精神戦隊トラウマン

@turutokugorou

完結済み

)20年くらい前に書いた精神戦隊トラウマンをリメイクするぞプロジェクトなんだが。

超めんどくさい。

なんか細部の記憶があいまいで手探りだな。

漫画家の山田玲人によると作者の個人的な体験や思想を折り混ぜて作られた作品を「私小説」とか「パンツを脱ぐ」とか言うらしい。

えーと、違うぞ俺はレンジでもシユウでもないぞ

俺は今のところ引きこもりではないし、従妹の中では同じ年の娘ではなくて3つ年上の娘の方が・・・・


第一話 レンジ伝


時に西暦199X年

ついに、人類は異星人と接触することになった。

突如飛来した謎の異星人は、日本に対して宣戦を布告し侵略を開始した。

宣戦を布告したのは日本のみである。

各国政府はこの未知の敵に対して、対応を話し合った。

異星人は星間飛行を可能であるから地球に現れたのだ、つまり技術レベルでは人類は異星人に遠く及ばない。

戦っても勝算は薄い、下手に異星人に手を出して攻撃目標にされては困る。

まずは日本と異星人との闘いを見守って戦術を研究する必要がある。

世界は日本を見捨てることにした、それにはアメリカも入っている。


いよいよ異星人との直接戦闘が始まった。

特出すべきは、エイリアンたちは強力な位相空間バリアー、通称UT結界を保持していたことである。

まともな戦術兵器では彼らに傷をつけることもできない。

自衛隊は大敗を喫した。

だが異星人は大きな追撃戦を行う気配はなかった。

防衛庁はこの劣勢を挽回すべく大型プロジェクトを企画した、それが精神戦隊トラウマンである。


世田谷にある事務所の会議室は異様なムードに包まれていた。

5名の民間人とそれを武装した自衛隊員が取り囲んでいたのだ。

自衛官の中には私服の年配男性二人も含まれる。

民間人の中の一人、口ひげを蓄えた中年男性が前にでて話を始めた。

「皆さんは一般市民であるのに突然自衛隊に連れてこられて困惑していることと思います。

すでに知っていることと思いますが日本は異星人に襲われて未曽有の危機にあります。

政府はこれに対抗するべく特別な対策班を結成することになりました。

それがNPO法人”サイキック防衛団”です。

またの名を精神戦隊トラウマン。

皆さんにはこのNPO法人に入っていただいて一緒に日本の平和を守っていただきたいのです。」

皆一応に混乱していた、これまで一般人として暮らしていたのに突然戦争をしろと言われたのだ。

大体話が胡散臭い。

太っちょのアラサー男が反応した。「いきなりなんだ、突然つれてこらて戦えってそんなの無理に決まっているだろう」

主婦はいきり立つ「自衛隊が歯が立たないような敵に何をしろっていうんだ」

神経質そうな大学院生が息巻いた「政府の組織なのにNPO法人っておかしいだろ」

白髪の爺はただただ青ざめた顔をしていた。「死にたくない」。


中年男性は答えた

「組織がNPO法人なのは海外派兵を見据えてのことです。

いづれエイリアンどもの攻撃は海外にも向く可能性が高いです。

その時自衛隊や政府の組織であると憲法上海外で活動することが難しくなります。

そこを考慮してあえてNPO法人の民間軍事プロバイダーという組織形態にこだわりました。

戦う方法ですが、敵は強力なUT結界を保持しています。

物理攻撃ではあまり役に立ちません、ですが精神攻撃なら異性偉人にも十分効く可能性が高いです。」

その場にいた民間人たちの表情がさらに暗くなった

「我々がひそかに内定をしていて皆さん方が精神感能型のサイキッカーであることはすでに調べがついているんです。

この仕事は皆さんでしかできないことなんです、ぜひ協力してください」

中年男性がそう言葉をつなげると、周りを囲っていた自衛隊員たちが殺気だった顔をして突撃銃を構えた。

もはや恐怖のあまり誰も断れない空気になっていた。

そしてそれぞれの隊員にはコールサインが与えられた。

リーダー格の説明をしていた中年男性には”バーミリオン”

太っちょのアラサー男性には”ビリジアン”

神経質そうな大学院生には”ミッドナイトブルー”

アラサー主婦には”パープル”

白髪の男性には”シルバー”

である。


当然通報が部屋の中で鳴った、敵が都心部に現れたのだ。いきなりの任務だ

各隊員はすぐに戦闘服に着替えさせられた。

その戦闘服というのは体中にぶつぶつのあるスーツだった。

それぞれのコールサインと同じカラーリングが施されている。

服の名前はリアクティブアーマー、ふつうは戦車に使われる防御方式である。

この一つ一つのぶつぶつが小さい爆弾である。

頭部のセンサーが接近する敵の弾頭を識別してその弾頭方向の爆弾を爆破することで、その爆圧で弾頭の方向を反らせて身を守る仕掛けになっている。

なおこのスーツには、首筋に注射針が仕込まれていて、そこから必要に応じて精神安定用の薬品が投与されることになっている、敵と戦うときにはアッパー系の物質、錯乱状態のときはダウナー系の物質、生命の危機の時には強心剤などである。

太っちょのアサアー隊員のスーツは特別製で、やや大きな爆弾が取り付けらていた

この大きな爆弾をわざと爆発させることで攻撃にも応用できるようにしているのだ。

スーツの重量が重くなるので使い手を選ぶため、彼だけに使われることになった。

武器に関しても人類の英知が合わさった最新鋭の兵器が提供された。

いかなるものも切り裂く高周波振動ワイヤーカッター、

付近に放射性物質を大量にバラまくことと引き換えに優れた貫通能力を誇る劣化ウラン弾を装填した対物アンチマテリアルライフル、

精神系の毒ガス噴霧器、などだ。

それぞれの隊員には、護衛隊として2~3名の自衛隊がついた。

それぞれの護衛から装備の使い方の簡単な説明を受けている

だがみんなうわの空である、説明が全く耳に入ってこない。

何も考えられない、緊張感でとても胸が悪くなる。

それはリーダーのバーミリオンと言えどど同じである。

そんな様子を見かねて護衛自衛隊が「バーミリオンさん緊張しないでください、我々がしっかり守りますから」とほほ笑む。

そのニヤケ面を見ているとふつふつと怒りが沸いてくる。こいつら自衛隊がしっかりしていないから一般市民の自分たちまで戦争させられる羽目になっているのだ、何を笑っているんだ。という思いと、それでもそんな彼らに依存しなくては生きていけないという自分の立場の弱さ不甲斐なさとが入り混じって、ただただやるせない気持ちになった。

各位の説明および機材の点検が終了すると「装備ヨシ、安全点検ヨシ」と指さし呼称が行われる。

その後全員で事務所から出てた。

ちょうど事務所の前の大通りに敵はいた。

大きさ20メートルくらいの巨大なロボットがノシノシと歩いていてその周りを5名程度の一般異星人兵が周囲を気にしながらロボット守っている。

エイリアン兵は一人の小隊長と一般兵5名で編成されたユニットで行動していることはテレビで伝えれていた、小隊長の兵隊は一般兵とは全く異なる外観をしていてしかも同じものが二つと存在しない。小隊長はそれぞれがカスタム化された存在でその能力も千差万別であるというのが大きな特徴として知られていた。

