東西アメリカ資源供与要請 9
16.
2229年12月5日(土) AM11:30 (ロサンゼルス時間)
私達は大統領じきじきにお誘いをいただいたホワイトハウス中庭でのBBQに参加していた。
大統領自らが肉を焼き我々にふるまってくれる。
とはいえ、やはりアンドロイド差別は激しい。人間である私、マックス、ジョウ、管理者は参加者として歓迎されているが、ナオミさんはただの護衛扱いだ。
私はナオミさんにインプラントを使い謝罪する。
『すみません、ナオミさん。こんな居心地の悪い場所に連れてきてしまって…』
『いいのよ、ほんと気にしないで。本当に私は全然これで問題ないから』
なんだかナオミさんの言葉に含みがあるのが気になるが、どうやら肉が焼けたらしく、大統領が私を呼んでいる。
『さぁ、ミス・ナツキ遠慮なく食べてくれたまえ!』
EUの時の場合と違い、この場合はきっちり食べきる事が信頼の証となる。もちろん体調不良等の時はやむを得ないが、このような場所で体調管理ができていないようなら外交官失格だ。
『もちろん!よろこんでいただきます、大統領!』
私は皿に盛られた肉を東アメリカ政府のおもてなしの証であろう、フォークではなく箸で肉を取り口に含む。
「!?!?!?!?」
なんだこれは!見た目は牛肉だったのに味は何とも名状しがたい何かだ、フードプリンターで作った肉と天然物の肉の差とかそんなレベルではない。何とか食べれる…食べれるが…これはきつい…
私は笑顔を崩さないようにするだけで精いっぱいだった。
『何なの!こんなの肉じゃない!』
『何だよこれ…アメリカ国民は大統領ですらこんなひどいものを食べているのか?』
『…』
マックスも味のひどさに思わず苦言を申す、ジョウはショックで言葉すら出ない。
ただやはり意地であろうか、なんとかハードボイルド的にかっこよく食べるふりをして何とかごまかしている。
『おい、ナオミ!お前これ知っていただろ?』
『ええ…東西アメリカ合衆国にはフードプリンターは存在していない、開発資源をすべて軍事の項目に振り分けているからね。あなた達が食べている肉らしきものはコオロギ由来の肉もどきよ』
知らない方がよかった…確かに我が日本国のフードプリンターに使用する有機マテリアル素材の材料はそれこそ排せつ物まで材料になっている。しかしそれは有機ナノマテリアル転化装置によって分子レベルで変換した存在だ。この肉もどきはどのような製造過程を経ているかは知らないが、精々すりつぶして適当な添加物と化学調味料で味を調えたといったところだろう。
私達が肉もどきに苦戦するのをフォローすべく管理者が何度もお代わりをしている。
『大統領!とても絶妙な焼き加減ですね!こんなおいしい物食べたことがありません!』
管理者が全力で大統領をよいしょする。
大統領もまんざらではなさそうだ。
『ところで、ミス・ナツキ…例の資源供与要請の事についてなのだが…』
やっと本題に入ってくれた。
大統領の焼く肉を食べる役目を管理者に任せ私は大統領の対応に専念する。
決してあの肉もどきを食べたくないからという訳ではない。
『はい、大統領。私たち資源調整ユニットαはこのアメリカ大陸を再度統一するのは、西アメリカ合衆国しかないと思っております。しかしそのために、我々も万全の形で支援をしたいと考えております。』
『ほう、わが国の支援要請にはなにか問題があると思っているのかね?』
『はい、大統領もすでに東アメリカ側も我が国に同様の支援を要請している事はご存じだと思います。当然ですがただ無策に我々が両国に支援をした場合、その資源は活用されることなく無駄に浪費することになるでしょう。』
『つまり、ミス・ナツキ自身としては我が西アメリカ合衆国に支援を集中するべきだと考えているのかな?』
『はい、私個人としては西アメリカを支持しております。ですが今回の支援要請について、西アメリカに資源供与を集中するように中央を説得するには時間が足りません。』
『つまりは今回のクリスマス休戦の間に、資源供与を西アメリカに集中させるように説得するのは困難だという事かな?』
『さすが大統領!、察しがよくて助かります。しかしながら当然待っていただく以上、我々としてもその好意に報いなければなりません。』
『ああ、その通りだ、ミス・ナツキ。時間は貴重だ。」
『再来年の3月、それまで待っていただければ、必ず中央を説得し今回の要請量の3倍の資源を約束します。それだけの資源があれば間違いなく東アメリカを倒し、統一アメリカの夢が実現するでしょう!』
『なるほど…確かに素晴らしい提案だ。当然ながら東アメリカの方にも今年度中に資源の供与を行うという事はないのだね?』
『もちろんです、我々全資源調整ユニットは皆西アメリカを支持しております。』
『わかった、ではその申し入れを受け入れよう』
『ありがとうございます!それと差し出がましいお願いとなりますがもう一つよろしいでしょうか?』
『なんだね?』
『ジョンをしばらくの間大統領のそばに置いていただきたいのです。彼はとても優秀で勉強熱心です。私のユニットαの後釜か、新しい資源調整ユニットが組まれる際の外交官は間違いなく彼でしょう。再来年の資源供与の時のためにも彼には大統領のそばで勉強させてあげたいのです。』
『いいだろう、私もジョンの事は非常に気に入っている。それが日米の友好の懸け橋となるならば喜んで協力させていただこう。』
『ありがとうございます!』
よし、こっちの仕掛けもうまくいった。あとは管理者が上手に大統領を口説き落とすだけだ。
『ああ…そうそう、今回は日本のお客が来るという事でケータリングで丼を注文したんだった。ちょっと君、持ってくるように伝えてくれないか?』
交渉もまとまったことで大統領は機嫌がよくなったのであろうか?おそらく今回の会談が良い結果に終わった時のために準備していたであろう料理を持ってこさせる。
『君たち日本人はこの丼をソウルフードとして食べていると聞く。さあ是非食べてくれたまえ。』
私達に手渡された丼なる料理は出発前にマックスとジョウが食べていたあの料理だった。
『ねぇ、マックス?この丼って料理味はどうだったの?あんたは4つ欲しいとかなんとか言っていたと思うけど?』
『すまない、お嬢。正直に言うとこの丼の味は最悪だ。俺もジョウもあの時は意地で食べきった。』
肉は管理者に任せてほとんど食べずに済んだけど、この丼だけは食べきらないと今回の会談を成功だと向こうは取ってくれないだろう…
『ねぇ管理者、私達の痛覚とかって最悪カットする事ってできたよね?それで今だけ味覚をなくすことってできないかな?』
『申し訳ありません、ナツキ様。どのような刺激であろうと不必要に感覚をカットすることは精神に異常をきたす原因となります。何とか食べきってください。我々はナツキ様を高く評価しております。』
ようするに頑張って平らげろという事だ…
私は意を決して、この丼を消費するべく箸を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます