力になるものが欠けていた。お前で言うところの魔法の研究だな。コルドはそれが常に誰かの為だった。俺はコルドの友人として、誰かの為にコルドが死ぬのは嫌だった。だからこそ俺の為に動いてもらい、俺は俺達が死なない最善策を模索し続けた。魔王討伐に関しても同じだ。俺にとってそれは原動力になるものではなかった。だがコルドは違う。誰かのためには戦地から世界の為に、仲間の為にが原動力となった。自分が自分のために生きると言う意思の欠落に他ならないが、それがコルドだ。誰かの為に生きるあいつこそ勇者に相応しいと俺は今でも思っている。同時に未だ生きる為の原動力すら見つけられない俺は勇者ではない。俺は世界の為に戦えない」
ユーリは二人の過去を深く知らない。騎士団の同期程度の知識しかなかった。確かに自分の原動力は魔法の研究。それが使命であるように研究がしたいのだ。それは他に変えが効くものではないが、同時に他の事に時間を費やすため手を止めることができる事でもあった。そんな原動力が欠落していると語る彼は、ユーリから見れば今も昔も自分達のために最善を尽くし、命を賭して自分たちの盾になる勇者であった。
「……何よ、それ。だから何なの? 誰かの為に戦えないと勇者になれないわけ?」
「……少なくとも俺はそう思っている」
「だから誰かの為に戦えるコルドに勇者を押しつけたって?」
「そうだ」
「……はぁ、馬鹿なんじゃない。あんた」
「どういう事だ」
「あんた、勇者の候補にも選ばれたのよね」
「そうだが」
「で、勇者は誰かの為に戦える人間であるべきだと」
「あぁ」
「それって過程の後に結果が来るか、結果から逆算して過程を決めてるだけの話じゃない」
「……意味がわからん」
「勇者だから世界を守るのか、世界を守ったから勇者なのかって話。あんたの考えは前者、誰かの為にしか戦えないコルドの誰かを世界に置き換えて、なお且つ勇者って記号をコルドに重ねてる。あんたの理想の勇者像がコルドと合致しただけの錯覚よ。でも今世界が求めてるのは後者、守った勇者。つまり魔王を討伐してくれた後に呼称される勇者なの。そこに個人の理想像なんか関係ないの、結果が全て。もし今回の旅で明日、あんたが魔王を倒したとするわ。そうすればあんたの理想は関係なく、あんたが勇者で、それが今世界が求めてる勇者なの」
個人の理想やあり方ではなく結果が全て。ユーリは強い口調で断言した。その言葉を聞きバルトは頭を上げる。
「あんたはただ個人としての意思が弱いのよ。何かを達成するための手段とか目的がはっきりしてると何をすべきか判断ができるけど、あんたは目的が曖昧なままここにいる。だから今日、考えをまとめるための時間が必要になったのよ。あんたの言う自分は勇者じゃないって言葉、嫌い。そんなどうでもいい事で悩んでるあんたも嫌い。私は別に勇者に守ってもらいたいわけでもないし、勇者に守ってもらってるとも思ってない。私達が後ろで援護できるように命張ってんのはコルドとデリダとバルト。あんたらなの。あんたらがどう思おうと私達を守ってる結果は変わらないの。今はコルドがどこかわかんないけど、代理としてでもあんたがここまで私達を連れてきたんでしょ。それならせめて、勇者かどうかなんて関係なく私達をここまで連れてきた責任を取りなさい」
淡々とした言葉であったが、それは諭すようにバルトの耳に届く。
勇者とはこうあるべきだ。確かに理想像を持ち、コルドに押し付けていた。しかしそれは個人の考えであり、世界にとって勇者は結果なのだ。そしてまだ結果は出ていない。自分が勇者ではないと否定する場所にすら立っていない事をバルトは今更思い知った。
「……責任か」
「そんくらいとれるでしょ。何でもいいから私達をここまで連れてきた事に意味をもたせなさい」
「……そうだな、それくらいなら出来そうだ。悪い、甘えさせてもらった」
その普段見ない弱く柔和な笑顔に、向けられたユーリが気恥ずかしくなり目を背けてしまった。
「……いい? 私はコルドの代わりになるつもりもないし、優しくもない。それでもフィーレやデリダよりはあんたの話は聞くことができる。私は今も昔もはっきりと決断を下して、私達のやる事を決めるあんたの事を信頼してるの。だから、こんなくだらない事で悩まないで。意味のわかんない決断をするなら私が真っ向から否定する。だから、しっかりしなさい」