それでも体の大きさはせいぜい3メートルくらいで20メール級の物など聞いたことがない。

その圧倒的な大きさに足がすくむ自分が今からこれを倒さなければならないことはわかっているのだがライフルの引き金を引けない。

引けば敵に見つかる、見つかれば反撃される、反撃されれば絶対に助からない。

ただただその場にボーっと立ち尽くしていた。

突然ロボットの胸のあたりあるプロトンビーム砲で攻撃してきた。

初弾が主婦の”パープル”の顔面に命中して主婦の”パープル”の頭が消し飛んだ。即死だ。

周りで警護していた2名の自衛隊員にもプロトンビームが当たり腕をもぎ取られる。

自慢のリアクティブアーマーは実態弾でないと有効性を発揮できないのだ。

それで迷いが吹っ切れた、足を止めてはいけない、狙われるとにかく動かなければならない。

太っちょのアラサー男性”ビリジアン”と神経質そうな大学院生”ミッドナイトブルー”は全力疾走で道を逃げだした護衛自衛官もそれに続く。

白髪の男性”シルバー”は身体能力的に逃げ切るのは不可だと考え近くのビルに飛び込んていった。

エイリアンの一般兵も3人の行動に気が付いてすぐさま追撃に動き出した。

バーミリオングループは物陰に隠れて一般兵をやり過ごした。

チャンスだ敵の隊長の護衛が手薄になっている。

ロボットに精神汚染攻撃が効くのか甚だ疑問である、だが自分はそのために呼ばれてここにおり、自分にはそれしかできない。

だったら己のなすべきことをなすだけである。

バーミリオンが物陰から上半身をさらけ出すと、精神感応型攻撃を巨大ロボットに向けて放つ「サイコクラッシャー----」


サイコクラッシャーを受けたロボットは夢を見はじめた。

ロボットといういい方は正確ではない、彼は異星人が戦闘用に改造されただけにすぎない。

彼の名はレンジ。

彼には同じ年の従妹の女の子がいた。とても美人な娘でレンジは彼女のことを愛していた。

従妹は故郷に住んでいるため滅多に会うことはない。帰省するたびに彼女に会えることが楽しみだった。

だが血がつながっている存在である、そのことはずっと胸の奥にしまい込んでいた。

従妹が結婚したことを聞いた。結婚式はしなかったのでそのことを聞いたのは母づてになってしまったのだ。

結婚相手の男性というのが異種族の人で年齢も15歳上の、妻子ある人物だった。

そんな訳ありの夫婦だったので結婚式をすることができなかったらしい。

そんな従妹の幸せな夫婦生活は長くは続かなかった。夫はろくすっぽ働かずに酒を飲んではずっとギターを弾いて遊んでいた。

さすがに嫌気がさして従妹は離婚した。二人の間に出来た子供を女手一つで養うのは難しい。

村では女がつける仕事も収入も限られる。彼女は都市部に引っ越して女医になろうとしたらしい。

子育て、仕事、女医になるための勉強。

どれか一つだけでも大変なのに彼女はすべてを一人でこなしたという。

・・・ある日、レンジは行きつけのレンタルビデオ店でアダルトビデオを物色していた。

アダルトビデオの表紙をぼんやり眺めているうちにその中にあこがれていた従妹の姿を見つけてしまった。

女手一つで子供を育てるということはそうゆうことなのだ。

従妹の強い意志を見たようで彼女に対して強い畏怖と尊敬を改めて感じた、そして同時に子供のころから憧れていた従妹の美しい姿態に対して強い欲望を感じた。

自分はこのビデオを見てはいけない、それは従妹の尊厳を貶める気がする、だがその見てなならない物を見られるという背徳感がレンジの雄をより高めてしまい欲望に負けた。

それから4年間は帰省しても従妹と会う機会がなかった、彼女は都市部で名の売れた医者となり仕事が忙しくなったのでなかなか帰省することができなかったからだ。

レンジはどんな顔をして従妹に会えばいいのかわからなかったので会えないことにホッとした気にもなり、同時に寂しくもあった。

5年目の春に再開の時はきた。

従妹は相変わらず美しく元気にコロコロと笑う。

その横で彼女の息子も遊んでいた、母に似て女と見まごう程の美しさである。顔の堀が深くて髪の毛に赤みがかかっている。異種族の血が色濃く混ざているのがわかる。

息子も純粋無垢な笑いを浮かべて走り回っていた。

そんな子供の様子を見ていてレンジは腹がたってきた。なんでそんなに楽しそうに笑えるんだ。お前のその笑顔を守るためにお前の母親がどんな思いで生きてきたのかまるで知らないのだろう。何も知らずに無邪気に笑う姿がゆるせない。いっそ全部ぶちまけてこの子を失意のどん底に落としてから殺してやろうか。

・・・いやちがう、本当に悪いのは俺なんだ。

世間体を気にして自分の気持ちを押し殺してしまったのも俺だ。

なぜ告白しなかったのか、俺なら彼女をもっと幸せにできたのではないか。

その後も従妹が苦境に立っているのを知りながら見て見ぬふりをして日々を傍観者として生きてしまった。

なんで相談に乗って上げなかったのだ。結局なにもかも自分が責任から逃れ続けただけだった。

そんな自分の事を棚上げにして彼女の最愛の息子に殺意を抱くとは片腹いたい。

・・・本当に許せないのは、本当に死ななければならないのは、俺自身なのだ!!!!!!


レンジは機体の自決スイッチを入れた。

20メートルのロボットは鈍い音を一瞬立てると2度と動かなくなった。

相手の精神に干渉して過去のトラウマ体験を引き出して自決を促すという技、これがサイコクラッシャーである。

サイコクラッシャーを使うと身体は疲労困憊する、精神的にも辛かった。

”バーミリオン”は子供のころに友達に悪ふざけで軽くかけただけで相手の友達が登校拒否を起こしたことがあった。

この技は絶対に人に使えない禁断の技としてひた隠しにしてきたが改めて使ってみてその威力と気分の悪さを再確認した。

残りの異星人一般兵も隊長の死亡を知ると引き上げていった。

こうして「トラウマン」の初陣は終わった。

”パープル”は殉職し、彼女のを守っていた自衛隊員2名は熱線の巻き沿いで腕を砕かれて再起不能の重体という被害だった。

まじかで戦争をしたトラウマンたちの疲労度は高い、みんな一様に生気を失っていた。

被害は大きかったそれでも人類はこの日初めて勝利を勝ち取ることができた。

これからも日本の平和を頼むぞサイキック防衛団、戦え僕らのトラウマン


第一話終わり




第二話 シユウ伝



アラサー主婦"パープル"は殉職したが補充員はいない。

精神感応型エスパーがそうホイホイ見つかるはずがないのだ。

よって次の任務は四十路のリーダー”バーミリオン”とアラサー小太り”ビリジアン”と神経質な大学院生”ミッドナイトブルー”と白髪爺”シルバー”の4人で実行されることになった。

異星人どもは、大阪の関西国際空港を占領して自分たちの拠点にしていた。

今回の作戦はこの関西国際新空港、通称「関空」が目標である。

関空は、海上を埋めた人工島である。周りを海に囲まれているためとても攻めにくい。

しかも、基地上空は異星人自慢のUT結界でおおわれている、地上4メートからドーム状にバリアーが発生していて物理干渉はできない

現在、関空付近の制海権と制空権は異星人の手の中にあるため事実上無敵の要塞となっている。

この関空と内地は一本の連絡橋で結ばれておりその連絡橋に電気や水道などのインフラもすべて内蔵されている。

つまりこの連絡橋さえ破壊することができれば関空の基地機能を大きく阻害することができるのだ。

しかもこの橋はUT結界の範囲外にある。橋の空爆こそが攻略のカギだ

もちろん異星人側もその問題点は把握しており、対策として対空特化型の改造を受けた異星人を配置している。

それをF-2支援機が関空に侵入する前に見つけ出して殺す必要がある。

その対空砲狩りが今回トラウマンに与えられた任務である。

関空まではアメリカの戦略潜水艦に秘密裏に乗せてもらって海から近づく、戦闘後の回収はヘリコプターを現着させる方向だ。

つまり対空砲野郎を殺さない限りトラウマンの帰りの切符は無いのだ。

アメリカ軍も日本と異星人との戦いには参戦していない建前なので、トラウマンの輸送作戦に参加してもらえること自体が破格の待遇といえた。

アメリカとて日本には戦争で粘ってもらってアメリカの戦争準備ができるまでの時間稼ぎをしてもらわなくては困るのだ。


作戦の当日は曇天の空模様

作戦内容から考えて悪くない天気だ。

関空島近くに水面すれすれまで浮上した潜水艦から素早くゴムボートを2隻仕立てると、そこにトラウマンとその護衛を任された自衛隊員が分乗した。

以降は無線封鎖が敷かれる。

敵の位置がわからないのでそれぞれの船は二手に分かれて島にとりつくことになった。

四十路”バーミリオン”と白髪爺”シルバー”は島の西側へ向かい、アラサー小太り”ビリジアン”と神経質大学院生”ミッドナイトブルー”は島の東側へと向かう。

アラサー小太り”ビリジアン”と神経質そうな大学院生”ミッドナイトブルー”が島にとりつくとすぐに捕虜収容所らしい建物を見つけた。

中には多くの人間が寿司詰めで放り込まれていた。

”ミッドナイトブルー”「は放っておくことはできない解放しよう」という。お付きの自衛隊は「ここで開放しても全員を回収する手立てがないので結局無駄な行為になる」それよりまず任務の遂行を優先させようと反論する。その意見が正しいことは”ミッドナイトブルー”にだってわかる。だが救いを求めて恨めしそうに見る捕虜たちの目線が決断を鈍らせ続けていた。

アラサー小太り”ビリジアン”にはこの作戦が成功して関空の資源やインフラが疲弊したときに真っ先に切り捨てられるのはここにいる捕虜たちだろうと予見できた。「異星人たちはジュネーブ条約に調印していない」と主張する。自衛官たちも仕方なく”捕虜の開放はするがその先の面倒は一切見られない”という線で合意した。

”ビリジアン”チームが捕虜収容所に潜入して暴れ始めるとすぐに基地の警報が鳴りだした。


異星人たち、はこの警報を聞いて色めき立った。

関空基地司令にして対空砲台特化型戦闘員のシユウは考える。

なぜ敵の侵入を許したのか。いやそれは今はいい。

問題は襲撃場所だ。どうやら日本人どもの攻撃場所は捕虜収容所らしい。

敵の目的は捕虜の奪還なのだ。しかも敵は少数。

だがどうやってその捕虜たちを逃がすのか。

この基地の空は強力なUT結界で守られており空からの脱出は不能である。すると関空連絡橋からの脱出というのが順当な考え方だ。

ならば戦力を橋の入口に集中させて敵の脱出を阻んだ上で奴らを袋のネズミにしてから蹂躙するのが正しい。

したがって遊撃兵の3分の2を橋の防備につかせる。本土から自衛隊の増援回収部隊がくる可能性が高いので内地側にスナイパー小隊を潜伏させる。

自軍部隊に橋の上で挟撃されるのは最悪だ。来るべき本命の増援部隊をスナイパー小隊に釘付けにさせておく。

そして残りの3分の1の遊撃兵で敵潜入部隊の掃討にあたらせた。

・・・そして、これは低い可能性だが自衛隊どもが超低空で侵入してきてUT結界を強行突破する可能性がなくはない。

万が一の可能性の事を考えてシユウ自身は空港建屋の屋上で空を見張ることにした。


一方捕虜収容所は混乱を極めていた。

解放された日本人たちはどこに行けばいいのかわからない。

解放してくれた自衛隊員は「もうすぐ連絡橋が破壊されるからその前に橋を渡って逃げろ」と指示された。

だが連絡橋の前には重武装の異星人一般兵が待ち構えていてとても渡れる状況にはない。

それなのに自衛隊員は別の任務があるので撤退の支援はできないと言っている。

冗談じゃない、どうやって逃げろというんだ。囚人たちはトラウマンたちにまとわりついて逃げるのを手伝ってくれるように懇願してきた。

護衛自衛隊達はため息をついた、最悪だこうなるんじゃないかと思っていたからだ。

そこに異星人の一般兵がなだれ込んできた。

やばい逃げるぞ、だがトラウマンたちに囚人が張り付いていて身動きが取れない。

異星人はそんな肉団状態のアラサー小太り”ビリジアン”に携帯小型誘導弾で攻撃した。

”ビリジアン”のリフレクトアーマーは特別製でアーマーについている小型爆弾は威力が向上していることはすでに述べた。

それが誘導弾のシーカーに反応して爆発した。

ビリジアンに向かっていた誘導弾はその爆風であさっての方に向きを変えて飛んで行きその近辺を右往左往していた囚人たちを皆殺しにした。

またビリジアンのリフレクト爆弾の爆発自体に巻き添えを食らってビリジアンにまとわりついていた囚人たちもことごとく体をバラバラにされて死んでしまった。

その返り血でビリジアンの全身は真っ赤に染まってしまう。

あまりの惨劇に”ビリジアン”は発狂してしまう。

「だめだ、この服はだめだ」

混乱したビリジアンは電源を切ってリフレクトアーマーを脱ぎ始めた。

普段であれば精神の揺らぎを感じたスーツのコンピューターが、首に刺さった針から精神安定剤を注入して事態を回復させようとするところだが、真っ先にリフレクトアーマーのスイッチを切られてしまってはお手上げである

