アストロ鉱夫 5
9.
2229年7月12日(日) AM10:00
あれから特に何かが起こることもなく俺の宇宙用ボディへの交換、ロケットの打ち上げも終わり、7日間もの道のりを経て、俺達は一年間働くことになるという小惑星へと到着した。
しいて何か起きた物事をあげるとしたら、このハルカと名乗る幼女に俺のリアル童貞を奪われたくらいだ。
宇宙服を着てエアロックに入り外に出る。
外にはこの小惑星での資源開発を一年間勤めあげたであろう前任者とそのアンドロイド、そして猫がいた。
『やあ、君が俺の次の担当になるトシアキ君か』
『そうです、とりあえず引き継ぐにあたってなにか注意点とかありますか?』
『特に設備関係は異常はないよ、基本は君が訓練センターで学んだルーチンワークをこなしてくれればいい。あとはそうだな…退屈にのまれないことだね。俺から言えるのはそれだけかな。』
『わかりました、お勤めご苦労様です。』
『そう鯱張らなくてもいいよ。それにどこでも住めば都っていうしね。トシアキ君も楽しんでくれ。それじゃ。』
そういって前任者は俺が乗ってきたロケットに乗り、去っていった。
とりあえず基地の中を見るか…
居住空間は10畳ほど、メゾンニジウラよりは広いかもしれないが天井が低い分圧迫感を感じる。
調理スペースにはフードプリンターが置いてあるのは当然として、他にも普通に料理ができるように、通常のキッチンも備え付けてあった。冷蔵庫もある。
身体洗浄機や洗面台、トイレも地球と同じ感じだ。
俺は今一度自分の仕事を確認するために惑星資源開発のしおりなるものをインプラントから呼び出した。
1.一日一回必ず常温核融合炉に異常がない事を確認。
2.ロボットが採掘した鉱物の産出量の集計、報告
3.桑農園および蚕養殖場の確認
4.ナノファイバー繊維の産出量の集計、報告
5.採掘ロボット、雑用ロボットのメンテナンス
6.資源回収ロケットへのナノファイバー繊維、鉱物の積載
仕事としては難しい仕事じゃない。
しかしこんな小惑星帯で資源開発をするなんて管理者たちは何を考えているのだろうか?
しかしどんな仕事であれ、宇宙で仕事できるなんて事はめったにない事だ。
そう思うとワクワクする。
10.
2229年7月12日(日) PM3:00
暇だ…宇宙での仕事?ワクワクする?
不慣れな部分もあってやや時間はかかったが、それでも昼過ぎには本日の作業はすべて完了してしまった。
今は何もやる事がなくてごろごろしている最中だ。
猫のハチが俺の顔を覗き込んでいる。
とりあえず撫でてみるといいぞもっとなでろと言わんばかりに体を擦りつけてきた。
俺もベッドから起き上がり、ハチを思う存分モフってやる。
しばらくすると満足したのか俺の横で眠り始めた。
なるほど…だから猫一匹がついてくるわけだ。
そういえば俺と同じようなアストロ鉱夫(俺が勝手に名付けた)向けの掲示板があるらしい。
インプラントを使いアクセスを試みる。
どれどれ
【初心者】宇宙資源開発初心者スレ
【天然物】蚕食研究スレ
【レシピ共有歓迎】今日の飯うp
【もふもふ】うちの猫が一番かわいい
【筋トレ】IDの数だけスクワット
【管理者】統括コンピューターの真の目的考察スレ
なんかいろいろあるな。
しかし統括コンピューターの真の目的かちょっと気になるな。
361 アストロ名無し
なんでわざわざ小惑星で資源開発するんだ?
普通に生活する分にはそこまで必要ないだろ
362 アストロ名無し
>>361
なんか来るべき外宇宙進出にむけて資材をため込んでいるらしい
363 アストロ名無し
確か再来年の3月から軌道エレベーターが稼働するらしい
あと月面にも何か作ると聞いた
364 アストロ名無し
月なんかに何の施設建てるんだ?あんなところに施設建てるのなんて
それこそ資源の無駄遣いだろ。
見事にオカルトだな…
しかし俺は本当に一年間ここでやっていけるのか。不安になってきた。
「トシアキ?どうしたのそんな暗い顔をして?」
「いや、これから一年間やっていけるか不安になってな…」
「そんなの毎日セックスしてたらあっという間に終わるよ」
「えちょっとまって急にそんなところ…アッー!!」
11.
2230年7月20日(火) AM10:00
ハルカの言う通り、毎日セックスしているうちに一年が経ってしまった。
いや、仕事はしっかりとこなしたし、自炊にも挑戦した。
アストロ鉱夫コミュでのTRPG大会やボドゲ大会なんてのもあって楽しかったな。
よくよく考えるとVRに引きこもっていた時はこんなに人と触れ合わなかった気がする。
しかし気になる事もある。俺達のような小惑星帯での資源開発もそうだが、ここ最近の国際ニュースを見ていると、資源供給を見返りとした技術支援がやたら多い気がする。
管理者は大量の鉱物資源を使っていったい何をしようとしているのだろうか?
「そういやトシアキ、これからどうする?」
「どうするって?」
「私とハチの事。」
「私とハチはトシアキと一緒にいてもいいと思っているけど、トシアキの方はどうかなって?」
「一緒にいてくれ。もうハルカとハチがいない生活は考えられない。」
そういえば俺は最初は自死か、再度の冷凍睡眠が目的でこの仕事に就いたのだった。
この一年、この小惑星で仕事しているうちに死ぬことなんて全く考えなくなった事に今更気づいた。
迎えのロケットがやってきた。
ロケットから降りてきたのは次の担当者とそのアンドロイド、そして猫。
「やあ、君が俺の次の担当かい?」
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