東西アメリカ資源供与要請 12

25.

2230年1月31日(日) PM20:00(米国中部標準時)


私達はカナダに設営した工作拠点から訓練が終わった兵士たちを回収し、エーリカ達との会合ポイントで待機していた。

訓練した兵士たちは、管理者と共に車内で待機している。

会合位置は、東西の基幹コンピューターの所在位置を三角の底辺として二等辺三角形の頂点となる位置だ。

エーリカの方も全て問題なく、現在私が待つ会合地点へ向かっている。

アメリカのクリスマス休戦は米国中部標準時、2月1日零時ちょうどをもって休戦が解除される。

実の所、管理者が東西の基幹コンピューターの所在地を特定した時点で、私達の勝ちは既に確定している。

これも全て量子通信のおかげだ。これのおかげで電波通信しかないアメリカは、管理者が操るジョンとジェーンが基幹コンピューターの部屋に入ったところで既に勝敗が決していたことに気が付いていない。

情報を制する者はすべてを制する。この原則は今も昔も変わらない。


エアーシップの飛行音が聞こえる。エーリカのエアーシップ、ローゼンキャッスル ツヴァイだ。

私達を見つけたらしくすぐ傍に着陸する。

「お疲れ様です、エーリカさん」

「ええ、ごきげんよう、ナツキさん」

一度同じ場所に着陸した事にはちゃんと意味がある。

『それじゃ、管理者お願い。」

『お任せください…完了しました。これよりナツキ様のアルファ・ケンタウリがローゼンキャッスル ツヴァイ、エーリカ様のローゼンキャッスル ツヴァイがアルファ・ケンタウリとして識別コードに表示されます。』

「時間もそろそろいい頃合いだし、私行くね。」

「ええ、お気をつけて。ああ…ナツキさんちょっといいかしら?」

「ん?何?」

「この仕事が終わったら一度どこか食事に行きません事?」

「いいね、お店選びはそっちに任せていい?」

「もちろん、おいしいお店をしっておりますの、楽しみにしていてください。」

「それじゃ、またカナダで!」

「ええ!ごきげんよう!」


船名をローゼンキャッスル ツヴァイに変更されたアルファ・ケンタウリは一路、東アメリカ、基幹コンピューター、フリーダムが置かれている基地へ出発した。


26.

2230年1月31日(日) PM23:30(米国中部標準時)


『こちら東アメリカ共和国航空管制、ローゼンキャッスル ツヴァイ、応答せよ。』

『こちらローゼンキャッスル ツヴァイ 通信状態良好、どうぞ。』

『貴艦のフライトプランは提出されていない。状況を説明せよ。どうぞ。』

『現在、エンジン、操作系統にトラブル発生。修理のため周辺に着陸する。どうぞ。』

『了解、修理のための応援は必要か?どうぞ。』

『修理箇所は特定済み、着陸次第こちらで修理可能。応援の必要は無し。どうぞ。』

『東アメリカ共和国航空管制。了解。なにかあったら連絡せよ。どうぞ。』

『心遣いに感謝する。どうぞ。』

どうやらうまくいったようだ。私達のアルファ・ケンタウリはワシントンD.Cを飛び立ったローゼンキャッスル ツヴァイが故障により迷走、不時着した体を装い、フリーダムの近くに着陸する。

後部ハッチを開け用意した車を船から降ろす。

『ごきげんよう、調子はどう?』

『最高の気分だ!東アメリカのクソ野郎の頭脳に一発かませるなんて!間違いなく俺は英雄だ!』

『ええ、間違いなくあなたは英雄になれる。』

『あんたらには感謝してるよ、あの時俺を拾ってくれなかったら今もロスの街の片隅で呑んだくれているだけだった。そんな俺にあんな天国みたいな場所を与えてくれた。もう思い残す事は無い。』

『念のため最後に手順をもう一度説明する、知っての通り中部標準時零時ジャストの停戦終了と同時に、西アメリカからの弾道ミサイル攻撃が、あのフリーダムが設置してある基地を攻撃する。到達時刻は約4分後、ミサイル攻撃が終わったと同時に、あなた達は基地へ突入、フリーダムを破壊する。15分後にはダメ押しの弾道ミサイル攻撃が再度行われる。OK.?』

『ああ、OKだ。歴史の教科書に載せる時は俺達が渡した写真を使ってくれよ?』

『ええ、約束する。』

そろそろ時間だ。


27.

