アストロ鉱夫
アストロ鉱夫 1
1.
2229年5月9日(土) AM9:00
『・・・を開始、現在の意識の転送率50%…60…70…』
聞き覚えのある無機質なシステム音声が聞こえる。新しいボディへの意識転送作業だ。
しかし俺は確かに冷凍睡眠期間1000年で眠りについたはずだ。
『転送率100%…エラーチェック異常なし、インプラントと脳の接続…オールグリーン、意識転送作業はすべて完了しました。』
俺の顔をふさいでいた意識転送ユニットが格納、生体保護用ジェルが排出され、生命維持マスクも格納される。
キャノピーが開き、背もたれが持ち上がり、俺を座った状態に移行される。
ふと右を見るとコードが刺さった脳髄と思われる物体が俺の横に置いてある。そこから俺が今いる転送ポッドにケーブルが繋がっている。
状況を整理するに、俺が寝ている間に何らかの合理化が行われ、冷凍保存される部位は脳髄だけになったって事だろう。
視界の左端にメッセージが現れる。インプラントも正常に動作しているようだ。
SYOアドバンステクノロジー社製 少年ボディを御愛顧していただきありがとうございます。
この体があなたの生活に役立つようお祈りします。
どうやら俺が12歳の成人時に選んだSYOアドバンステクノロジー社製のボディが使われているようだ。ということは恐らくだが今の体は冷凍睡眠前とほぼ同じ体だと思う。
インプラントを使い日付を確認する。
2229年5月9日(土) AM9:13
確か俺の記憶だと俺が冷凍睡眠に入ったの2179年のはずだ、たった50年しか経っていない。どういうことだ?
『お目覚めですか? トシアキ様』
『誰だお前は?』
『わたしはこのメガロシティ東京の管理コンピューター群です。』
『管理者様が何の用だ?それ以前になんでたった50年で冷凍睡眠を解除した?』
『2208年に長期休眠防止法が適用され、冷凍睡眠の上限が50年となりました。また、再度冷凍睡眠を行うには1年の待機期間が必要です』
どうせ半ば自死目的で行った冷凍睡眠だ、だったら自死施設に行けばいい。
『わかった。自死施設の予約を取ってくれ。』
『わかりました…現在の自死施設の予約は約3年待ちとなっております。』
『どういうことだ?俺の記憶が正しかったら自死施設で予約待ちなんてなかったはずだ。』
『トシアキ様同様F級市民様方が大勢予約された結果でございます。それとS~D級市民様の自死が優先されますので、どうしてもF級市民様だと待ち時間が発生してしまうのです。』
『F級?俺は確かC級だったはずだ。どういうことだ?』
『冷凍睡眠施設を利用する際にご説明いたしましたはずですが、どうやらお忘れのようですので再度ご説明します。冷凍睡眠施設を使用する場合、冷凍睡眠にリソースを使うだけで、一切の生産行為を行わない冷凍睡眠者は貢献ポイントが下がる一方だという事です。』
VR引きこもりでもうんこ製造機としてはメガロシティの役には立っていた。それすらもしない冷凍睡眠者はそれ以下という事らしい。
『わかった。それで俺はどうしたらいいんだ?さすがに素っ裸で住居も無しに放り出されるのは勘弁してほしいんだが?』
『トシアキ様には本日はこの施設でお休みいただきます。その時に住居のご案内をいたしますので、お好みの住居をお選びください。また服はトシアキ様が冷凍睡眠する前に着られていた服を再現して用意させていただきました。』
さすが管理者様だ。F級市民に落ちてしまった俺相手でも生きるのに必要なサポートはしてくれる。
『あちらの扉の向こうに身体洗浄機がございます。そこで体を綺麗にしていただいて、それからお召し物を身にまとってください。』
確かにこんなところにずっと居座っても意味はない。俺は管理者の指示に従い、身体洗浄機で体を洗い雑用メカから衣服を受け取る。しかしあいかわらず実用一辺倒でセンスもないメカだ。
衣服は確かに依然と同じもののようだ。黒のミニタンクトップに黒のスパッツ、ミリタリージャケットに黒を基調にしたテクノスニーカー。どうせついさっきマテリアルプリンターで製造したものだろうが、それでもなんとなく懐かしさを感じる。
雑用メカに連れられて、ある一室に案内される。他にも俺と同じように起こされたであろう解凍者が俺と同じように雑用メカと一緒に歩いている。
案内された部屋は無機質な白い部屋だ、一人用のダイニングテーブルに、椅子、壁一体型大型モニタ、そしてベッド、二つの扉の先は一つはトイレ、もう一方は洗面所と身体洗浄機の部屋だ。
少々手狭だが一晩の仮宿としては問題はない。
『トシアキ様、こちらがF級市民向けの住宅一覧となります。こちらの部屋の滞在期間は明日の十時までとなっております。それまでに住居を決める事をお勧めします。』
『そういえば、食事とかはどうすればいいんだ?』
『インプラントを使ってルームサービスをお選びください。』
インプラントでルームサービスを選ぶとなるほど、この部屋で滞在するのに必要なものは一通りそろっているようだ。とりあえず今日のモーニングセット(洋)を注文しておこう。
食事は5分とかからず自分の部屋に到着した。
フードプリンター製だ。そんなものだろう。
焼いたトーストにメープルシロップ。スクランブルエッグに生野菜のサラダ、そしてコーヒー
「ま、悪くない食事だな。」
俺は朝食を食べながらインプラントでF級市民向け住宅を検索する。
わかってはいたが狭いし、雑用メカの数も1体か2体程度だ。VRに引きこもればそれでも関係ないのだが、あいにくF級市民向けの住宅にはコフィンユニットがある部屋は一切ない。
冷凍睡眠前に俺が使用していたコフィンルームと呼ばれる、コフィンユニットと最低限の設備しかついていない部屋でも、Cランク以上だ。
「諦めて現実世界で生活しろって事か…」
俺は覚悟を決めて自分の住まいとなるF級市民向けの住宅を探し始める。
といってもF級市民向けだ、違いは住居の場所ぐらいしか違いがない。
俺は適当にコーポニジウラを選択した。
死ぬだけならロープで首をくくるだけでもいいのだろうが、あいにく俺にはそんな度胸はない。
ベッドにあおむけになり、これからの退屈な日々に向けてどうしようかと俺は思案し続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます