東西アメリカ資源供与要請 13
28.
2230年2月2日(火) AM8:00(バンクーバー時間)
いい朝だ、2か月にわたる長期間の仕事も終わり、今は、バンクーバー国際空港のハンガーを間借りして、休息中だ。
隣のハンガーにはエーリカさんのローゼンキャッスル ツヴァイが停泊している。
明日から行われるカナダ食糧支援協定の協議だが既に要綱は定まっている。
こっちの仕事はただ事務的に淡々と進めるだけだ。
東西アメリカはともに基幹コンピューターを失い、統率が取れず瓦解。どちらも身動きが取れず、ラスベガスを境ににらみ合いを続けている。
私の予想ではそろそろ連絡が来る頃だ。
『ナツキ様、西アメリカ大統領ハロルド・ダンプ氏よりホットラインです。お繋ぎしますか?』
『ホットラインってまた遥か昔の遺物を使って連絡してきたね…繋いでくれる?』
『承知しました。』
『おはようございます。ミスター・ハロルド、一体どうなされました?』
『ミス・ナツキ、助けてくれ。東西の基幹コンピューターが同時に工作員の手で破壊されたのは知っているだろ?』
『ええ、もちろん、偶然にも停戦終了と同時に東の工作員が西の基幹コンピューターを破壊、時同じくして西の工作員が東の基幹コンピューターを破壊、偶然というのは本当に怖いですね。』
『世間話をしているんじゃない、基幹コンピューターを失って我が国は軍事行動はおろか一般インフラ、国民の私生活にまで影響が出ているんだ!ええい!君がだめならジョンだ!ジョンに替わってくれないか?』
『落ち着いてください、ミスター・ハロルド、私は西アメリカの味方です。先日のうちに我が国の中央と掛け合い、代替のコンピューターの手配を済ませてあります。』
『本当か!さすがはミス・ナツキだ。ことは急を争う、頼む、わが西アメリカを救ってくれ。』
『もちろん、大統領、お任せください。私が付いております。西アメリカを滅亡させることなんて絶対にさせません。』
『ありがとう、ミス・ナツキ、ありがとう…』
『いいえ、どういたしまして。申し訳ないのですが次の会談の準備がありますので。進展があればすぐに連絡いたします。』
「一国の大統領に頼られるなんて出世したもんだな。」
「これであの破壊工作が私達の仕業でなければ本当にいい話なんだけどね。」
「後悔しているのか?」
「ううん…ただちょっとだけ良心がね…」
「どの国も生き残りをかけて戦っているんだ。気に病む事は無いさ。」
「そうだね…」
29.
2230年2月5日(金) AM18:00(バンクーバー時間)
日本カナダ間の食糧支援協定はつつがなく終了した。
日本は一定量のカナダのメープルシロップ、ワインなどの高級資源の提供を見返りに、大型フードプリンターと有機ナノマテリアル転化装置の貸与を決定した。
カナダ側は、来年度以降は鉱物資源の日本への提供も視野に調整が進められている。
会談後の談笑中に、親父にメープルシロップとアイスワインを買ってきてくれと頼まれたことを思い出し、良いアイスワインがないか教えてくれと頼んだところ、ものすごく喜ばれ、無償で1ダースほどプレゼントされた。
メープルシロップに至っては樽で提供されそうになったのを慌てて止めて、同じく瓶で1ダースもらう形で決着がついた。
今回が、超長期にわたる仕事となったため、日本でのアフターミーティングが終了次第、4か月の休暇が約束されている。
休暇期間は何をしようか?そういえば今年は日本縦断レースの開催年だ。久しぶりに親父の車いじりを手伝うのも悪くない。
アルファ・ケンタウリは日本への帰路についた。
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