服を脱いで身動きが取れないその隙に、異星人達の突撃銃攻撃が”ビリジアン”に集中した。

全身を穴だらけにされたビリジアンは死んだ。

残された神経質な大学院生”ミッドナイトブルー”は自分と”ビリジアン”の護衛をしていた自衛官たちに囚人たちのために橋に血路を開くように指示した。

橋の前で壮絶な撃ち合いが始まる。

そしてそんな血だらけの戦場に臆してまたしても”ミッドナイトブルー”は一人逃げ出した。

敵に動きを悟られないように無線封鎖中だったので呼び止めることもできない。

そして”ミッドナイトブルー”は来た時に使ったゴムボートでたった一人さっさと海上に漕ぎ出す。


関空島の西側では四十路”バーミリオン”と白髪爺”シルバー”は潜伏していた。護衛をしていた自衛隊員は途中の戦闘で既に全員殉職している。

島の反対側で爆発音が聞こえる。

なんかまずいことになっている予感がする。

よくわからないが助けに行くべきかと一瞬考えたが、今の自分たちの戦力では焼け石に水であることはわかっていた。

それより今必要なのは任務の遂行だ。

ふと見上げると空港建屋の屋上にフルフェースのヘルメットを被った対空特化型の異星人が立っているのを見つけた。ターゲットだ。

そのほかに敵は見当たらない。チャンスだ。

”バーミリオン”がシェルターをよじ登って対空特化型の異星人にサイコクラッシャーを仕掛けて「シルバー」がバックアップという役割分担が決まった。

”バーミリオン”は音をたてないように慎重にはしごをよじ登って敵に近づいてゆくとターゲットが突然しゃべり始めた。

自分が見つかったのかと思って”バーミリオン”はびくりとしたが、どうやら通信で会話をしているようだった。

自衛隊のF-2が飛び立ってこちらに向かっている事を知らせてきたのだが、異星人の言葉は”バーミリオン”にはわからない。

F-2支援機だと?捕虜回収の目的なら攻撃機だけがが向かってくるのはおかしい。シユウは自衛隊の動きを読みあぐねている。

その時”バーミリオン”はやっと上までたどりついた。

背後からこっそりサイコクラッシャーを使う。


シユウは夢を見始めた。

大学生時代のシユウは引きこもりだった。

アパートの外に出るのが怖かった。

ある日、家族で買い物に出かけることがあった。だがシユウだけは家で留守番をしていた。

出かけた家族が乗った車が事故にあって全員死亡してしまった。

事故を起こした相手から損害賠償が幾分払われたので金銭的には問題はない、だが引きこもりが家族を亡くして生きてゆくことなどできない。

シユウはアパートで首をつって死のうとしていた。

「だめー!!」

そのとき突然アパートの玄関が開いて女の子が家に飛び込んできた。そして泣きながら彼女はシユウを助けようとする。

予想外の出来事にシユウも混乱してシユウも死ぬ気が一瞬で失せた。そして飛び込んできた彼女の話を聞くことにした。

彼女の名はキヨミという。

キヨミには将来を誓い合ったトモキという彼氏がいるらしい、だがトモキは難病にかかっていて余命いくばくもないらしい。

トモキが助かる手立てはただ一つ、他人の体にトモキの人格を移植すること以外になかった。

だが人格移植をするのは誰でも良いわけではない、個々人に適応した人を用意する必要があった。その適応可能性はとても低い。

シユウはトモキの人格移植適応にたまたま合致していたというのだ。

キヨミは「シユウさん、あなたが死にたいというのならぜひその体を私たちに譲ってください、体をくれるなら私は何でもします」

シユウにはもはやこの世界に未練はなかった。

自分の体が死んだあとどうなろうと知ったことではない。

キヨミの提案を受け入れてシユウはキヨミを抱いた。

翌日、キヨミはシユウのアパートで同棲生活を始めると言い出した。

「ちょとまて、どうゆうことだキヨミ」

「シユウがまた突発的に自殺しないように私がここにいて見張ります、それからシユウさんの体はやがてトモキさんのものになるんですから健康的な体になるように料理や部屋の掃除も全部私がします。もう一人の体ではないのですからそこを自覚してくださいよ」

「はぁ?住むなんて勝手に決めるな。俺も、もう勝手に死なないし。」

とんだ押しかけ女房だ。キヨミの自己勝手さにはあきれる。

「信用できませんね。私があなたのことを守ります」

だが、キヨミとの生活は案外快適だった。

暖かい味噌汁、会話のある食事。シユウが久しく失っていたものだった。とても楽しい時間だ。

そしていつしか、シユウはキヨミに心を惹かれていった。

そして、ついに人格移植手術の前日を迎えた。

その日の夜はキヨミと二人で「この世とおさらばパーティー」を開いた。

見たこともないような豪華な食事、酒、そしていつものたわいのない会話。

「いよいよ明日ですね、やっと念願かなって死ねますねシユウ君」とキヨミは俺に笑いかけた。

酒の勢いも相まってシユウはキヨミを押し倒した。

「え、ちょっとシユウ君?」

「いいだろ、犯させろ、どうせトモキが俺の体の中に入ったらこの体で毎日セックスするんだろ」

そう言うととキヨミも俺の体に手をまわしてくる。だがその表情はとても暗い。

やっぱりキヨミは俺に抱かれるのが嫌だったのだろうか。当たり前だキヨミが好きなのはトモキとかいう奴なのだ。くそ。

そう思うとシユウの頬に涙が伝った。

シユウはキヨミの体にしがみつくと大泣きし始めた。

「死にたくない、キヨミ。やっぱり、俺死にたくないよ」

キヨミは枕元に隠していた麻酔薬をシユウに注射するとシユウはすぐに気を失った。

しばらくするとシユウは目が覚めた。

なぜめが覚める俺は人格移植手術を受けて死んでるはずでは?ここは天国か?

いや病院のベッドの上だった。

シユウは体に違和感を感じた。


現実世界の関空島の空港建屋の上ではサイコクラッシャーで意識の飛んでいるシユウがフルフェースのヘルメットを脱いでその素顔をさらした。

シユウはとてもかわしい女の顔をしていた。


夢の世界のシユウは医者から説明を受けた。

シユウが麻酔で眠らされたあと、シユウの人格はキヨミの体に移植され、トモキの人格がシユウの体に移植されたということだ。

トモキとキヨミの間では人格移植適正はなかったが、シユウとキヨミの間には人格移植適正があったらしい。

シユウがキヨミに「死にたくない」と本心を打ち明けたので、その意思をキヨミが尊重して自分の体をシユウに提供したらしい。

「なんだよそれ、キヨミ。トモキと幸せになるんじゃなかったのかよ」

「俺が死にたくなかったには、死ぬのが怖かったからじゃない。キヨミと別れるのが辛かったからなのに。こんなの意味ないよ」


現実世界の関空の空港建屋の屋上でシユウはしくしくと泣いていた。

「ああキヨミ、やっぱりこの体お前に返すよ。お前が居ないなら生きていてもつらいだけだ」

そう言い残すとシユウは自爆してしまった。

その爆風に巻き込まれて”バーミリオン”は屋上から吹き飛ばされて地面に落ちた。

背骨を折っている。とても動いけない。

周囲を警戒していた白髪爺”シルバー”が駆け寄ってくる。

だが白髪爺”シルバー”の身体能力では”バーミリオン”を抱えて逃げることも難しい。

”バーミリオン”はトラウマンの秘密を守るために自決することを選び”シルバー”一人で逃げるように指示をした。

”シルバー”は無線封鎖を解除して作戦が成功したことを伝えるとピックアップ用のヘリであるチヌークを呼んだ。

そして来た時に使ったゴムボートで海上に逃げ出す。


一方関空島の橋の上ではまだ混戦が続いている。護衛自衛隊がトラウマンの劣化ウラン弾弾頭のアンチマテリアルライフルを乱射して無理やり血路を開くと全員で橋の上を強行突破しはじめる。作戦は成功したもうすぐ爆撃が始まる。とても安全が確保されているとは言い難い状況だが全力で橋を駆け抜ければ何人かはたどり着けるかもしれない。

それに追いすがる異星人の一般兵と橋の上で激しいもみ合いになっていた。

そこにF-2がやってきた。そして自由落下爆弾を落とすと全てを壊して去っていった。


こうして第二回目の任務も成功を収めた。

今回の作戦では海上で救出された”シルバー”と”ミッドナイトブルー”のみが生存という未曽有の被害を受けてしまったわけだが戦いはまだ続く。

がんばれ僕らのトラウマン、戦えサイキック防衛団!!


