東西アメリカ資源供与要請 6

9.

2229年12月2日(水) AM9:00 (ロサンゼルス時間)


先日のうちにロサンゼルス国際空港に到着した私達は結局宿は取らずにアルファ・ケンタウリ内で生活することを決めた。

大の大人4人が生活するにはいささか狭い空間ではあるが、屋根付きのハンガーを取れたこともあり、船外まで店を広げる事でそれなりに快適な空間を確保している。

それにアルファ・ケンタウリには身体洗浄機と自動洗浄機能付きトイレがある。

多少狭くても排泄後の肛門を紙で拭いたり、トイレと同じ空間で身体を洗浄するくらいなら、こちらの方がマシというのがみんなの総意だ。

本日の13時より西アメリカ合衆国大統領、ハロルド・ダンプ大統領と面談することになっている。

一外交官が交渉するには大物過ぎる相手だが、それだけ今回の資源供与要請に並々ならぬ期待を持っているという事だろう。


10.

2229年12月2日(水) PM12:00 (ロサンゼルス時間)


大統領と面談するために一路ロサンゼルス空港から、ワシントンにあるホワイトハウスに向かう、別に気がおかしくなったわけではない。ロサンゼルス内にあるワシントン地区に西アメリカ政府がホワイトハウスという名の建物を建てたのだ。

しかし、どう見ても会談ではなくデスレースに参加するようなコテコテの武装車両で移動して大丈夫かと思ったがその不安は稀有だったらしい。

安全の確保のため警察車両が先導してくれているが警察車両もコテコテの戦闘車両だ、さすがにボンネットにガトリングや屋根にミサイルを搭載しているわけではないが、天井に暴徒鎮圧用であろうマシンガンタレットが搭載されている。

道行く車両もなかなかにマッドだ。私達の車両の様に重装化されているのはあたりまえ、警察車両同様にマシンガンタレットや銃座が付いている車両もそれなりに見かける。

エーリカさんがこの車を見て西アメリカに行くにはお似合いと言っていたが、どうやら皮肉ではなく本心だったようだ。

無事ホワイトハウス前に到着し、私達は大統領と面会するため、待合室で待機していた。

しばらく待っていると、面会の準備ができたという事で西アメリカ政府職員に先導され、会場に向かう。

会場に入るとそこにはハロルド・ダンプ大統領、そして大量の記者たちが待ち構えていた。

私達が会場に入場すると大きな拍手が巻き起こり、大統領は満面の笑みで、私達を迎える。

大統領が私に握手を求めてきたのでそれに応じる。大統領が差し出した右手に同じく右手で応じるとさらに大統領は左手で私の手を包み込む。

『ナツミ様、あなたも両手で応じてください。』

管理者のオーダーはガンガンいこうぜということらしい、指示に従い私も両手で握手に応じる。

これで私達は西アメリカの要請に対してとても前向きに応じる用意があると宣言したようなものだ。

『お会いできて光栄だ、ミス・ナツキ』

『こちらこそお会いできて光栄です、ミスター・ハロルド。』

『今回の資源供与要請に対して日本の協力を大いに期待しています。』

『こちらこそ、できうるかぎりの援助をしていきたいと考えています。』

まだこれはリップサービスだ、とはいえ一応は応じるそぶりは見せなければならない。

『それともう一人紹介したい人間がいるのですがよろしいですか?』

『ほう、誰かね?』

わたしは会場の脇で控えていた管理者を呼び寄せる。

『お会いできて光栄です!ハロルド・トランプ大統領!』

管理者は携帯端末による翻訳機能ではなく自分の口で流暢な英語であいさつをする。

『今回、私の補佐として同行しているジョンです。とても優秀な若者なのですよ。』

『そうか!こちらこそ君に会えてうれしいよ!ジョン!』

『彼はアメリカ文化に非常に深い関心と知識をもっているため、今回の交渉に同行してもらいました。』

『ほう、それは素晴らしい、ジョン君だったかな?短い期間かもしれないがぜひこの偉大な西アメリカ合衆国の文化を堪能してくれたまえ!』

『もちろんです!心遣いありがとうございます大統領!』

管理者は大統領と両手の握手だけでなくハグまでする。

記者たちは大きな驚きの声と共にカメラのフラッシュがさらに一段と激しくなる。

それも当然だ、両手での握手だけでなくハグまで行うという事は半ばあなたとわたしは運命共同体ですよと言っているようなものだ。

大統領はジョンを大いに気に入ってくれたらしい。

『ミス・ナツキ、今週の土曜日に私的なBBQをする予定なのだが、よかったら君たちも参加しないかね?』

予定よりもいい結果だ。公な交渉の場ではなく私的な場での交渉は非常に親密度が高い証だ。

『もちろん、喜んでお受けします』

私は満面の笑みでそれに応じる。

表の仕事の仕掛けは上々だ、面会から戻ったら裏の仕事の準備をしなければならない。

ここからが本番だ。

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