ユーリは気丈である。誰が相手でも言いたい事を言い、白黒をはっきりさせる。これまで幾度か言い合ったこともあるが、それは目的の為の最善手を模索する過程であった。こうして自身の事を話すのも、自身の事を言われるのも、それなりの付き合いの中でコルド以外では初めての事であった。意識はなかったが、もしかするとどこかで線引きがあったのかもしれない。
「話す度に責任を増やされそうだな」
「どうせやりたい事がわかんないんでしょ。それなら私と話す度にやること指示されて楽じゃない」
「人に甘えるのにも責任か付きまとうのか、世知辛いな」
溜息をこぼすとバルトはベッドに倒れ込んだ。そんな彼を見てユーリは唇を尖らせる。
「何よ、ただで甘えるつもりなの?」
「それも良いかもしれないが、優しくないらしいぞ」
倒れ込んだバルトは寝返りを打つように横になり、頭の下に腕を置く。
「ふーん、甘えたいんだ」
「そうは言っていない」
「あんたって意外と子供っぽいのね。理想の勇者だったり」
「うるさい」
「これはデリダとフィーレには見せられないわね」
にまにまと笑うとバルトの寝るベッドに座り直す。
「コルドは友達だもんね、そりゃあ心配になるかぁ」
「心配なんてしてない」
「嘘ばっかり」
「あいつは簡単に死なん。今もきっと誰かの為に生きている。だが、何の連絡もないのだけは腑に落ちない」
気持ちの整理をするのに睡眠は有効だという。このどこから手を付けていいかわからない、もやもやした脳内。下手に考えるよりも寝て、なるようにしかならないと開き直る方が建設的な気さえする。目を閉じて小さな呼吸を繰り返すバルトを、ユーリは見下ろしていた。
……果たして自分にできる事とは何だろうか。
改めて考えてみても魔王を倒すなど土台無理な話、封印が最善で唯一の可能性。だが一人で封印は不可能、フィーレに補助してもらっても足りない。そも遥か昔、魔王を封印した"微睡みの呪い"。三人の魔法使いが行ったとあるが、具体的に何をどうしたのかの伝承は見た事がない。魔法使いが行ったからと言って封印魔法とは断言できない。もしかすると名前の通り本当に呪いをかけた可能性すらある。そうであれば厄介この上ない。呪いは魔法とは別の体系と言われている。魔法は魔法なりに原理があり体系化され、私達はそれを扱っているが、呪いに関しては門外漢。魔法と同一視されがちだが、はっきり言って原理がわからない。ざっくり言えば神に祈れば願いは叶う。それを体現したのが呪いだと昔、オババ様に言われた事があった。それはもう学問ではなく奇跡の類。自分達が任意で起こせる代物ではないのだ。今の魔法では魔王を拘束できるかも怪しい。発動前に全滅も経験済み。考えれば考えるほど戦闘は悪手でしかない。遠目に見て状況を確認、転移魔法で撤退。一番生還率が高いのはこれであり、今回は情報収集が主なのだ。だが、こんなものでは相手がいる事はわかってもそれ以上の情報がない。虎穴に入らずんば虎子を得ず、遠目から見るだけでは自分達がここまで来た意味は皆無だと言えた。
「……逃げるのも大事よね」
「当たり前だ。死なない限り次がある」
魔王であれば接触すれば魔力でわかるはず。隠そうにも隠しきれない、その異質な魔力を未だに肌が覚えている。それと対峙した時、迷わず動ける覚悟は必要だ。魔王に接触した際に即時撤退ができる様、首にかけた水晶を握り魔法を組み込む。予備動作は魔力を込めるだけ。逃げる事に関してはこれ以上に出来る事はない。
「魔王相手なら逃げるとして、従者だけと会ったときはどうするの? 戦うの?」
「……出来れば話したい。場合によっては戦闘、こいつに関しては倒せる可能性は充分にある。無力化して確かめるのも一つの手だ」
「相手次第ね」
「だが極力戦闘は避ける」
従者は倒せる。これだけで気持ちが軽い。戦う時間があるならそれだけで情報を得られる時間が増えるのだ。従者がどんな人物かわからないが、これでバルトの懸念を払えれば此処に来た意味もある。責任を取らせるついでに手助けもするか。ついでにコルド探しに付き合わされる鬱憤も晴らしたい。従者相手には戦闘が出来ればストレスも発散できるのに。ユーリは溜息をつき、ゆっくりと頭を垂らした。
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