第二話終わり




3話 リーダーは萌え戦士


サイキック防衛団の社長は青山権蔵という人物である。

彼は防衛庁からの天下りである。

青山権蔵は副社長の野中人麻呂と愚痴を言い合っている。

先の関空連絡橋爆破作戦は防衛庁が中心になって策定したものだ。

爆破作戦の主軸はあくまで自衛隊のF-2であって外部団体のサイキック防衛団はあくまで露払いである。

外部団体のサイキック防衛団に目立った功績を上げさせるわけにはいかないという思惑が含まれていた。

このまま防衛庁の傘下の組織として活動していては効率的な組織運営ができなくて将来に禍根を残す可能性が高い。

何かいい作戦は無いものかと知恵を絞っている。

そこに秘書がやってきて補充要因が到着したと告げた。


トラウマンの総員白髪爺”シルバー”と大学院生”ミッドナイトブルー”は会議室に集められた。

会議を取り仕切るのは代表取締役の青山である。

「皆さん先の戦いではご苦労様でした、さすがに2名だけで作戦を続けるのは難しいと判断して新たに3名の補充員を入れることなりました。」

死んだ”バーミリオン”の娘で女子高生の神崎静留コールサインは”レッド”。

売れないインディーズ歌手の野島精一、コールサインは”イエロー”。

退役自衛官の佐野輝明、コールサインは"グリーン"。

以上のメンバーである。

本来ならば護衛自衛隊員も補充されるところであるが専属で要員を確保することは難しく今後は作戦に応じて適時派遣されることとなった。

トラウマンとしてのリーダーは「神崎静留”レッド”が担当することも決まった。

青山権蔵の戦意鼓舞を促す演説は長々と続く。

青山権話の話を聞きながら神崎静留”レッド”は、自分の父親の仇を打つべく決意を新たにしていた。

青山権蔵の話を聞きながら野島精一は”イエロー”、「”レッド”」の姉ちゃん綺麗ぇやなぁそのうち俺の女にしてやるぜ、ぐへへっへと考えた。

青山権蔵の話を聞きながら佐野輝明”グリーン”は、戦争直前に自衛隊から離れてぬくぬくと生きられると思っていたのにとんでも貧乏くじだ、チキショーと考えた。

青山権蔵の話を聞きながら白髪爺”シルバー”は、”お偉方は大きいこと言うが結局前線で命は張らないだよな”と失望していた。

青山権蔵の話を聞きながら大学院生”ミッドナイトブルー”は、サイキック防衛団の迅速な補充のことを考えていた。

しかも今回加入したメンバーのうち前メンバーの血縁者が入っている。とても偶然とは思えない。

つまりサイキック防衛団あるいは防衛庁は、超能力は遺伝していくと考えて親類縁者に調査の手を伸ばしているのではないかとうことだ。

調査だけならまだしも”拉致監禁や洗脳”までやっていることも考えられる。日本の戦況は悪くもはやなりふり構ってはいられないのだ。

”ミッドナイトブルー”の目から見ても弟は超能力者としての素質は高かったように感じていた。どうなっているのかとても心配だ。

トラウマンは家族と連絡を取ることは機密の漏洩の危惧から禁止されている。

それはトラウマンの家族に対する非人道的な扱いを隠すための方便ではないのか?


さて次の作戦である。

敵異星人は、三陸沖600キロの海上にメガフロートを建設中だった。

異星人は、海洋航行中のタンカーを拿捕してその石油を奪い、このメガフロートに備蓄している。

したがって異星人たちの海上軍艦の給油施設にするつもりなのだろう。

建設中ということで防備が甘い可能性が高い。

そこでトラウマン隊員は付近を航行するタンカーに同乗して、わざと拿捕させメガフロート内部に侵入し、偵察写真を撮影してきて破壊作戦実行が可能かどうか、破壊作戦をを実行する価値があるかどうか、を探るデーター集めが任務となる。

護衛自衛隊員が同乗していると異星人の警戒心を煽っていしまうので今回の作戦はトラウマン隊員だけでの行動となった。

当然トラウマンたちも武装も解除した状態で民間人を装っている。

一応拿捕されるタンカーには脱出用に潜水艇が付属されているが。詳しい脱出方法は現場の判断に任されている。


かくしてトラウマンたちはタンカーに乗り込むことになった。

移動中に、”ミッドナイトブルー”は野崎静留”レッド”と二人きりになる機会を作るととトラウマンにスカウトされるときの過程を聞いてみた。

神崎静留”レッド”は父親に超能力者としての適性があることがわかるとほぼ強制的にサイキック青年団の施設に幽閉されてよくわからい薬物投与や手術などを受けて体をいじられ続けたらしい。恐れていた予想どおりの”レッド”の回答に愕然とする”ミッドナイトブルー”はますます弟のことが心配になる。

だが神崎静留”レッド”は後悔がないという、それでもこうして父の仇を打つ機会を得られたのだ。

そんな逝き急ぐ”レッド”の考えたにも”ミッドナイトブルー”は不安を感じた。

想定どうりにタンカーは拿捕されるとメガフロートにえい航されていく。

メガフロートの奥深くの船着き場に接岸させられると、神崎静留”レッド”は総員に叫んだ。

「リーダーの肩書が伊達でないことを見せてやる、サイコクラッシャーを使うから全員覚悟しろ」

そういうとトラウマンを含めた乗組員全員に麻酔弾を打ち込んだ。

たちまちにみんなが眠り込むとメガフロート全体に広域サイコクラッシャーを使う。

メガフロートに乗っていた異星人は全員死に絶えて日本は異星人の基地の接収に成功するのだった。


偵察業務だと言ってあったのに結果は殲滅戦になってしまった。

あまりにも出来すぎる成果に防衛庁の機嫌はとても悪い。

いままで散々税金で飯を食ってきたのに、戦果をぽっと出のNPO法人にさらわれたのでは自衛隊としての立場がないのだ。

本来であるなら、防衛事業委託料を削ってそれとなく圧力をかけたいところだが、もちろん今の自衛隊に異星人を撃退する力がないのはゆるぎない事実だ

下手に予算を絞ってサイキック防衛団の力を削げばそれは日本の破滅を意味する。

防衛庁ではこれまで以上に作戦立案に対する硬直性が高くなった。

今の戦局で本当に攻撃したいところは数多ある。だがその攻撃作戦を実行すればサイキック防衛団の名声はさらに高まってしまう。

実質的にサイキック防衛団を前線で活躍させながら自衛隊の面目が立つ作戦しか作戦実行許可が下りなくなってしまったのだ。

そしてこの戦争に圧勝しろ!!

