アストロ鉱夫 2
2.
2229年5月10日(日) AM10:10
時間きっかりに部屋を追い出された俺は冷凍睡眠者再生センター前にいた。
新しい住まいに行くためにインプラントでコミューターを呼び出す。
F級市民になってわかったことだが、あらゆるサービスがクラスが上の市民の方が優先される、結果不便まではいかないにしろ、C級市民時代と比べて明らかに待たされる。
ようやく来たコミューターに乗り俺は新しい住まいに向かった。
3.
2229年5月10日(日) AM10:30
目的地に着き、俺の住まいとなるアパートの一室に入る。
メゾンニジウラ、築2年、八畳一間、洗面台、トイレ、身体洗浄機別、家具一式付き。
確かに手狭ではあるが、最低限の家具はそろっている。フードプリンターとナノマテリアルプリンターもあるので食事や身の回りの事には困らないだろう。
インプラントで替えの服や部屋着、その他諸々を一式注文する。
届くのは明日、リソースポイントを使えば特急便で数時間も経たずに到着するのだが、F級市民に与えられるリソースポイントはお世辞にも多いとは言えない。
とりあえずベッドに横になりVRを起動させる。
どうやらVR世界における俺の資産はそのままのようだ。立派な豪邸、車庫には数々のクラシックカー、俺をもてなすメイドたち。何も変わっていない。
ひとまず何も変わっていないことを確認してVRから切断する。
もともとVRに飽きて冷凍睡眠した身だ。50年寝ていたとしても俺の感覚では昨日寝て起きたぐらいの感覚でしかない。
とりあえず現実の我が生活環境を改善するべく求人サイトを開く。
手っ取り早く評価ポイントをあげるのならば、労働するのが一番だ。
「タンポポをトレーに載せる仕事…倒れたペットボトルを元に戻す仕事…ねじを締める仕事…」
見事なまでに単調な単純作業しか見つからない。
一応俺達みたいな連中を救いたいとは考えてはいるのだろう。D~F級労働者は評価ポイント割り増し支給となっている仕事が多い。
時計を見たがまだ昼前といったところだ。
「散歩にでも行くか…」
俺は持て余した時間を少しでも潰すために散歩に出かけた。
3.
2229年5月10日(日) AM11:30
相変わらず外には誰もいない。50年程度ではそこまで世界は変わらないようだ。
特に何をするわけでもなくブラブラ幹線道路の脇の歩道を歩く。
遠くから内燃機関特有の音が聞こえる。どうやらこちらに向かっているようだ。
R32スカイラインGT-R、俺のVR世界でのクラシックカーコレクションにもあった一台だ。
VRではなく現実で所持する、おそらく持ち主はAかS級の市民だろう。
俺が現実であれを持つにはあと何年生きなければならないのやら…
羨望と嫉妬が入り混じった微妙な気分になりつつも散歩を続ける。
ふと左横を見ると、小さな路地に入る道を見つけた。
旧世紀の商店街を模した地域であろうか?様々な店が立ち並んでいる。
店員は見たところB級かC級アンドロイドだ。肉屋に立ち寄りコロッケを注文する。
どうやら材料はフードプリンタ製だが調理は実際に行っているようだ。
フードプリンタで作ったコロッケよりか幾分かはうまい。
商店街をブラブラ歩いていると、居酒屋らしき建物を見つけた。
なぜかわからないが気になりドアの前に立つ…ドアが開かない
よく見ると自分の手で開けてくださいとの注意書きが書いてある。
それに従って自分の手でドアを横にスライドさせ入店する。
「いらっしゃい」
珍しい、店主はどうやら人間のようだ。
あとは店員としてA級が一人、あとはB級だ。
「お客さん、すまないけどドアを閉めるのも手動なんだ。」
言われて初めて気が付いた。
手で開けないと開かないドアが勝手に閉まるわけがないのだ。
「好きな席に座ってよ。個人的にはカウンターに来てくれると嬉しいけどね。」
見た目は20ぐらいであろうか、メジャーなMZRK製ボディだ。
「リソースポイントほとんどないんだけど大丈夫ですか?」
人間がやっている店は対価にリソースポイントを要求する店もあるので確認する。
「大丈夫だよ、うちは一切リソースポイントは取っていない。」
どうやらここは大丈夫のようだ。
俺の前に蒸し豆腐が置かれる。
「まだ注文していないんだけど?」
「突き出しってやつだ、それでもつまみながらのんびり頼むものを決めてくんな」
こういう店が初めてなのでよくわからないが、どうやらそういうものらしい。
それにしても不思議な空間だ、おそらく20世紀後半から21世紀初頭にかけての雰囲気を再現しているのだろう。
壁面大型モニターはなく、かわりにノステクなモニターが置いてある。
モニターは様々な番組を映し出す。今は国際ニュースだ。
あいも変わらずEUは食糧難に喘ぎ、アメリカは東西分裂して戦争中。
こんなところまで50年前と一緒じゃなくてもよかろうに…
ニュースの途中で政府広報に切り替わる。
さっき求人サイトで見た単純労働についてだ。国のために貢献しようか…
『みんな!宇宙に行きたいか!期間は一年、小惑星帯で水と鉱物を掘り出すお仕事!何をすればいいのかわからない?大丈夫!大抵の仕事はメカ任せ!君はそれを監督すればいい。何かがあっても大丈夫!優秀なカウンセラーが君をバックアップ、一人じゃ寂しい?大丈夫!A級アンドロイドが一人と猫一匹がついてくる!君は孤独じゃない。一年働くだけでF級市民でもS級市民になれる特典付きだ!さあフロンティアスピリットに燃える君!宇宙が君を待っている!』
なかなかに大盤振る舞いだ。S級になれば自死施設も待ち無しで使えるし、再度冷凍睡眠を行うこともできる。以前は審査で落ちたA級アンドロイドも無条件でついてくるらしい。猫はよくわからん。
このままじゃどうにもならないんだ。よし、応募しよう!
「はい、だし巻き卵と日本酒」
「あの、まだ注文してないんだけど」
「お客さんいつまでたっても注文してくれないから待ちきれずに作っちゃったよ。」
人間がやっている店は趣味でやっているようなものだ。だからこういうおせっかいを焼かれることもある。
「えと、はい、いただきます…」
とりあえず、出された卵焼きを取り口に入れる。絶妙な焼き加減だ。
焦げ目を作らず、卵から濃厚な出汁の味が感じる。これは相当修業しないと作れない料理だ。
日本酒はどちらかというと辛めだ。
甘めのだし巻き卵とよく合う。
「おでんとかってあります?」
「あるよ、何食べる?」
「お任せでお願いします。」
「あいよ。」
とりあえずこの店はこれからも来よう。家でフードプリンタで作った食べ物を食べるよりかははるかにいい。
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