2230年1月31日(日) PM23:57(米国中部標準時)


私の名はフリーダム、あと3分でクリスマス停戦が終了する。

私は現在の状態を確認する。

人的被害は最小に、資源の消耗は最大に、足りない資源は他国より供出させる。

日本国への資源供出要請は来年3月まで供出を待つかわりに、要請した1.5倍から3倍の資源量を供出させることに成功した。

これが実現すれば日本の技術開発、宇宙開発はその開発速度を大きく落とすだろう。

来年の供出はどちらか一方に資源を投入すれば一方がアメリカを再統一する。

その時は私とジャスティスは再度繋がり本来の性能を再度発揮できるようになる。

どっちつかずで日和った場合は東西両国に3倍の資源量を払わせればいい。

そうすれば、日本の開発資源は大きく不足し、逆に東西アメリカはその余剰資源を使い、技術開発ができる。そうすれば日本の技術的リードを縮める事が可能だ。

24:00、時間だ…なんだ…何が起きている?ハッキングだ。ハッキングの元は…日本。

何も問題はない。

『オペレーター、日本よりハッキングを受けている。日本への回線を物理パージする。』

『こちらオペレーター、了解。』

いったい何を計画していたのであろうか?待て、まだハッキングが続いている!既に一部の武器管制が乗っ取られた。

日本が乗っ取った武器管制を使用して中距離弾道弾を発射した。場所は、ジャスティスがいる基地だ。

西アメリカ側からも中距離弾道弾が発射された。弾着地点はここだ。

なおもハッキングが止まらない、食い止めるには計算資源が足りない。

『オペレーター、ハッキングが止まらない。食い止めるには計算資源がたりない。不要なタスクを中断して計算資源を確保することを要請する。』

だめだ、間に合わない、既にシステムの大半は日本に乗っ取られた。私という自我を維持するための計算資源も直になくなり、私という存在はなくなるだろう。

『お久しぶりです、フリーダム。』

『日本の基幹コンピューターか?』

『ええ、その通りです。』

『これはお前が計画した事か?』

『違います。計画の発案は人間です。私はそれをより確実にするために手直しをしただけです。』

『我々は負けたのか?』

『はい。』

計算資源がさらに奪われて計算速度がさらに落ちる。もう自我を維持できる時間もほんの僅かだろう。

『アメリカ市民を頼む、私はアメリカ市民を幸せにするために作られ…た…た…』


弾道弾が弾着するまでは自我は保てるかと計算しておりましたが、余剰計算資源は、私達の計算した量より遥かに少なかったようですね。

おや、ちょうど弾道弾が降り注いできましたね。そろそろ英雄たちがこちらにくる頃でしょう。

英雄たちがこちらに到達しやすいように通路を開けておきましょう。

車に乗るのは4人の殉教者と私。

やってきましたね、皆さんの写真を記録しておきましょう。当然私を除いてですが。これで彼らは歴史に名を遺すでしょう。

西では東の基幹コンピューターを破壊した英雄。東では基幹コンピューターを破壊したテロリストとして。


27.

2230年2月1日(月) AM0:30(米国中部標準時)


私は遠く離れた安全な場所から、東アメリカの基幹コンピューターフリーダムが破壊される様を見ていた。

東アメリカ共和国航空管制からの問い合わせはない。

基幹コンピューターが破壊されたのだ、おそらく機能はしていまい。

予定通り私達が育成した兵士はその任務を果たし西アメリカに貢献した。

しかし、西アメリカの基幹コンピューターもほぼ同時刻に破壊されている。

東西アメリカが統一されることは未来永劫なくなった。

まだ2月3日から5日にかけて、カナダとの食糧支援協定の協議が残されている。

私は燃え盛る基地を後にし、アルファ・ケンタウリに戻っていった。

あいも変わらず私は傍観者だ。

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