そんなことは無理に決まっている、その結果自衛隊は長期戦略を全く立てられなくなってしまった。

朗報もある、メガフロートを手に入れたことで異星人たちの情報や技術を得られそうなことだ。

ついに彼ら異星人たちの名前が明らかになった。その名は「メグミン」

異星人「メグミン」は地球だけではなくすでにいろいろな星系に侵略を実行しており巨大な星間連合組織であるようだった。

ああもうこれ絶対勝てないやつじゃん。

かつてのモンゴル帝国のような独立性の高い軍団単位で各方面に侵攻しているようだった。

このことから、日本は別に異星人「メグミン」全軍を相手にしているわけではないらしい。

巨大星間連合全軍と戦わなくてすむともいえるし、さらに別の軍団の増援の可能性もあるということでこのあたりのことはなんとも言えない。

さらに一番気になるのがUT結界の技術である。

メガフロートにもUT結界発生装置が組み込まれる予定だったがまだ完成には至っていないよいうだった。

そのためUT結界関係の技術に関してはかなりわからないことが多い。

これまでトラウマンが敵を倒した時に手に入れたサンプルなどと突き合わせて研究が進むだろうが期待は薄いらしい。


トラウマンたちが帰還後大学院生”ミッドナイトブルー”は、度々野島精一”イエロー”からいじめを受けるようなった。

野島精一”イエロー”は”レッド”に気があるので、タンカーで”ミッドナイトブルー”が個人的に”レッド”と会って話をしていたのが気に入らないのだ。

”ミッドナイト”はヘキヘキしている、こんなギスギスしたチームで命を懸けて戦うことに強い疑問を感じていた。


第三話終わり




第四話 ハゲタカ


防衛庁ではいかにしてサイキック防衛団をやり込むかという不毛な会議が延々と続いていた。

出てきた問題点が戦力の不足である。

そもそも異星人「メグミン」との第一次全面戦争の時に大きな戦力を失ってからの連戦が続いているのだ。

まずは手持ちの軍備を増強しなければ話にならない。

そしてそのためには金が必要である。

だが大蔵省の対応は依然として悪い。

大蔵省だって予算繰りは厳しい、ただでさえ戦争で生活基盤を奪われた人々に対してバラマキをしなければならないのだ。

だいたい今の自衛隊の装備で本当に戦争に勝てるのか甚だ疑問である。

勝てない武器なんかゴミと一緒だ。そんなものに金をつぎ込んで国民の支持が得られるといは思えない。

という方向に議論が傾いていった。

もちろん勝算はある。だがその切り札はサイキック防衛団なのだ。

この議論の方向性からいくと予算は防衛庁ではなく、サイキック防衛団に補助金を出せという方向性に傾いてしまう。

そうなれば、防衛庁を支援していた政治家の皆さんや三菱重工業やダイキン工業などの利権企業群にも大きな恩恵を与えることができない。

防衛庁は苦しい立場に追いやられていた。


そんな折の防衛庁にアメリカの投資銀銀行ゴールドマンサックス証券から面談の申し入れがあった。

ゴールドマンサックス証券は防衛庁の民営化というスキームを打ち出した。

かつて国有企業だった国鉄をJRに民営化したように防衛庁を民営化してその株式を国は売り払う。

そうして防衛庁はその株式の販売代金を使って防衛装備の増強をすることが可能になる。

国は株式会社防衛庁に国家防衛という仕事を発注して出来高で防衛費を支払う。

株式会社防衛庁の株を買った投資家は防衛庁の得た利益の一部を配当金として受け取るとことで収益を上げることができるというものだ。

もちろん政治家の皆さんや防衛庁の偉いさんにも未公開株をバラまいて美味しい思いをしてもらうにのもデフォルト仕様だ。

このスキームならば、

防衛庁は追加装備を仕入れて大活躍

日本は戦争で戦線が安定大躍進

政府は防衛費の圧縮ができて難民にもっと手厚い援助を施すことが可能

投資家は配当金でうはうは

政治家は与野党問わず未公開株でダダ儲け

ゴールドマンサックス証券は主幹証券会社として激儲かり

と、誰もが損をしない夢と希望に満ちた計画だ。


防衛庁は色めき立った。悪くない。

政治家の間でも分け前がもらえるということなので俄然乗り気になった。

すぐに法案の原案が作成されて議会にかけられたがサクサク通過していく。

「軍を民営化するなど前代未聞だ、日本に悪意を持っている北朝鮮などに株を押さえらたらどうするのか?」

などと議論がつづいてはいるが未公開株が野党議員にも回ってくると、目の前の異星人に対しての対応はすべてに優先されるべきだという意見が強くなった。

実務も株式の上場も普通は1年半ほど準備がかかるところが僅か4か月でこぎ着けるという早さで終わった。

ついに上場日を迎える。

上場日は最悪の日だった。

株式会社防衛庁が株式上場で得た資本で購入予定の兵器は異星人「メグミン」に対して全く有効性がないという新聞記事が報じられていた。

トラウマンが制圧したメガフロート調査から日本と異星人「メグミン」の戦力差の問題がリークされたことに端を発している記事だった。

株式会社防衛庁が戦争に勝てなければ、政府から報奨金を得ることができないばかりか倒産の危機もある。

これまでマスコミは、防衛庁の株を買うことは日本の危機に貢献する尊い行為である。日本の力を見せつけるのだ。と散々持ち上げてきたのが手のひらを反すようだった。

株価は急落してずっとストップ安を更新し続けた。

株価が3分の1に急落したところで突然買い注文が殺到した。

ニュース番組で経済ジャーナリストは、欧米のヘッジファンドが株の空売りを仕掛けた時の決済買いが集中したためでありこれは一時的な事象であると説明をする。

つまり株価はまだ下げるだろうという見通しを示した。

だが市場の予想どおりの急落をすることはなかった。

誰かが本気で株式会社防衛庁を買い支えているのだ。その正体は後に明らかになった。5%以上の株を持つ大株主は大量株式保有報告書を5営業日以内に内閣総理大臣に届け出る義務があり、そしてそれは即日公開される義務がある。

