東西アメリカ資源供与要請 7

11.

2229年12月2日(水) PM14:00 (ロサンゼルス時間)


面談から戻ってきた私達は急いで次の仕掛けの準備に取り掛かる。

お世辞にも大きいとは言えないキャビンに積み込まれた3体のマリオネット、これが仕掛けだ。

女一人と男二人、どちらも西アメリカ合衆国ではポピュラーな派手目なスーツ、そしてクロームを身にまとっている。クロームとは人間用機械化パーツの総称だ。

パッと見た感じは裏家業のブローカーだがある意味間違ってはいない。

管理者の操作で稼働を始めたマリオネットたちは私達の車の後部座席に収まる。マックスが運転席に、ジョンが助手席に収まる。

皮肉なことだが世紀末なデスレース仕様なおかげで車内の様子が全く見えないようになっているのが幸いした。

管理者が事前に衛星等で目星をつけた場所に車を停める。マリオネットたちは周辺に身を隠し、時間が経ったら街中に紛れ込む算段だ。

アメリカ側の管理AIの監視が行き届かず、街中の治安が悪いので紛れ込ますのはそこまで難しい仕事ではなかった。

街中に紛れ込んだマリオネット達は事前に目星をつけた不動産屋に向かい、アパートを借りる。幸いなことに西アメリカドル紙幣なら観光都市でのVR風俗稼業のおかげでうなるほどある。

管理者より無事マリオネット達がアメリカでの行動拠点となる建物、そして車を手に入れたと報告があった。

これで準備は完了だ。


12.

2229年12月2日(水) PM18:00 (ワシントンD.C時間)


わたくしは東アメリカ政府職員に先導されて会場に向かいました。

しかし、今回アメリカのフォーマルな服装という事でNラバーなる素材でできたドレスを身に着けているのですが、布地よりとても重く、私にはよい着心地とは感じられません。

案内された先には、東アメリカ合衆国大統領、バレル・オバラがお待ちでした。

やはりわたくしの幼い見た目が問題なのでしょう、少し驚いた雰囲気です。

わたくしも日本以外ではこの外見が交渉の場において不利になる事があるのは重々承知していますので、普段であればユーリさんに代理をお願いしている所ですが、今回は管理者さんがおりますので、私自身が出向くことにいたしました。

『お会いできて光栄です・ミス・エーリカ。』

さすがは一国の指導者ですわね。私の見た目に多少面食らった様子を見せた物のすぐにいつもの平静さを取り戻し、私に握手を求めてきました。

『こちらこそお会いできて光栄ですわ。ミスター・バレル。』

大統領はもう一方の手で私の右手を握りこみました。既にナツキさんの西アメリカでの面会の情報がこちらにも流れているのでしょう。事前の打ち合わせ通りわたくしも両の手で握手することで同様の親密さアピールをいたします。

『ところでミスター・バレル、もう一人紹介したい方がいますのですけどよろしいかしら?』

やはり西アメリカでの管理者が行ったアピールが効いているのでしょう。どちらかと言いますと既に予想できていたかのような雰囲気が感じられます。

『初めまして、お会いできて光栄です!ミスター・バレル』

管理者さんが予定通り、大統領に握手を求めています。

私たちの仕掛けはここからが本番です。ここで失敗した場合、計画の大きな修正が必要になってしまいます。

管理者さんがセクハラにならない程度のハグの申し出に大統領が応じました。

予定通り管理者さんがバレル氏に耳打ちをしていますわ。

バレル氏は一瞬驚いた顔をしましたがすぐ笑顔を取り戻しました。恐らく仕掛けは成功ですわね。

面会が終わっても私達はすぐに返されることなく再度待合室で待機させられました。

先ほどの政府職員ではなくバレル氏の私的なSPが待合室に入って来て、管理者さんの端末に何かを送信しています。

『成功しました。次は今週の金曜の20時に行われるそうです。』

管理者さんから成功の報告がきました。

ほんと、脳みそと下半身が直結している方は扱いやすくて楽ですわ。


13.

2229年12月3日(木) PM17:00 (ロサンゼルス時間)


予定通り拠点と車を手に入れたマリオネットを操り私達は夕闇迫るロサンゼルスの街を歩いていた。

マリオネットの操作は管理者が行い、私達はARモニターでマリオネットの視界越しから今回の仕事で必要となる人材を探している。

とはいえこの手の仕事は管理者の方がはるかに得意なのでほぼお任せ状態だ。

今回ほしい人材は思い込みが激しくて、自身の境遇が恵まれていなくて、愛国心がとても高い、おまけに脳みそと下半身が直結していたらなおよしだ。

管理者が早速よさそうな人材を見つけたらしくターゲットに接触する。

『ねぇ、あなたこんなところでどうしたの?』

場所は熱烈なハロルド支持者の集会場、その男はその輪には入らず、端の方で酒瓶片手に呑んだくれている。

『どうもこうもしないさ…俺はさ、兵士になりたかったんだ、でもよ今兵士になるなら自分の体の60%をクロームに置き換える金が必要だ。大抵のやつはローンが組めるからそれで兵士になる。しかし俺は親の借金の保証人になっちまったおかげでローンが組めないんだ…俺が兵士になったら東の連中なんてばったばったと倒してやるのにさ!』


「これはいい感じじゃない?」

『ええ、ナツキ様。最初の一人はこの方にいたしましょう。』

この呑んだくれを最初の一人とするべく私達はリクルート活動を開始する。


『それはひどい話ね。その保証人になって背負った借金っていくらなの?』

『5000西アメリカドルさ…たったそれっぽっちで俺の人生お先真っ暗なのさ』

『その借金、肩代わりしてもいいわよ、それにあなたに最高のクロームも準備してあげる、さらに最高のトレーナー、最高の栄誉もついてくる。』

『あまりにもうますぎる話だな、俺でもわかるぞ、絶対に裏がある。』

『ええ、代わりにあなたは生きて帰る事は出来ないわ。これは極秘任務なの、でもあなたの功績は未来永劫語り継がれる、西アメリカを勝利に導いた英雄としてね。代わりにその時が来るまでは、今のあなたでは一生体験することができない最高の時間を約束する。もちろん訓練の時間を除いてだけど。』

『本当に俺なんかが英雄になれるのか…?』

『なれるわ、その意志さえあれば』

『わかった。で、俺の借金はいつ返済してくれるんだい?』

『今すぐよ、すぐに借金取りを呼んで、それが終わったらすぐに手術よ。訓練は10日後から行う』

男は急いで借金取りに電話をかけ始めた。


14.

2229年12月3日(木) PM22:00 (ロサンゼルス時間)


私達の求人活動は一日たらずで必要人数の確保に成功し終わりを告げた。

「思ったより早く終わっちゃったね。これなら訓練の開始もうちょっと早くてもよかったかな?」

「全員分のクローム置換手術はさすがに1日じゃおわらないからな。10日で問題なかったと俺は思うぞ。」

「そうね、彼らのロスでの待機時間は勝手に部屋から出ないことが条件だけど、代わりに好きなものを注文し放題、食べ物も女も、悪い条件じゃないと思うわ。」

「残り二か月足らずの命の対価としては悪くはないか…日本じゃ絶対にこの条件では集まらないけどね…」

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