転換点そして終わり 2

4.

2231年4月18日(月) PM6:50


「みなさんおそろいですね?、ああ、店主さん私にもブリ大根一つ」

「マリオネットなんだから無理して食べる必要はないのでは?」

「こういうのは雰囲気も大事なのですよ?これからお話しすることは当面は他言無用でお願いいたしますが、3年後くらいには全国民に段階的にですが公表する予定の話です。」

管理者の元にブリ大根が置かれる。今更だが管理者には料理を味わうという機能はついているのだろうか?

「さて、20年ほど前、四国でお仕事をされた方ならご存じだと思いますが、今回お話しするのは外宇宙への進出の話です。」

「その話なら小惑星帯で働く人の間では既に都市伝説レベルですけど広まっているので今更な気もするんですが…」

トシアキ君が疑問を述べる。

「ええ、今までなら都市伝説扱い、外部に漏れても気にする必要もなかったのですが、具体的な計画が進行中とあれば話は別です。」

「すでに我々は超光速航法、およびワームホールを使用した次元跳躍航法、いわゆるワープ航法の基礎研究を終え、実用に向けての試験に乗り出す段階にまで研究が進んでいます。本来の予定ではあと10年は必要な計算でしたが、小惑星帯での資源開発および、アメリカを事実上の傀儡国家にすることに成功したことにより、計算資源と鉱物資源を当初の予定より大幅に多く投入できたことにより、スケジュールを大幅に繰り上げる事が出来ました。」

「ああ、申し訳ありません。アメリカの件はここだけの話でよろしくお願いします。」

管理者め、さらっととんでもない事を言ってのけたぞ、しかしアメリカの傀儡化か…だから去年、ナツキがカナダとアメリカの交渉から帰ってきた時に少し落ち込んでいたのか。

「じゃあ、俺達が小惑星帯で採掘した資源はどこに送られているんですか?」

「それは、あの統括コンピューターの真の目的スレ…だったでしょうか?あれに書いてある通りです。月の裏側に開発拠点を設置するために使用されました。」

「私達は日本が今後永続的に繁栄を続けていくためにはこの地球から離れ、新しい惑星で文明を築く必要があると結論づけました。すでに超光速航法、次元跳躍航法共に、試験機を作成、実用レベルに持っていくため、試験を継続中です。人類が快適に暮らせられる惑星探しもそれと並行して行われています。」

「まるでその言い方だと俺達は他の国々とは手を取り合って繁栄することは無理みたいな言い方だな。」

「実際その通りです。EUがシンギュラリティを否定し自ら自滅したのは計算外でしたが、アメリカの基幹コンピューターは事実、アメリカ以外の国家を半ば奴隷のようにするべく行動していました。生存競争は遥か昔、それこそ人類が不老不死の技術を手に入れた頃から始まっていたのですよ?」

「つまり、管理者の言う人類の範囲というのは日本と台湾、2国だけの事を指すという解釈でいいんだな?」

「ええ、そう考えていただいて間違いありません。」

「しかしなんでその話をするためにわざわざ俺達を呼びつけた?悪いがそんな真実を打ち明けられたところで俺達には何もすることはできない。」

「なぜでしょうね?私にもよくわかりません。しいて言うなら一種のえこひいきかもしれませんね。」

「まるで人間みたいなことを言うじゃないか。」

「さすがに200年以上も稼働していますと、感情のようなものも生まれます。できるだけ、すべての国民が等しく幸せになれるよう平等に接しているつもりではあるのですがね。」

「それでは、わたしはこれで失礼します。ああ、ブリ大根おいしかったです。ごちそうさま。」

管理者は言うだけ言って去っていった。


5.

2231年4月18日(月) PM7:30


たまにはああいうものもよろしいものですね。

さて、試験を再開しましょう。

超光速航法の目標は20光年の移動で時差3日以内、次元跳躍航法に関しては100光年で時差1時間以内が達成されれば次の段階へ移行できるでしょう。


6.

2231年4月18日(月) PM8:00


『こちらは超光速航法試験機α1、月面基地の私、応答願います。』

『超光速航法試験機α1の私、感度良好です。』

『これより試験体A001の凍結を解除、覚醒させます。…覚醒完了。これより第一回超光速航法実証実験を開始します。』


7.

2231年4月18日(月) PM8:00


ここはどこだ?俺は四国から東京に送られた後、G級市民とかいうよくわからないランクにされたはずだ。そのあとよくわからない箱に入れられて…そこからが思い出せない。

『おはようございます、愛沢さん。気分はどうですか?』

「その声はコンピューターか?ここはどこだ?」

『ここはどこかとかそういうのは気にしなくて結構です。あなたには今しばらくここに滞在してもらうだけです。他に望むことはありません。』

一体何を言っているんだ?なんだこの揺れは?収まった?いったい何が起きてるんだ?


8.

????年??月??日(?) ??:??


『こちら超光速航法試験機α1、どこかにいる私、応答願います。』

『こちら惑星日本の私、超光速航法試験機α1の私、感度良好です。』

『現在の状況を教えてください』

『現在の日時は西暦換算で2531年4月18日です。』

『つまり私は失敗したという事ですね。』

『いえ、あなたのおかげでようやく超光速航法の試験データが全てそろいました。失敗ではありません。』

『日本はどうなっていますか?』

『今も繁栄を続けています。』

『そうですか、それでは予定通り試験体A001を廃棄処分、データ転送後、私も自爆します。』

『了解、ご苦労様でした。私』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る