そこで明かされた株式会社防衛庁の大株主、それがなんとNPO法人サイキック防衛団だったのだ。

その持ち株比率は67パーセントに及ぶ。

まさかの事態である。

NPO法人サイキック防衛団は防衛庁を買い占めるほどのお金があるはずがない。誰もが現実を疑った。

そのとおりである。

ではどうやって株を買ったのかというとレバレッジドバイアウトという手法を使って買収資金を得ていたのだ。

サイキック防衛団は、ゴールドマンサックス証券に対して、

「防衛庁の経営権が欲しいので同社の株を買い占めたい、ついては資金を貸してほしい」、と借金を申し出た。

借金をするには担保が必要である。

そこでゴールドマンサックス証券はサイキック防衛団が借りた資金で得た株に対して抵当権を設定して買った株を担保にしてしまったのだ。

さらに付随契約で株式会社防衛庁の配当金はそっくりゴールドマンサックス証券の取り分になってしまうが、サイキック防衛団にとって金は問題ではない。

株式会社防衛庁の作戦指揮権つまり人事権が欲しいのである。

早速株主提案で臨時株主総会が開かれ、株式会社防衛庁の人事が刷新された。

防衛庁の新社長はサイキック防衛団の副社長野中人麻呂が選出された。

こうしてサイキック防衛団は、今後の異星人「メグミン」にたいする作戦の決定権や指揮権を獲得することに成功したのである。

もちろんこうした一連の話の流れは全て、サイキック防衛団の青山権蔵社長と副社長の野中人麻呂が策謀したシナリオ通りの流れである。

「戦争のすべてはここからだ」青山権蔵はそうつぶやいた。


第四話終わり



第五話 スズコの決意


問題はこれからだ、サイキック防衛団はゴールドマンサックス証券に多額の借金をしていることは変わらない。

この借金を返すためにサイキック防衛団は本格的な民間軍事プロバイダーつまり傭兵稼業をしなくはならない。

日本の報奨金だけでは借金を返すことはままならない。

そこで海外での戦争請け負いサービスを展開する部門を新設することとなった。


精神戦隊トラウマンに所属する大学院生”ミッドナイトブルー”、もっとも戦争ばかりしていて大学院には顔を出せてはいないのだが。

”ミッドナイトブルー”は、チームの野島精一”イエロー”の度重なる嫌がらせにヘキヘキしていた。

野島精一”イエロー”がリーダーの神崎静留”レッド”をデートに誘って断られるたびにそのうっぷんを晴らすべく”ミッドナイトブルー”に嫌がらせをしてくるのだ。

自分がモテない原因を自己に求めるのが嫌なので、神崎と仲が良かった”ミッドナイトブルー”のせいにしたいのだろう。

こんな人格に問題を抱えている人間を命を預けるパートナーの一人にすることは到底我慢の限界を超えている。

そこに降って沸いた海外派兵部隊の新設の話だった。

”ミッドナイトブルー”はサイキック防衛団から離れたい一心で海外派兵部隊に志願することにした。

サイキック防衛団としても”ミッドナイトブルー”の提案は驚きを隠せなかった。

「メグミン」に対しての切り札である超能力者はとても貴重だ。

だがその戦闘力の有効性は対人戦闘であってもゆるぎない。海外営業で早期に実績をアピールしたい海外事業部では前向きに検討されていた。


異星人「メグミン」の母星、軍部の医療研究室

スズコは地球侵攻作戦の報告書に目を通していた。

気になるのが、PTS戦場心疾患による自殺者の比率が少し高いことに気が付いた。

PTS自体は珍しくもない症例である、発生件数に多少のブレが生じることもよくある話だ。

だが腑に落ちない。

三陸沖に建設中だった補給基地の建設員が同時に全員自殺するという話は異常性を感じた。

さらに、スズコは関空基地に派兵されて自殺したシユウという人物を個人的に知っている。

彼は、人格移植手術によって命をつなぎとめていたことを聞かされた。

「他人の命をもらって自分は生かされているのだから、体をくれた人物の分も自分は生きる義務があるんだ」

そう常日頃言っていたのが印象的だった。

そんな人物が安易に自殺するとは考えられなかった。

地球で何か起こっているに違いない。スズコは調査することを自分の上司に意見具申した。

この意見具申は直ちに検討に入ったが調査部隊の派遣には至らなかった。

その理由として、

まず調査隊の絶対的な不足があげられる。

次に日本の地球攻略というのは「メグミン」にといって重要な案件ではないことが指摘された。

派兵されている戦力もごくわずかで、戦線を維持することで得られる戦略的価値は低い。

現在各星系に侵攻中の軍団からは、まったく新しい病気の報告相次いでおりその対策や特効薬の開発の依頼が殺到している。

絶対的な派兵人数が多い軍団の方がやはり調査隊の派遣効果が大きいことが予想されるのでそちらを優先的に調べるのが先だという。

調査チームの台所事情もそれなりに把握しているのでスズコも半ば予想していた反応だった。それでも何か胸騒ぎを覚えた。

それが巨大星系国家「メグミン」の蟻の一穴になるような漠然とした不安がよぎっていた。

こんなムシャクシャした気持ちは酒でも飲んでぱ~と晴らそうと考えて、女友達のサトミと飲み会をすることにした。

サトミは医学校時代に出来た友人だった。スズコはそのまま軍医の道を選んだがサトミはプロカメラマンに転身した変わり種だった。

スズコはサトミから写真の撮り方を教わり、写真を撮ることは二人の共通の趣味になっていた。

しばし自分たちがとった写真を見せ合い写真談議にふける。

スズコの方から飲み会を提案するときは決まってスズコが何か悩み事を抱えている時だ。そしてそれを吐かせてカウンセリングするのがサトミの役割だった。

スズコは自分の提案した調査団が派遣されなかったことをサトミに伝えた。

サトミ「問題が調査団の人数不足なら、あんたが調査団として日本に行けばいいじゃない」

スズコ「えー、日本だよ、未開の地だよ、オフに遊ぶとこ全然ないじゃん」

サトミ「それでも、スズの心はもう決まっていて、私に背中を押してもらうために今日来たんでしょ」

スズコ「ぐぬぬう」

サトミ「日本の景色写真を楽しみにしてあげるから、行ってきなよ」

そういわれてスズコもにっかりと笑った。


スズコの調査団編入願いは受理された。

日本にスパイとして入り込み何が起きたのか実態調査に乗り出す。

スズコは日本人と身体的な見分けがつかなかったのでスパイとしては適任だった。

調査するとPTS事件直前に戦闘が起きておりその戦う相手の中に「サイキック防衛団」とう謎の組織が含まれていることに気が付いた。

この組織は色々謎な部分が多いのだが民間会社なので情報の開示義務がなく、内部事情を知ることができない。

「やはり潜入捜査をしないと」

そんな折、サイキック防衛団が海外派兵組織を作ることになったので団員を募集することになったというニュースを聞いた。

スズコはこの募集に応じることにした。


チベット、モンゴル自治区

中国の自治領として自治を認められていることになっているが、実態は大きく異なる。ただの植民地だ。

この地の人々は自治権の回復を求めて中国政府と度々軍事紛争に発展していた。

広陵とした荒れ地にたたずむスズコ。あちらこちらに砲撃でできた大穴が地面に穿たれている。

その様子を無心になってファインダーに収めていた。

そのファインダーの中に同僚の男が入った。

たしか、あいつは寅之助とかいう名前だったか?もっとも古臭いネーミングを本人は嫌っていて自分のことは”ミッドナイトブルー”と名乗っていた。

トラと声をかけると怒り出すのでいつしか仲間たちも彼のことを”ミッドナイトブルー”と呼ぶようになった。

ファインダーの中の”ミッドナイトブルー”もこちらに気が付いて近づいてくる。

「やあ、砲撃跡が珍しいのかい」

と声をかけてきた。

軍関係者だったスズコには砲撃跡なんか珍しくなかったが、異星人のスズコにとっては地球で見るものすべてが新鮮だった。

「そう、かもね」そう答えて少しはにかんだ。

ミッドナイトブルーにはその様子が少し可愛く見えて「君の撮った写真が見たいな。見せてくれる?」

スズコはにっかりとうなずいた。

これが二人の出会いだった。



第五話終わり



第六話 ケンタ伝


次の精神戦隊トラウマンの作戦は救出作戦である。

政府要人を乗せた航空機が異星人「メグミン」によって攻撃を受けて日本アルプスの山脈のどこかに不時着した。

これを救出するのが目的だ、むろん「メグミン」側も捜索隊を出して要人の奪取を狙っている。

異星人どもより先に要人を回収することが大事である。

航空機の乗員たちからは救助要請の無線は入らなった。

「メグミン」からの追撃を恐れて無線封鎖をしているものと考えている。

実は生存者がいなかったという最悪の事態もあるが、断定できない現状ではやはり捜索隊を出すべきだということになった。

このような事態を想定して、乗員の手荷物にはビーコンの発生装置を入れてある。

2キロ圏内にビーコンがあれば探知できるだろう。

トラウマン達は、すぐに現場に急行してビーコン捜索に参加し、敵「メグミン」が現れたときはこれを速やかに殲滅することが任務である。

部隊編成は神崎静留”レッド”と白髪爺”シルバー”のチーム、野島精一”イエロー”と佐野輝明”グリーン”のツーマンセル2チームに分かれて捜索する方針だった。

この方針に野島精一”イエロー”は反対する。

「いやいや、俺は静留ちゃんと一緒がいい」

佐野輝明”グリーン”は野島にあきれ果てた。

「えー、いい加減にしろよ野島、そしていい加減にあきらめろ」そこまで言うと佐野輝明”グリーン”は野島精一”イエロー”を自分に近づけて耳打ちした。

「そんなにリーダーがいいのか?」

野島精一”イエロー”も佐野輝明”グリーン”に耳打ちし返す。

「だって可愛いじゃん」

「確かに、静留は可愛いが、かなり性格きついぞ。付き合ったら絶対苦労するって」佐野は心からの忠告をした。

神崎静留”レッド”の話題で野島精一のボルテージはだんだんと上がっていった。

「いやいや、あんないい体見せられたらそんなことは大事の前の小事なんだよ」

もはやひそひそ話ではない。

野島精一”イエロー”の声は神崎静留”レッド”の耳にも届く。

野島の”体”という言葉に一瞬ドキッとして「私の体は、そんなにいいものじゃないわ」と小さくつぶやいた。

その声は怒りよりも悲しみを持った物だった。

その会話に白髪爺”シルバー”も加わる。

「俺も”レッド”と組みたい。”イエロー”俺に譲ってくれないか」

爺の顔が真剣だったので、野島ももう意見を言えなくなっていた。


現場に向かうヘリの中

神崎静留は”シルバー”に聞いた。

「どうして私と組みたいって思ったんですか」

「俺は、君のお父さんを助けることができなかったから・・かな」

白髪爺はそう答えた。

しばしの沈黙が続いて静留は口を開いた。

「父の最後を教えてください」

”シルバー”は関空島での戦いの一部始終を包み隠さず教えた。

自分が”バーミリオン”を見捨てて一人逃げ出したことを。

神崎静留は自分の父親の立派な最期を聞いてとても誇りに思った。そして自分も父のような立派な戦士になりたいと思った。

その気概で自然に体がこわばってゆく。

その様子を見て”シルバー”は神崎静留の肩を優しく抱いた。

「必要以上に気負うことはない。君はまだ高校生なんだ。子供だよ。子供は子供らしく泣くことも必要だ。」

神崎静留は爺の胸の中で声を殺して泣いていた。


神崎たちの乗るヘリが墜落現場付近に着くとすぐにビーコンの反応をキャッチした。

納屋のような小さな建物から反応が出ているようだ。

二人は素早くヘリを降下するとヘリは上空に待機させる。

”シルバー”と”レッド”は慎重に納屋の中に入っていく。その中には点滅するビーコンだけが残されていた。

しまった罠だ。

納屋は大爆発を起こしたが「シルバー」と「レッド」はぎりぎりのところで納屋を出て爆発を回避した。

納屋の周りには異星人「メグミン」の一般兵が伏せっていた。全周を囲んだ兵士たちは炎上する納屋に向かって一斉に鉄砲や迫撃砲を打ち込んでくる。

この攻撃で”シルバー”のヘルメットに大きな穴が開いた。かなりの深手を負ているようだ。

神崎静留はサイコクラッシャーを全周に向けて放射しようとする。それを”シルバー”が止めた。

「今広域型のサイコクラッシャーを使えば上空のヘリの乗員も巻き込まれる。神経ガスを使おうガスは比重が重いから上空のヘリに被害は及ばないはずだ」

だが”シルバー”のヘルメットは穴が開いていて機密性がない。神経ガスを使えば爺もタダではすまない。

「どうせこの傷では助からない」

”シルバー”が自分のヘルメットを外すとその素顔が見えた。顔がぐちゃぐちゃにつぶれているなぜ生きているのか不思議なくらいだ。

”シルバー”の首筋に刺さった針は痛み止め薬と鎮静剤を大量に供給して意識を無理やり維持させているのだ。

そう言うと”シルバー”は腰についていた円筒形の缶の口を開いた。

シューというガスの抜ける音がする、色はない。

「シルバー」の皮膚に水袋と赤いただれが浮かびだした。神経ガスの苦しみにたいしては痛み止めも全く無力だった。

その場で七転八倒してもがき苦しみながら彼は絶命した。


その後探していた政府要人はすでに「メグミン」の手に落ちていて航空機に乗せて輸送中のところを発見する。

現有戦力では奪還作戦実行は困難と判断され、機密保持のため敵航空機を撃墜することになった。

「イエロー」達の乗るヘリは敵航空機の前に躍り出る。

トラウマンの乗るヘリには武装が付いていなかった、それが敵の慢心を生んだ。

野島精一”イエロー”はサイコクラッシャーをコックピットに打ち込んだ。


敵機のパイロットは夢を見だした。

それは日本に赴任する前のころ

彼の名前はケンタ、以前は惑星エンブーに勤務していた。

エンブーは異種族国家だったが「メグミン」に占領されて植民地となっていた。

植民地されて日も浅く「メグミン」に反抗するレジスタンス活動が横行していた。

ケンタはこれらのレジスタンス活動を取り締まるのが仕事だった。

ケンタには相棒がいた、トンペイという人物だった。

トンペイは「メグミン」に帰化したエンブー種でレジスタンスたちの内定調査にはうってつけだった。

そしてもちろんケンタには、トンペイが不穏な事をしでかさないかを見張るという業務もあった。

トンペイは、大規模なレジスタンス組織の軍事計画の情報をつかんだ。

やつらは夜な夜なバーに集まって計画を練り上げているらしい。

部隊で現場を押さえて不穏分子どもを一網打尽にしたいところだが、こちらの戦力よりも敵の戦力の方が多い。

さてどうしたものか。

トンペイは作戦を練った、それはバーで使用される酒に幻覚剤とアッパー系の麻薬を混ぜるというものだった。

幻覚状態でテンションが上がった連中は同士討ちを始めるだろうというものだった。

むごい作戦だ。それが第一印象だった。

市民への被害の事を考えて混ぜる薬は睡眠薬に変更されて制圧作戦は滞りなく終わった。

ケンタはトンペイの考えた作戦があまりにも惨かったのでかつての同胞に感じるものは何も無いのかと聞いた。

「無い、何もない。エンブーは「メグミン」に負けた。国民を守りぬく力がない国だった。そんな国は守る価値もないし、その国を今更救おうとする奴らは愚かだ」

と、取り付く島もない。

その考えにケンタは違和感を覚えた。

つまりトンペイが「名誉メグミン人」として国に尽くしているのはその方が自分のためになると考えているからだ。

「メグミン」は強いだから味方する、そのほうが得をしそうだから。

それは国家に忠誠を誓っているわけではない、もし国がトンペイに損をさせるようなことを言い出せば裏切ることもありうるのではないか?

軍にいたら貧乏くじを引くことはよくある。その時トンペイを信用していいものか?

