第5話 ~エピローグ~
「また来てくださいねー」
カランカラン、と扉をくぐり抜ける最後のお客さんを見送ると、眞島は扉に掛けてあるプレートを『close』に変えた。
「今日も働いたなー」
「僕寝るタイミング逃して眠いー……」
「なぁに言っているのよ。あたし達の時間はこれからでしょう?」
「ツカレタ! ツカレタ!」
好き放題に喋る彼らを個室へ移して「今日も一日お疲れさま」と一日の疲れを労う。
ここは様々な動物達と人間の集う憩いの場。動物好きの人、癒しを求める人、一人でゆっくり過ごしたい人。目的があってやって来る。
悩みがある人も、最後は必ず笑顔でこの店を出ていく。そして「また来るね」と動物達に約束を交わしていった。
元々、眞島自身が動物かふぇを立ち上げたきっかけも、そんなところだ。就活時代に思うような就職ができず、組織の中で息苦しさを感じた頃、動物セラピーというものを知ったのだった。
猫カフェや犬カフェと限定しては、各々が好きな動物が選べない。一人ひとりが自分の目で好きな動物を選び、時間を共有することの方が、きっと癒しに繋がると信じていたのだ。
そうして、 ここ『動物かふぇ』が誕生した。有り難いことに立地にも恵まれ、常連のお客様も増えてきた。
彼らは、人の心に寄り添うのが上手いのだ。人間の言葉を分かっているのではないかと思うほどに。実際に、多くのお客様の話を聞き、時に励まし、時に慰め、時に背中を押している。
血の繋がっていない親子や自分の居場所を見つけたい少女、意を決して結ばれた夫婦、今は遠くに引っ越してしまった夢を追いかける学生―――。
みんな、彼らの存在に力をもらっている。
眞島自身、彼らに救われているところがあるのだ。
彼らとは、動物保護会で出会った。ちょうど、動物セラピーのことを勉強し始めた頃だった。そこは、多くの動物たちが人間に捨てられたり、虐待されたりと心に傷を持っている子達ばかり。
その中でも彼らの目だけは、違ったのだ。
人間を信じて疑わない眼差し。
心に傷を負いつつも、光を失ってはいなかった。その目を見たときに、『この子達だ』と直感した。自分のやりたいことが見えた気がしたのだ。彼らなら、人々の癒し以上の存在になると――。
そうして、今に至る。
「眞島さんー、夕飯ちょうだいー」
「僕は寝る……」
「あたしは、この前もらった高級マタタビがいいわ」
「チョウダイ、チョウダイ!」
好き放題に言う彼らに思わず、口元が綻ぶ。
「はいはいー。順番だぞー」
明日は、どんな人が来るだろうか。
きっと彼らは、また多くの笑顔を生み出してくれるだろう。
好物にありつけて、嬉しそうに頬張っている彼らを眞島はいつまでも飽きることなく見続けた―――。
Fin
癒しのゆりかごWing 玉瀬 羽依 @mayrin0120
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます