アストロ鉱夫 4

7.

2229年5月13日(水) AM10:00


俺はメガロシティ郊外にある訓練センターに来ていた。

これからここで俺を一か月かけて宇宙に行ける人材に仕上げるわけだ。

とはいっても、一か月でできる事なんてたかが知れている。

学ぶのは宇宙服の着方、エアーロックの使い方、注意点、各種マシンの一般整備、修理設備の操作方法、フードプリンターの使い方にナノマテリアルプリンターの使い方…etc


実際の所俺達が日常的に使っているような道具がほとんどだ、もしナノマテリアルプリンターとフードプリンターがこの世になければもっと大変な事になっていたのかもしれないが…


俺が小惑星基地で生産するのは、水と鉱物資源、そして絹糸だ。絹糸と言ってもタダの絹糸じゃない。遺伝子操作によって超強力なナノファイバー繊維を生み出すように改良された蚕を使用して生産するという。それこそナノマテリアルプリンターで作ればいいのではという話だが、これからの開発計画でこのナノファイバー繊維が大量に必要な事から、その物を直接生産した方が安いとのこと。

蚕の蛹や桑の葉の幹、根は有機ナノマテリアル転化装置に放り込めば雑用メカたちの生体部品の修理パーツ、ついでに俺の飯にもなる。

実に無駄のないシステムだ。


訓練自体はとにかく単調だ。頭で考えるより先に体が動くようになるように訓練する。

それ以外の難しい所はインプラント任せという事だ。

前世紀では宇宙飛行士と言えば、アストロノーツと言われ、大勢の才能のある志願者からさらに選抜したエリート中のエリートだったらしい。

それが今じゃ一か月の即製教育で作り上げられてしまう。

自分の出発日も教えてもらった。7月5日だそうだ。出発の数日前までには相棒となるA級アンドロイドと猫が用意されるらしい。

猫はともかく、A級アンドロイドは以前から欲しかったものの一つだから楽しみだ。

しかし、一つだけ気にかかる事がある。普通個人向けに作られるA級アンドロイドは、自身の手によって見た目、性格等、ある程度は好きに弄れたはずだ。

しかし今回は、一切弄らせてもらえない。そのことを担当の教官に質問したら、そういうものだから、少なくとも俺との性格のミスマッチは起きないようには調整するとのこと。

性格はともかく俺としてはMOGファクトリー製の肉感溢れるボディーが好みなのだがその点はくみ取ってもらえるのだろうか?


8.

2229年7月2日(水) PM1:00


今日、俺の相棒となるアンドロイドと猫が来るらしい。

訓練は今日の午前中で完了、明日、明後日は、A級アンドロイドと猫との親睦を深めてほしいとのこと。

残念ながら外出はできないが、その分広々とした部屋を出発までの待機スペースとして使わせてもらっている。

リソースポイントもいくらか支給された。これでうまい物でも食って英気を養ってくれという事らしい。

部屋がノックされる、どうやら俺の相棒が到着したようだ。

軽い足取りでドアへ向かいそして開ける。…誰もいない。

「はじめまして、ハルカといいます。」

下から声がする、声がする方へ顔を向けると俺の相棒となるA級アンドロイド、ハルカがいた。

「よろしく…トシアキです…」

俺はショックで固まっていた。

俺の相棒となるA級アンドロイドは、Lolandテクノロジー社製ボディ身長およそ110cmの幼女だった


「ねぇトシアキ?トシアキくん?トシアキ様?トッシー?トシちゃん?」

俺がショックで固まっている間ハルカは俺の事を色んな呼び方で読んでいる。

「トシアキでいいよ…」

「じゃあトシアキ、この子にもちゃんと名前を付けてあげて?ちなみに男の子だって。」

彼女が持っていた箱の中には猫が一匹収まっていた。

白と黒の何とも言えない模様の猫だ。

急に猫に名前を付けろって言われても、一度もペットを飼ったことがない俺は答えに窮してしまう。

「そういえば、この子の額の部分、綺麗に黒と白にわかれてるでしょ?こういう柄をハチワレっていうんだって。」

ハチワレ…ハチ…そうだハチだ

「よし、このこの名前はハチにしよう。」

「うん、ハチ、いい名前じゃない?」

それはそうと、なんでLolandテクノロジーのボディのアンドロイドが俺の相棒なんだ?ボンキュッボンが好きな俺にとってはこれはミスマッチでしかない。

そのことをあまり傷つかないようにオブラートに包んで聞く。

「ところでなんでLolandボディなんだ?小さすぎて、色んな作業をするのには大変なんじゃ?」

「むしろ小さい方がいいんだよ。小惑星の中の居住区ってあんまり天井の高さがないしね、そうそう、これ渡すの忘れていた。はいこれ。」

なんだこれは?明日7月3日、10時に宇宙向けボディに意識転送作業を行います…

「なぁ、宇宙向けボディってなんなんだ?」

「万が一、体一つで宇宙に放り出された時に脳だけは無事に保護されるように作られているんだって。あとトシアキは身長問題ないからそのままだけど、180cm以上あると160cm代まで身長落とされるって話だよ。」

「ちなみに私の体も宇宙用ボディ、具体的には回復力と力が弱くなっているかわりに省エネ設計になってる。」

「それじゃMOGファクトリー製のボディとかは…?」

「完全NGだよ、女の人で宇宙に行く人は最低でもMZRK製、可能であればLorandボディに交換させられるよ。」

「ひょっとして、トシアキ君?童貞?大きい体がいいのもわかるけど小さい体もいいものだよ?」

「どどど童貞ちゃうわ!」

現実世界では童貞だったがVR空間では経験あるので童貞ではないはずだ…多分…

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