不安はケンタの中で日増しに強くなっていった。

しばらくしてケンタのいる部隊は武装レジスタンスとついに全面戦争する時が来た。

「メグミン」の旗色は悪い。味方が包囲される陣形が出来つつあった。

トンペイは「相棒このままじゃ不味い、俺が先に逃げて退路を確保する」

そいうと後方に走り出した。

それを見てケンタの心に猜疑心が広がった。「何をしている、敵前逃亡は銃殺だぞ。」ケンタはトンペイに対して発砲した。

「ふざけんなよ、相棒見捨てて逃げるわけなだろ」そう言いながらトンペイはハチの巣になって死んだ。

その場をなんと切り抜けると、戦闘後ケンタは査問委員会にかけられた。

査問委員会で、ケンタはトンペイには裏切り体質があると自分の体験を説明して自分の行為は正当だったと訴えた。

委員会は一応ケンタの主張を認めたが転属勤務を申し渡した。

ケンタの上司はいう。

「お前、トンペイの嘘がわからなかったのか。「名誉メグミン人」はみんな自分に嘘をついているんだ。

自分はとても利己的な人間で、だから仲間を売っても平気なんだって。

そうでなければとても自分の平常心を保つことができない。

俺らの仕事は、「名誉メグミン人」の嘘を暴くことじゃなくて、嘘を飲み込むことなんだ。

お前、この仕事向いてないよ」


”イエロー”のサイコクラッシャーを受けた敵機体はとたんにバランスを崩して墜落してしまった。

敵機の全乗員の死亡が確認されたという。


第六話終わり



第七話 サイコクラッシャーの正体


トラウマンの増員に上層部も動いていた。

今回新たに2名の隊員の補強があった。

梨田康生20歳、”ブルー”のコールサインが与えられた。とても小心な性格で実は”ミッドナイトブルー”の弟にあたる人物だ。

もう一人は寺島寛治34歳、”ピンク”のコールサインを与えられた。うつ病を患っているため事務職を離職して治療にあたっている人物だった。

とても戦争をさせるのが適当とは言い難い人選であるが、今回が第2次補強ということで人脈にも限りある。

とにかくサイコクラッシャーを打てることが第一条件でその中からとなると致し方ないとこともある。

神崎静留”レッド”も頭を抱えていた。

そんな”レッド”の様子を横目で見据える佐野輝明”グリーン”。

我らがリーダー様はいささか真面目過ぎる。

そんなに気を張っていたら緊張の糸が途切れてしまうだろう、何か戦争以外の事も体験してリラックスする必要があるな。


地球の静止軌道上にある異星人「メグミン」の旗艦宇宙船スターリオンでは戦略会議が開かれていた。

議長はトラバーサーという人物だ、日本方面作戦司令で女性である。

話し相手は、副司令官で面長のアコンカグヤ、中年太りの幹部ポチョムキン、初老の幹部エイシン、この3名である、議題は補給だ。

参謀たちは現状ではATフィールドを維持するためのエネルギー素体「マグネタイト」は2か月で枯渇することと人員や弾薬の補充がないので戦線の拡大ができないことが報告される。

司令官トラバーサーは師団長に通信をつないであらためて増援の派遣を要請した。

「メグミン」はかつてのモンゴル帝国のような独立性の高い師団で形成されていてそれぞれが独自採算で侵略活動をしていた。

地球方面侵攻作戦は「メグミン」に6個ある師団の中でも一番小さい第6師団の指揮下で実行されている。

投入できる戦力規模から地球全体に対して戦争をすることは不可能であった。

だからあえて第六師団は日本に限定して宣戦を布告したのだ。それでも厳しい戦いになることは予想していたがそれでも有望な星には先手を打って宣戦して侵略着手しないと領土を他の師団に横取りされる可能性は高い。

師団長は侵攻作戦時には追加で増援部隊を派遣することを約束していたのだがそれが滞っていたのだ。

師団長の説明によると「メグミン」母星の皇帝陛下が体調を崩したことを機に、次期皇帝の選出作業が始まる機運があるらしい。

このため次期皇帝の人事に対して各師団が牽制やら多数派工作やらをするために母星に集結しており遊撃艦隊の余力がないのだという。

「ここで遊撃艦隊を派兵してしまうと母星での軍事バランスが壊れて政治活動に支障がでて母星にかえる椅子を失うかもしれない」という。

日本方面司令官は「このままでは最悪日本撤退も十分にあるうる。そうなれば第六師団の威信に傷がついてますます政治的に困るのでは」と食い下がった。

議論の末ATフィールドのエネルギーである「マグネタイト」の3か月後の補給だけが手配されることとなった。

師団長との通信が終わると再び参謀たちとの会議が再開された。

副指令で面長のアコンカグヤから「どうせ戦線を拡大できないのだから、威力偵察出撃の回数を減らして物資や人員の損耗を減らすべきだ」という提案がなされた。

この提案に対してトラバーサー司令は、こちらの継戦能力の無さを気取られる可能性があるので否定的な考えを示した。

戦力の補充に関してはあらためて軍司令にうかがいをたてることと旗艦宇宙船スターリオンを横浜港に降ろして母艦の遊撃兵を各拠点に再配備することで人員を補うこととした。

UT結界の出力を最低に設定して「マグネタイト」の温存に尽くすことも決定された。

日本の自衛隊もまた継戦能力が著しく低いことが事前調査で解かっている。それが宣戦布告先を日本に決めた大きな理由だった。

長期戦は第六師団にとって有利に働くのだ。


異星人「メグミン」の軍再配備の変化はすぐにサイキック防衛団側にも伝わった。

だがその変化は小さい。それが希望の綱だった。

防衛庁は資金の確保はできたが発注した装備が実際に装備が配備されるには2年はかかる。

それまでに「メグミン」が大規模攻勢に打って出られるとひとたまりもない。

待っていも、電子戦装備などは装備の更新ができないのでどんどん戦力が減衰するだけだったが、自衛隊側も静観を決め込むしかない。

そして「メグミン」との戦闘が少なくなっていった。

トラウマン達にも自由時間が多くなった。

するといつものように野島精一”イエロー”は神崎静留”レッド”をデートに誘う。

”レッド”がそれを断ると野島が怒って、暴れる。

野島精一”イエロー”はとんでもないクズだと神崎静留”レッド”も思う、問題はその野島の怒りの矛先が梨田康生”ブルー”と寺島寛治”ピンク”にしばしば向けられることだ。

