第4話

橋爪が放課後約束の場所に着くと、携帯がブブッと反応した。佐藤からの連絡である。LINEを開いてメッセージを確認すると、なんと彼女はその回転寿司屋に入っているそうなのだ。『「個室の佐藤です」って言って入れてもらって!』と言っているのでその指示に従うと、その通りに案内された。中には私服姿の佐藤がいた。

「ごめんねー、呼んじゃって」

比較的軽いノリで謝ってくるが、いやいや、と顔を綻ばせながら橋爪は返した。

「付き合うにあたって、私のことを色々話したくてさ。私の奢りだから好きに食べていいよ、話を最後まで聞いてくれたら納得してくれるはずだから」

そう言って、彼女は話し始めた。橋爪はその前にサーモンを数種類握ってもらい、それを食べながら話を聞いた。



佐藤奈琉香というのは彼女の別名である。

本名は繰鳶鳴夏。日本の産業の父と言われる繰鳶家の一人娘だ。

繰鳶家の歴史は古い。

平安時代、藤原家の傘下にあったお公家衆の一派が繰鳶家の源である。

当時、鳶を好んでいた宮中の者たちにその存在を教え喜ばせていた集団がいた。その数人の集団は「鳶を操り連れてくるかのようである」様から「繰鳶」と呼ばれた。その役職は代々引き継がれることとなった。

数代後の繰鳶の集団は戦争の最前線で戦死してしまう程の低身分になっていたが、その内の一人が多く戦争に生き残り、繰鳶の仕事を忘れずに続けていたことから、名前として繰鳶を与えられた。

身分も引き上げられ、再び公家として、繰鳶家を建てるに至ったのである。

そこから江戸末期、公家が公家としての生活を残していた頃、繰鳶家32代当主繰鳶直親(なおちか)が公家から商人に転職。雑貨屋を建てることを天皇に相談した。当時の天皇はそれを快諾し、多くの金銭を融通した。

そこから数代後に大政奉還が起こり、武士の世が終わると同時に繰鳶家の雑貨屋は大きく繁盛するようになった。農家と契約して食品加工を始めたり、鍛冶屋と契約をして日用品を製造したり、多くの産業を始め、それを技術と共に広め、今ある日本の形を作ったのである。



「そして、現代。繰鳶の一族は日本各地に散ったの」

そこまで話した佐藤......繰鳶は、茶をぐいっと飲んだ。

「本家は私の家。私の父、39代目が札幌の開発途上な状況に目をつけて」

彼女は少し周りを見渡して

「この札幌の商業エリアを作って、JRタワーを建てて、さらにその周りを発展させたの!」

と意気揚々と語った。

橋爪はその場その場で全て納得しながら話を聞いていたので、今寿司を食べ終わった彼が「奢られる」ことにも納得がいった。

要するに、繰鳶家という由緒ある一族の先代である彼女の父が、繰鳶家の財産を使って札幌の中心部のエリアを作ったということか、と橋爪は理解した。

「話聞いてくれてありがとうね」

繰鳶は嬉しそうに言い、足元にあった紙袋を橋爪に渡した。

「これ、お礼。この後夜時間あるよね?映画見に行こうよ!」

紙袋の中はどうやら私服らしい。橋爪はカレンダーを一応確認し、その誘いを受けた。


2人で店を出た橋爪はトイレで服を着替え、仲良く上のフロアの映画館に消えていった。


橋爪が家に着く頃には22:00を過ぎていた。

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陰陽恋 西村しゃど @Nishimurashad

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