第27話 前編
姫抱きされて、亜生は扉がすでに開いていたベッドルームへと架に連れられる。
柔らかい暖色のフロアスタンドだけが点いていた。
初めて見る大きなサイズのベッドの上に、亜生は静かに置かれる。
肌触りのよい白いシーツが手に触れた。
架は亜生を倒しながら上に跨がると、包むように沈むベッドで、唇に唇を重ねていく。
「……んんっ、ふっ……」
熱い架の唇は、亜生の一瞬の
彼の両手で、亜生のスラックスに入っていたシャツの
その間も、彼は容赦なく亜生の唇を甘く塞いでいる。
「くっ……るし……、ま……って……」
ようやく唇が離れると、架は亜生の首筋へと口づけながら、亜生の白いシャツのボタンに手を掛けた。
「待って! ほ、本当にするつもり?」
「するよ。今日は初夜だからね」
(しょっ……!)
戸惑う亜生をよそに、架の長い指が亜生のシャツのボタンを外す。
「俺、そのっ、……胸とか、ないしっ。新條さんと同じ構造だよ? 分かってる?」
亜生がそう言っている間にも、架は亜生のシャツのボタンを一つ一つと外していく。
架の指は、いつの間にかシャツの全てのボタンを外し終えた。
同時に、彼の手の動きが止まる。
その瞬間、亜生は架が「目の前にいる『男』の姿で、現実に突き当たった」と確信した。
途端に、亜生は片手で、はだけたシャツを手繰り寄せる。顔を背けると下唇を噛んだ。
「だから、言ったでしょ。俺が『男』だってこと、物理的な壁なんだよ」
亜生の手に、架の手が触れる。
「……下にも着てたんだ。
「えっ?」
亜生は咄嗟に起き上がると、自分の服を見る。
(……あっ)
インナーを着ていることを忘れて、シャツの下は素肌だとばかり思っていた。
亜生は自分の勘違いに、今度は恥ずかしさで顔が火照る。
「な、なんか、すみません……」
亜生が呟くと、架は小さく笑った。
「それじゃあ……、初めから、もう一度」
架はそう言うと、開いたシャツを握る亜生の手に触れた。
彼は自ら開けた亜生のシャツのボタンを、なぜか全て閉じていく。
それから、彼はベッドで座り直して、息を整えた。
ベッドの上、互いに向かい合う。
架の潤んだ漆黒の瞳が、亜生を逸らさずに見つめる。
「亜生。遅くなったけど、誕生日おめでとう」
彼は微笑みながら、亜生の頬を撫でる。
「愛してる、亜生」
つま先から頭の先まで、痺れるような熱さが込み上げて、亜生は呼吸が乱れる。
「おっ、俺も、愛してる……。ありがとう。いっぱい、いっぱい、ありがとう」
亜生は嬉しさと愛しさで、唇が震えるのをこらえながら伝える。
架が安堵するかのように肩を下げた。
「緊張した……」
彼はそう言うと息を一つ吐いて、いたずらに笑った。
そんな彼がたまらなく可愛くて、亜生は釣られて笑う。
「……じゃあ、俺、シャワーしてくるね。待ってて」
架は亜生に告げると、自分のシャツの一番上のボタンを外した。
彼は再び微笑みながら亜生の頬に触れて、ベッドルームから続くバスルームへと入っていく。
架の姿が見えなくなったと同時に、亜生はベッドに伏せる。
滑らかなシーツに自然と頬擦りした途端、張り詰めていた糸が切れたみたいに、亜生は熱い息が零れる。
(幸せで……、幸せすぎて……、どうにかなっちゃいそうだ……)
彼の甘い吐息、温もり、声、瞳、唇。全てを亜生は全身で反芻した。
不意にクッションに手がぶつかって、亜生はそれを掴んで仰向けになる。
高い天井、柔和な照明、微かに聞こえる架が浴びるシャワーの音。部屋も心も温かくて、ベッドはこの上なく寝心地がよい。
安息とも言えるこの場所に、亜生の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます