東西アメリカ資源供与要請 14
30.
2230年2月7日(日) AM10:00
出発前と同じ会議室で今回の仕事のアフターミーティングが始まった。
「皆様休日出勤お疲れ様です」
「まず最初に今回の件についてですが、カナダでの食糧支援協定を除いて他言無用でお願いします。ようするにかん口令を敷かせていただきます。」
それは当然だ、今回の東西アメリカ基幹コンピューターの破壊工作の主犯者は私達だ。
「ユニットαおよびユニットΘの皆様、今回の仕事は当初の我々の計算をはるかに上回る結果を出すことができました。我々はあなた方を大いに評価します。」
「では今後の日米間の方針ですが、予定通りわが日本が東西アメリカ両国に基幹コンピューターの代替機を設置することで既に調整が始まっております。当然ですがアメリカに提供される基幹コンピューターは我々の管理下にあります。つまり、今後は我々の傀儡として働いてくれるという事です。」
「これにより、長年続いてきたわが国に対する、技術供与要請、資源供与要請などはなくなります。あとはせいぜい東西でにらみ合っていただき適度に消耗してもらいましょう。」
「また予定通り、α、Θ両ユニットが育成した、兵士、戦士達は今回の基幹コンピューター破壊工作の主犯として両国の英雄、テロリストとして世間に公表されます。」
「両基幹コンピューターの破壊により、我々が関与したという痕跡もなくなりました。全てが当初の計算を大きく上回る結果です。」
「それでは皆様、今回の長期間のお仕事大変お疲れ様でした。良い休暇を。」
31.
2230年2月7日(日) PM1:00
私は今回の仕事が終わった報告と休息を兼ねて実家に身を寄せていた。
向こうにいる間ずっと気が張っていたのだろう。リビングのソファーに座ったところで、一気に眠気が押し寄せ、私は意識を手放した。
31.
2230年2月7日(日) PM4:00
「・・キ、・ツキ・ナツキ!」
「・・・ん、おはよう、母さん。」
「ナツキ、疲れているのはわかる。調子が悪いならソファーでなくベッドで寝る。」
「もう大丈夫、ありがと。」
窓の外をみると日が落ち始めている頃だった。
思った以上に長く眠ってしまっていたらしい。
ふと横を見ると、ランが私の体に身を寄せて眠っていた。
わがままで無愛想な奴だがこういう時だけは妙に察しがいい。
私は横で寝ているランを撫でてやる。
ランは私を見ると好きにしろと言わんばかりにまた丸くなって眠り始めた。
32.
2230年2月7日(日) PM7:00
今日の夕食はちょっと変だ。
比較的和食が並ぶ我が家なのだが、今日の食事はどちらかというと酒の肴的なものが多い。
親父が嬉しそうに冷蔵庫で冷やしたアイスワインを持ってくる。
「ナツキありがとうな。これ日本のフードプリンタでも作れなくて難儀してたんだ。おかげで200年ぶりにこいつが呑める。」
「今回の仕事でメープルシロップとワイン類の協定が結ばれたから直にフードプリンタでも作れるようになるし、輸入品という形でも手に入ると思うよ。」
「それはいいニュースだ、それだけで俺はナツキが外交官になってくれてよかったとつくづく思うよ。」
「ところでこの皿の上に載っている奇妙なものは何?見た感じ貝のアヒージョみたいな感じだけど?」
「それは貝の一種、味は保証する。」
「これと、アイスワインの組み合わせは絶品だぞ。ほら、ナツキも試してみろ。」
「ルカにぃ~ミクにも!ミクにもちょうだい!」
「わかってるって、ほら。」
親父の言う通りとても甘いアイスワインと奇妙な貝の組み合わせはとても良かった。
「親父、これうまいね、ワインの甘さと貝のしょっぱさが絶妙な感じでマッチしている。」
「そうだろ?それと親父はやめてパパと呼んでくれないか?」
「やだよ、親父。」
「それで親父、これ貝の一種って言っていたけどいったい何なの?」
「ああ、それはエスカルゴだ、カタツムリの一種だよ。」
「ゲッ!」
私はアメリカで食べたコオロギをすりつぶした肉もどきを思い出す。
「どうかしたか?まぁこいつは初めての一口だけは躊躇するんだ、俺もそうだった。」
「まぁ確かに、見た目はともかく普通にうまいけどさ…」
「ルカ、私にもワインお代わり」
「ああ、好きに自分で注いでくれ、何ならもう一本開けるから。」
「そういや、親父が酒飲んでいるの初めて見た気がするよ。」
「ああ、別に嫌いではないが特別好きでもないからな。でもこのアイスワインだけは別だ。」
どうやらこのお酒は親父にとっては特別なお酒らしい。
家族の食卓にいろどりが一つ増えた、それだけで今回の仕事はやってよかったように思える。
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