東西アメリカ資源供与要請 2

2.

2229年10月20日(火) AM10:05


省内の事務所に顔を出した後、ユニットαの面々と一緒に会議室へ向かう。

会議室の前で金髪のゴスロリ幼女とその使用人一行といった集団と出会う。資源調整ユニットΘ(シータ)の面々だ。

「あら、ナツキさんごきげんよう。」

ゴスロリ幼女は鷹揚な感じで私にあいさつする。

「おはようございます、エーリカさん。エーリカさんも今回のミーティングに参加されるんですか?」

「ええ、どうやらあなたのユニットα、わたくしのユニットΘ、両ユニットの共同作戦のようですわね。」

会議室の入り口前で立ち話し続けるのも何なので私達は会議室に入室し、楕円の円卓上の椅子に座る。エーリカ達も私達の対面に陣取る。

10:10になると同時に、リクルートスーツに眼鏡、髪をひっつめにした女が入室する。管理者だ。

正確には管理者のマリオネットだがそこは大きな問題ではない。


管理者は会議室にいる私達を確認し、全員がそろっていることを確認する。

「それでは、ミーティングをの方を始めさせていただきます。その前にユニットαの皆さん、ヨーロッパの件ご苦労様です。ユニットΘの皆さんもオーストラリアの件ご苦労様です。」

どうやらユニットΘはオーストラリアの方で仕事をしていたらしい。おそらく軌道エレベーター建設に関わる何らかの仕事であろう。


「早速本題に入らせていただきますが、先日東西アメリカが我が日本国に鉱物系ナノマテリアル資源供出の要請を行ってきたことについては皆さまもご存じだと存じます。」

「しかしながら皆様もご存じの通り、日本国の鉱物系ナノマテリアル資源の産出量は支出量とほぼ同値であり、東西アメリカ、どちらか一国に肩入れする形で、資源を供出したとしても、その供出量は今後の技術開発、経済発展に大きな影響が発生します。」

「そのため、我々としてはこの両国の要請は拒否したいと考えております。しかしながら、東西両国とも旧世紀最大の国家である誇り…意地とでもいいましょうか、ただ一方的に突っぱねた場合、東西アメリカともに何らかの報復がなされる可能性が高いと我々は予想しております。」

「そのため両ユニットの面々は各国に赴き、できうる限り穏便に、可能な限り供出量を小さく、できる事であればゼロにする方向で交渉する。これが今回の仕事となります。」

「なお今回の仕事にあたっては、クリスマス協定と呼ばれる、12月1日から来年の1月31日までの停戦期間中を期限とし、交渉を進める事になります。これは我々が一刻も早い資源の供出の要請を行ってきた東西アメリカに対し、内戦中の土地に我が外交官を行き来させるのはリスクが高いという理由により停戦期間中以外の外交官の往来を拒否することで、わずかながらですが時間稼ぎを行った結果となります。」

「α、Θ両ユニットは本日から11月末までを準備期間とし、12月1日より東西アメリカとの交渉を開始してください。

なお、西アメリカ合衆国…USAはユニットαが、東アメリカ共和国…RCAはユニットΘが担当してください。以上、質問がなければ解散となります。」


私達は席をたち会議室を後にする。エーリカが私に声をかける。

「ナツキさん、USAの面々はあなたの護衛チーム同様に非常にむさくるしい方が多いと聞きますわ、ご注意あそばせ。」

他のチームの人間から私の護衛チームをむさくるしいと言われるのは余計なお世話だがUSAの面々がむさくるしいのは事実だ。USAは保守層が中心に、RCAはリベラル派が中心となって国を運営しているらしい。

統括コンピューターはあるにはあるが、東西共に現戦線を維持するためにすべての計算資源を投入している状況らしい。

チームの面々と方針と現状を確認するために私は一度事務所に戻る事にした。


3.

2229年10月20日(火) AM10:40


「しかしあのエーリカお嬢様が外務省に入省していたとは驚きだな。」

「マックスさんはエーリカさんを御存じなんですか?」

「ああ、お嬢には前にも俺が親父さんと仕事をしたことがあるって話したことがあっただろ?俺と親父とエーリカで輸送チームを組んでいたんだよ。あの時は途中でPTSDを発症して途中離脱したんだがな」

親父から聞いたことがある。実に60年ぶりのG級市民が発生したあの時だ。


「まずは状況を整理しましょう。以前から東西アメリカは日本国に対し、あらゆる要請という名のタカリを行っています。具体的には常温核融合炉の建設、ノウハウの提供、一部のナノマテリアルプリンター技術と鉱物ナノマテリアル転換炉技術、ドロイド兵の製造技術。

特に本来ドロイド兵の技術供与は東西アメリカともに無為に流される血を少しでも減らすため、東西アメリカに提供されたものですが結果は皆さんの知っている通り、東西共に投入されるドロイド兵がほぼ同勢力であるが故に戦線は膠着状態を陥る事になりました。」

「この戦線膠着は管理者が目論んだ通りの結果だったので、そのままにらみ合いを継続してくれればよかったのですが、東西共に管理者の予想の斜め上を行く手段で東西アメリカは戦線膠着の打破を行おうとします。」

「みんなも知っている兵士の機械化です。アメリカが持つ不老不死の技術は日本では既に過去の遺物である、本人の身体クローンへの意識移植です。我々の様にメーカーボディを使用する事による身体能力の向上が望めないアメリカは機械化することで個々の兵士の戦闘力向上を図りました。」

「結果としてつい先日、東西アメリカ共に人間の機械化率を60%に引き上げ、非公式ながらも入手した情報によると既に脳以外を全て機械化する技術が完成しており、東西共に実証試験中とのことです。」

「話は分かったが、俺達はどうすればいいんだ。聞く話だけだと一番いいのはひたすらだんまりを決め込んでこの要請の話が消えるまでしらんぷりするのが一番に思えるのだが…」

「EUをはじめとした他の国々であればそれで問題ないのですが、東西アメリカだけは話は別です。

パナマ事件、東西アメリカ共に相手のパナマ運河の航行を認めないように要求、答えに窮したパナマ政府に対して東西アメリカ連合軍を結成、パナマ政府は消滅、パナマ運河も破壊されました。」

「日本政府が今まで東西アメリカ共に先端技術の供与を行わざるをえなかったのもこの背景があります。」

ちょっと待て、自分で説明しておいてこの状況すでに詰んでいるような気がしてきた。

この疑問を解決するために管理者を呼び出す。

『管理者、ちょっといい?』

『どうしました?ナツキ様。』

『状況を整理するに東西アメリカに資源の供与を拒否するのは事実上無理の様に思えてきたんだけど?着地点、わが日本が許容しうる着地点を示してくれないと私達は何もできない。』

『さすがはナツキ様、この件に関してはエーリカ様の耳にもお入れしないといけませんので少々お待ちください』

『何の御用ですか?わたくしはこの状況を打破する方法を考えるのに忙しいのです。』

『お忙しい所申し訳ありません、エーリカ様、今回わが日本国政府が行える限界の妥協点についてお伝えすることをお忘れしておりました。』

『今回の最大の妥協点は資源の供出時期を再来年の3月までに遅らせる事です。これは現在進行中である、小惑星帯の資源開発、エーリカ様のご活躍で建設の目途が立ちました軌道エレベーター、この二つにより小惑星帯から送られる資源を入手、活用できる時期がこの再来年の3月だからです。そこまで待っていただけるなら我々は東西アメリカが要求する1.5倍の資源を提供しても問題ありません』

『そこまでいくとそれはそれで簡単すぎる気がするんだけど?いくら資源の入手量が大幅に増える見込みがあるとはいえ、さすがに大盤振る舞いすぎない?』

『その通りです、ですからあくまでも我々が譲歩できる限界点がそこなのです。これらの大幅な資源の供出は、現在我々が最も重点を置いている、技術開発、資源開発、宇宙開発この3件のプロジェクトの進行に大きな影響を与えます。そのためにもできうる限り資源の供出量は減らしたいのです。』

『ところで管理者さん?わたくし達が資源供出をしなくてもよくなるかもしれない方法が一つだけありますの。思い付きですから実現性の有無に関しては管理者さんに判断していただきたいところなのですが・・・』

『エーリカ様、ぜひその計画お聞かせ願います。』

『ええ…実は…』


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