第34話 強まる絆。そして、その先へ

 後日、大学の図書室。

 階段を上った先、柱の裏にある人目に付かぬ閲覧スペースの一角で、直斗はスマホの時計を見つめながらそわそわしていた。

 しばらくそうして待っていると、カツカツとヒールを鳴らす足音が聞こえてくる。

 視線をそちらへと向ければ、艶やかな黒髪を揺らして、モデルのような長い脚を動かしながら、彼女である桧原楓ひのはらかえでは颯爽と現れた。


「やっほ」


 直斗の前までやってくると、軽く手を上げて挨拶を交わしてくる。


「よっ、来てくれてありがとな」


 直斗は妹達に結論を告げた後、楓に『大事な話がある』と連絡して、ここへ呼び出したのだ。

 楓はにこりと微笑みながら、直斗の向かい側の椅子へ腰かける。


「別にこれくらい気にしないよ。直斗のお願いだもん」


 そう言う献身的な所も含めて、改めて楓から愛されていることを心から実感する。

 直斗が感傷に浸っていると、荷物を隣の席に置き終えた楓が、ぐいっと前かがみ気味に尋ねてくる。


「それで、大事な話があるってことだけど、どうしたの? もしかして、もう寂しくなって我慢できなくなったから、顔を一目見ようとわざわざ巧妙な手口を使って呼び出したとかじゃないでしょうね?」

「そんなわけないだろ。ちゃんとした用事で呼び出したんだよ。楓から見て俺ってそんな汚い手口を使う奴だって思われてるなら、俺ショックだなぁ……」

「冗談だってば。ごめんね。機嫌損ねないで?」


 直斗が少し不機嫌そうに唇を尖らせると、楓は焦った様子ですぐに謝ってくる。

 そんな彼女の必死さが可笑おかしくて、直斗はふっと破顔してしまう。


「ふふっ……楓ってば必死になりすぎ」

「なっ……はかったの⁉ 酷い!」

「ちょっとからかっただけだって」

「そんな意地悪する直斗の話なんて聞いてあげない」


 年下彼氏にからかわれたのが納得いかなかったらしく、楓は腕を組みながら不機嫌そうに顔をそむけてしまう。


「ごめんって……つい楓が可愛くてからかいたくなっちゃっただけだから」

「ふーんだっ」


 拗ねた態度を見せているけれど、反応してくれてはいるので本気で怒ってはいない様子。

 それを見て安心した直斗は、一つ咳ばらいをしてから、楓へ真剣な眼差しを向ける。


「楓……」

「何?」


 直斗が優しい口調で名前を呼ぶと、楓はちらりと視線だけを向けた。

 話を聞く気があることを確認した直斗は、そのまま愛する彼女を柔らかい表情で見つめる。


「俺は楓を選ぶことにしたよ」

「えっ……?」


 簡潔に直斗が結論だけを述べると、言われた意図がみ取れなかったのか、楓はポカンとほうけていた。

 しかし、すぐに直斗の言葉の意図を理解したようで、驚きに満ちた表情で目を見開く。


「い、いいの……? 本当に私で……?」

「当たり前だろ。どうしてそこで自身無じしんなくすんだよ」

「だって……私よりも妹ちゃん達の方が……」

「だから今も言っただろ。俺は楓を選んだって」

「……そっか」


 まだ実感がわかないのか、楓はふわっとした感じで動揺を隠しきれていない。


「楓のおかげだよ」

「私の……おかげ?」


 自覚がないようで、首を傾げて頭の上にはてなマークを浮かべる楓。

 なので、直斗はさらに詳しく心から思った気持ちを伝えてあげる。


「楓と数日間会えなくなって気づかされたんだ。楓を俺がどれだけ大切にしているかってことに。それと同時に、妹達に俺が抱いてる感情は、異性としての好意じゃなくて、家族としての好意なんだってことにね。だから、これからも俺の彼女として一緒にいて欲しい」


 それは、直斗の中で一つの覚悟ともいえる言葉。

 楓の大切さに気付いたからこそ、当たり前になっていた日々の好意に感謝する意味でもあり、これから楓と長く付き合っていくという意味でも……。


「……そっか。直斗はちゃんと決めたんだね」

「うん」


 楓が身体を直斗の方へ向けると、すっと手を直斗の頭にポンッとのせてきた。

 直斗が視線を上けると、楓は慈しむような笑顔を浮かべている。


「よくできました。そして、私を選んでくれてありがとう」


 そう感謝の言葉を述べながら、くしゃくしゃと直斗の頭を撫でてくる。

 恥ずかしかったけれど、楓からの好意を全力で受け取った。

 こうして、改めてお互いの大切さを認識した二人。

 妹達が上京してきたことは、二人のこれからを考える上で、いい意味で大きな分岐点だったのかもしれない。

 それを乗り越えた今だからこそ、二人の愛は確固たるものへと変化したのだ。

 これからも多くの困難にぶつかることになると思うけど、新たに結ばれた強い愛の絆で、乗り越えられるような気がする。


「さっ、直斗。ならさっそく私に付き合いなさい」


 直斗の頭から手を離した楓は、意気揚々いきようようと椅子から立ち上がった。


「えっ……どこか行くの?」


 直斗が尋ねると、楓はにこりと微笑んで……。


「もちろん、妹ちゃん達の所へ改めて挨拶しに行くんだよ!」

「え……えっ⁉」

「何驚いてるのよ。まずは家族に認めてもらわなきゃ意味ないでしょ! 直斗が覚悟を決めてくれたんだから、今度は私が覚悟を見せる番ってわけ!」

「だ、だからって、何も昨日の今日で会いに行くのは……」

「いいの! こういうのは即行動が一番なんだから!」

「あっ……ちょっと!」


 楓に手を引かれて、直斗は半ば強引に離席を余儀なくされる。


「俺、この後授業あるんだけど!」

「一回くらい休んだって平気よ! それとも、彼女の一大事に付き合ってくれないわけ?」

「そ、そういう言い方はズルいって」


 彼女から一緒に来て欲しいとお願いされてしまえば、授業なんて休まざる負えない。


「ほら、早速手土産買ってから行くわよ!」


 上機嫌な様子で図書室を後にする楓の後姿うしろすがたを見ながら、直斗は思わずため息を吐いてしまう。

 妹達の心の整理もついていないだろうし、楓が行ったところで、状況がすぐに変わるというようなことはない。

 認めてもらうために時間も掛かるだろう。

 それでも、お互いに今は心強いパートナーがそばにいる。

 二人で立ち向かえば、今なら何でも乗り越えられるような気がした。

 だからこそ、妹達と新しい関係性を作っていける未来も、数多くの困難を乗り越えながら作りあげていけばいいのだ。

 いつか叶うであろうそんな未来を想像しながら、直斗は楓の隣に並んで、また新たな一歩を前へと踏み出すのだった。




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最後まで読み進んでいただいた方、本当にありがとうございました!

今回は30話程度の短編という形で終わらせることになり、少し物足りなさも感じられたかもしれませんが、無事に完結できて良かったです!


☆300と小説フォロー1200人も多くの方にフォローして頂きありがとうございました。

今後も、カクヨムで作品を随時投稿していこうと思っているので、よろしければ『さばりん』をユーザーフォローして頂けると嬉しいです。


次回作は少しイチャラブというよりは、ドタバタ多めなラブコメを書いて行く予定です!

(近日公開! お楽しみに)


というわけであとがきを終わりにしたいと思います。

これからも、さばりんをどうぞよろしくお願いします!

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お兄ちゃんに彼女がいても、義妹なら同棲しても問題ないよね? さばりん @c_sabarin

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