スポットライトの近くでは
@karakara4211
その光は、太陽のようにすべての人を照らすわけではない。
そこは安い居酒屋だった。まあ学生がいけるところなんてたかが知れているけど。でもそこで友達から受けた話は、そんなところで話していいのかって疑うほど、とても衝撃的だった。
「なんだよ!?もっと早く言ってくれればよかったのによぉ!」
「ごめんごめん!でも、ほら。まだあまり知られたいわけではなかったからさ。自分が声優になれたなんて。」
「確かにばれると面倒そうだもんな!」
その友達は、とあるゲームか何かのオーディションを受けて、見事合格。主人公キャラクターの声に抜擢されたのだ。今はその収録も済んでもうすぐ一般公開されるらしい。
「でもほんとに良かったよ。あめでとうな。」
「ありがと!ゲーム好きなお前にそう言われると素直にうれしいよ。」
「ハハッ!でもそのせいで今のサークルの活動がきついんだけどな~。」
「い、言わないでくれよ!」
笑い声が個室を埋めていく。周りにまで届きそうで届かない、そんな友人の嬉しい報告は、自分ともう一人と夢のある仕事をつかんだ新人声優だけが知る三人だけの秘密のようなものだ。
ああ、よかったな。コイツは俺たちと一緒に教育の道を行くと思っていたけど、そうではない。自分で夢を追いかけて、掴んだ。声優だなんて、とてもいい。俺はコイツとは大学からの付き合いでしかないが、それでも。コイツはいい奴で、しっかりしていて、優しい奴だ。きっと、こいつならうまく行くだろう。
そんなことを思いながら。自分はもう一度、甘い酒の入ったグラスを三人と合わせた。
「合格、おめでとう!」
「ありがとな。まあ、でも俺は推薦で受かっただけだから周りの奴よりかは楽な方だったけどな。」
そういう自分の前に座る友人は、来年から正規の教師だ。都会の方で数年、教師をしてからこっちに戻ってくるそうだ。
「いやいや。推薦をもらえることがすげえって話だろ?俺には無理だな。勉強が好きってわけじゃないから。」
「でも、お前も臨時で教師するんだろ?良かったじゃないか。」
「まあな。」
自分は採用試験に落ちた。それでも一応臨時として自分も来年から中学校で働くことになった。
「まあ、これからお互いに大学生から社会人になるってわけだ。」
「そうなんだよな~。もう少し大学生でいたいわ~。」
「それなんだよな。卒論面倒だけど。」
「卒論の話はNGでw」
「でも、やっぱ不安だよな。これからの事とかさ。」
「だぁいじょぅぶだって!生きてればなんとかなるから!」
・・・ああ、そうだ。こういうやつだったな。いつも、こうやって、明るくて。いつもいつも。まぶしいな。
「・・・ああ、そうだな。」
コイツはすごい奴だ。周りを引き込む力がある。カリスマっていうのはこういうことを言うのだろう。コイツの周りにはいつだって人がいた。仲間が。先輩が。だからこそ、こういったやつが無事に目標であった教師という道に進めて良かったと、心から思う。コイツはだれよりも頼りになり、先頭に立ち、周りを笑顔にできる。そういうやつだ。きっとコイツが関わることになる子供は幸せな奴だ。この先どんなことがあっても、それを乗り越えて次の大きな目標に進んでいける。
そんなことを考えながら、大学に設置されている自販機で飲み物ぐらい奢ってやろうかと考えていた。
こいつも、前に声優になったと話してくれたあの子もそう。見ていると、とてもまぶしくて。まぶしくて・・・・。
周りはこんなにもまぶしいのに。
違う・・・
周りが照らされているだけ。
俺は・・・・
俺には・・・・
なにもない・・・・・。
一人は夢をつかんだ。
一人は目標に向かっていった。
この人達だけではない。
多くの人が夢をかなえ、目標にすすみ、輝いている。
人生にスポットライトが降り注いで、輝いて、幸せそう。
なら、僕は・・・・?
なにもない。
夢を見つけられず。
周りと同じ目標を持っていたのに、叶わず。遠ざかる。
他人を、親を、兄弟を・・・・・・
友達を
仲間を
疎ましい。
妬ましい
うざい
キライだ
と思ってしまう。
どうしようもなく、
もっと
自分を嫌いになる。
周りは今日も光り輝いている。
一人だけを輝かす、その光を一身に受けて。
でも、そんな光は俺の元には降り注がない。
当然だ
その光は、太陽のようにすべての人を照らすわけではないから。
なにもない俺では
ああ
照らされない暗い場所で一人。
うつむき蹲る。
泣けずに、ただ胸に手を当て爪を立てる。
どうして?
ああ、きょうも
まぶしいな。
スポットライトの近くでは @karakara4211
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