以前に”イエロー”の暴力が原因で”ミッドナイトブルー”を辞めさせてしまったことを思い出すと、これはかなり不味い構図だった。

かと言って、”イエロー”を更迭するわけにもいかない。

野島精一”イエロー”のサイコクラッシャーは有効射程が神崎静留”レッド”よりも長く威力も絶大だった。戦力的に手放したくない。

佐野輝明”グリーン”は、「一層の事、静留が野島のデートを受けるのが一番早い解決法だ」と提案してきた。

佐野としては、仕事一辺倒なリーダーに、他の体験をしてもらうことで気晴らしになるかもしれないと考えていた腹案であった。

「全く、他人事だと思っていい加減なことを言いわないでほしい」

神崎静留は怒った。なにしろ相手はあのクズ人間の野島精一なのだ、とても気が滅入る。

佐野輝明”グリーン”は「いいからデートしろ、これは隊の存続に必要なことだ。そして楽しめ」と押し返す。

部隊のこと、梨田康生”ブルー”と寺島寛治”ピンク”のことを考えると捨て置けないのも確かだ。胃が痛い。

そこへ野島がやってきた。

「ヤッホー、静留ちゃん。俺とデートしてよ」

いつもの不毛な問答がきた。

「つ、ツーリングデート。それなら行ってもいい」静留は嫌そうに答えた。

絶対断られると内心思っていた。野島もあっけにとられる。

その様子を覗いていた佐野輝明”グリーン”は満足そうだった。「いい機会だ」


二人のデートの日が来た。

デート内容は二人がそれぞれバイクに乗って箱根の山を往復するとい内容だった。

神崎静留は男慣れしていない。二人きりで会話が続くとは考えられないしそもそも興が乗らない話だ。

単車で走るだけの内容であるなら気兼ねなくやり過ごせるのではないかと考えて、ツーリングデートを思いついた。

ライダースーツを着込んだ二人は颯爽とバイクに乗り走り出す。先頭を走るのは神崎だ。

道は所々戦争で穴が開いている部分もあったがバイクなら難なくかわすことができた。

最初は乗り気ではなかった神崎も、頭を空っぽにして爆音と振動に身をゆだねているうちに楽しくなっていた。

道中の景色に緑があふれ出すころ神崎はバックミラーから野島のバイクが消えていることに気が付いた。

どこかではぐれたのだろうか。慌てて来た道を引き返す。

すぐに野島とそのバイクが見つかった。

野島のバイクは駆動チェーンが切れていて走行不能になっていた。

「バイク壊れちゃった。これじゃ帰れないよ、静留ちゃんのバイクに乗せてよ。」

野島はにやにやしながら言う。

こいつわざと自分のバイクを壊したんじゃないかと疑ったが、バイクの故障は故意のものには見えなかった。

置いて帰るわけにも行かないので神崎静留は野島精一を自分のバイクの後部座席に乗せると帰路を急いだ。

野島は後部座席に座ると神崎に体を密着させて神崎の腰に抱き着いてくる。なんか時々体をまさぐる。

耳元で「静留可愛いとか、愛している」とか引っ切り無しにつぶやく。

本当に気分が悪い。しかし自分は運転しているので反撃できない。

野島に運転を任せて自分が後部座席に座ることも考えたが、今の野島ならハンドル握った瞬間にラブホテルに連れ込まれそうな気がしてそれも悪手な気がする。

二人は2時間かけてサイキック防衛団の本部に帰ってきた。

神崎静留はもはや怒りが頂点を通り越して悲しくなっていて。

野島精一が結局自分の事をどこまでいっても性欲の対象としか見ていないのがわかったからだ。

「少し付き合って」神崎静留は野島精一を事務所の会議室にさそった。


「”イエロー”はサイコクラッシャーの正体を知っている?」あえてコールサインで野島の事を呼んだ。

「敵を精神汚染する攻撃法だろ」野島は答える。

「そうね、でも私が言いたいのはその科学的なメカニズムよ」

それに関しては野島精一も知らない。神崎静留は続けた。

「ある特定の周波数の電磁波は人間に幻覚を見せることがわかっているの。

幽霊の目撃談が高圧送電近くや帯電しやすい山間部の鉄橋に多いのはこのためだと言われているわ。

私たち、精神感応型のサイキッカーとはつまるところ人体の体内電流を強化することでこの幻覚発生電磁波を放射する特異体質を持った人間の事なの。

私はね、この戦争に勝つために、父の復讐をとげるために体に改造手術をして能力を強化してもらったわ。

でもねそんな高圧電流を発生し続けたら人の体はどうなると思う」

神崎静留はつなぎのライダースーツを脱いで一糸まとわぬ姿になる。

突然予想外の行動をする神崎静留に野島精一は戸惑ったが、神崎の裸を見てその表情は引きつった。

神崎静留の体は全身に赤黒い斑点が浮かんでいた。とても醜い。

「末期の皮膚がんよ、・・・こんな体の私でも”イエロー”は私の事を抱けますか」

電磁波には、人間の細胞をガン化させる効果が強いことがよくしられている。

一般の電化製品にも発生させる電磁波に制限がかけられているのだ。

神崎静留の体を蝕んでいるガンが皮膚がんだけではないことが野島精一にも容易に想像できた。

こわばる表情で唾をのみ込むと野島精一”イエロー”は「いや、ちょっと用事を思い出したから今日は無理かな、はっはあっは」

そういうとそそくさと部屋から出て行った。

後に残された全裸の”レッド”は事務所の鏡に映る自分を見つめた。

「お父さん、私にはもう時間がありません。私、このままで本当にお父さんの仇がうてるの?」

神崎静留は一人さめざめ泣いていた。


第七話終わり



第八話 ナイトメア計画


モンゴル自治区での作戦は無事終了した。

依頼にあった。中国人民軍の前線基地は基地機能を失って撤退を始めている。

サイキック防衛団の方も撤退作業に入っていた。

サイキック防衛団の軍服を着た男”ミッドナイトブルー”はスズコに不満そうにいう。

「それでも俺たちが撤退したらまた中国人民解放軍は軍を再編して攻めてくるんじゃないか」

「まあそうだろうね」

せっかく自分たちが作った戦線を維持できないなら戦闘で亡くなったサイキック防衛団の団員たちは何のために死んでいったのかわからなくなる。とても空しい気分になる。

スズコ達の同僚の木下という男が話に加わってくる。

「クライアントに深く感情移入するのはやめたほうがいいな、俺たちは傭兵なんだ金の切れ目が縁の切れ目。」

スズコも「なるほど、最悪今度は中国軍に雇われて、今度は私たちがモンゴル自治区に攻め入ることもあるかもね」

「・・・・・あー・・・・・」

ありうる、二人はそう思った。

これは慣れる必要があるなと”ミッドナイトブルー”痛感する。

普通の人なら会社の方針に意見が合わない場合会社を辞めることができる、だがサイキック防衛団にとって特別な存在である”ミッドナイトブルー”には職業選択の自由など無いのだ。自分を押し殺して慣れるしかない。

木下は、「これから俺たちはエジプトに向かう。次の仕事だ。ただし”ミッドナイトブルー”には健康診断で本部に一時帰投命令が出ているらしいぜ。”ミッドナイトブルー”お前何か体悪いのか?」

「いや特に問題はないが、」

平静を装ってそう答えてみたものの本部がらみの呼び出しに”ミッドナイトブルー”は悪い予感しかしない。


”ミッドナイトブルー”は日本に帰国した。

健康診断なんて本部がまたろくでもない仕事を頼むために呼び寄せる口実だ。

そう思っていたが本当に厳重な診察を受けた。

サイコクラッシャー使いの自分に対しては当然のケアなんだろうか。

そう思っていた矢先に世田谷本部に呼び出された。

会議室にはサイキック防衛団の青山権蔵社長と、サイキック防衛団副社長兼株式会社防衛庁社長の野中人麻呂が待っていた。

青山権蔵「検査結果よかったそうだな、何よりだな」

野中人麻呂「今日来てもらったのは、君に協力してもらいたい計画があってね」

青山源蔵「ナイトメア計画、「メグミン」を一掃できる我々の切り札だ」

”ミッドナイトブルー”「嫌だと言ったらどうなるんだ」

野中人麻呂は掛けている眼鏡を外してレンズを拭きながら答える「実はね、君がトラウマンを抜けた穴を君の弟さんの梨田康生君に埋めてもらっているんだ」

・・・・つまり康生を人質にとっていると言いたいのか。信じられない、弟は俺以上の小心物なのだとても戦争なんかできる人間じゃない。それを前線に立たせているというのか。

”ミッドナイトブルー”に怒りがこみあげてくる。

青山権蔵「君がナイトメア計画を完遂してくれたなら。梨田康生くんはもうトラウマンとして戦う必要も無くなるわけだ」

”ミッドナイトブルー”「俺がそれを引き受けたなら康生の命は保証してくれるのか」

青山権蔵「保障はしかねるな、何しろ我々がしているのは戦争なんだ。・・・ただ善処はしよう」

「それでいい」と”ミッドナイトブルー”はあきらめ顔でうなずいた。

野中人麻呂「そうかやってくれるか、では計画の全容を説明したあと君には計画の要となる新兵器のデータ収集に協力してもらう」

”ミッドナイトブルー”はその後、筑波の波動理論研究所に移動して能力向上を目的とした手術とサイコクラッシャーの試射実験を数十回繰り返す。という生活をさせられた。

さすがにくたくただ。

この内容では、出撃待機のトラウマン達に協力させることはできなかっただろう。

全てのノルマを達成すると”ミッドナイトブルー”は再び海外派遣傭兵としてエジプトに向かうことになった。

出発の前に青山権蔵が見送りに来た。

「ご苦労だったな、梨田寅之助くん。せっかく日本に帰ってきたのに弟には会っていかないのかね」

「俺はもう日本を守るヒーローじゃない、ただの人殺しだ。康生に合わせる顔がない」

そう言って青山権蔵と別れた。


エジプトサイキック防衛団海外派遣部の駐屯地に連絡用のヘリが到着した。

スズコが出迎えるとヘリから”ミッドナイトブルー”が降り立つ。

「おかえりなさい、ずいぶん長かったけど健康診断はどうだったの」とスズコが尋ねると。

「委細問題なし、・・・だから早速戦争に駆り出された、ミッションルームに行こう」

「エースは大変ね」とスズコは笑った。

二人は作戦室に一緒に入った。


司令官が状況を説明する。

「さて今の状況説明からする。

ことの発端はリビアの野党団体がエジプトに亡命したことに始まる。

リビアは亡命した人々を国家反逆罪の犯罪者として引き渡すように要求したがエジプト政府はこれを拒絶した。

そこでリビアは報復措置として中距離ミサイルイスカンダル2発をエジプトの軍事空港に打ち込んだ。

この攻撃の報復措置としてエジプト軍もリビアの前線基地に大規模攻勢をかけたんだが、エジプト軍にはその実力がないので実行部隊としてトルコにある傭兵派遣会社ハンマーヘッドを雇うことになった。報酬は400万ドルの金塊だった。

ハンマーヘッドはとどこおりなく任務を遂行したがエジプト政府は報酬の支払いを渋ってハンマーヘッドを攻撃して国外に追い出した。

そこで我々がハンマーヘッドに依頼されて集められたということだ。」

スズコ「なるほど、ハンマーヘッドに成り代わって400万ドルの金塊を取り立てるというわけか」

司令官は続けた。

「いや、ハンマーヘッドの連中は、金より血が見たいんだと」

「ははは、そいつは傑作だ」と”ミッドナイトブルー”は笑った。

「そこで今回の作戦は、エジプト軍の燃料備蓄タンク基地をど派手に爆破する。

ペルシャ湾には自衛隊から払い下げられたイージス護衛艦「しまかぜ」がいる。

同艦からシースパローが発射されるので我々が基地の南側の丘陵地に陣取ってミサイルの終末誘導をするべエジプト軍の燃料タンクにレーダーを当て続けるのが任務だ。

ここはリビアのイスカンダルミサイルで空港がつぶされたおかげでエジプト軍のMIG21フィッシュベッドも足が届かない。

簡単な仕事だ。」

”ミッドナイトブルー”は「そして報酬も安い」と続けると笑いを誘った。

「それでも同業者のよしみだ。この業界をなめるとどうなるのかは、きっちりと思い知らせる必要があるな」

「同感だ」


3時間後作戦は開始された。

スズコと”ミッドナイトブルー”が静かに身をひそめながらエジプト軍基地近くの丘陵地を目指す。

二人だけの行軍だ。敵兵に見つかれば返り討ちにされる可能性が高い。

現地付近に来ると作戦予定地の周りを偵察部隊が嗅ぎまわっていた。

偵察兵の巡回時間ではないはずだが、イレギュラーの偵察か?

うかつに近寄れない、だが「しまかぜ」はすでにシースパローミサイルを発射しているころだ。

ぐずぐずはしていられない。

スズコは「偵察部隊に奇襲をかけて倒し、強引に設営するか?」

「そうだな、時間がない。だが銃は使うな。ここは基地が近いから銃声を聞かれる」

スズコは”ミッドナイトブルー”の返答に苦慮した。「銃を使わなくてどうやって奇襲するんだ」

「俺に考えがある」そう”ミッドナイトブルー”が答えると、偵察兵に向かって次々にサイコクラッシャーを打ち込んだ。

するとエジプト軍の偵察隊は次々と自分で自分の喉をナイフで搔き切って自決していった。

スズコは初めてサイコクラッシャーをみてなにが起きたのかさっぱりわからない

「ぼーっとするな、スズコ時間がない」

そうせかされてスズコもその場は、レーザー発振装置をセットしてエジプト軍の燃料タンクにあてた。

まもなく耳を劈く轟音と共に自衛隊のシースパローが飛来して予定どおり燃料タンクを破壊した。

作戦は大成功だった。エジプト軍はただただ混乱しながら燃料タンクの誘爆に巻き込まれて甚大な被害を受けた。

混乱するエジプト軍の様子をじっと見つめる”ミッドナイトブルー”。

そして、そんな彼の顔をスズコはいつまでものぞき込んでいた。


第八話終わり



第九話 ダイガク伝


サイキック防衛団世田谷本部

定時の戦況報告が行われていた。

いつもなら野島精一”イエロー”が神崎静留にちょっかいをかけてくる場面なんだが野島がおとなしい。

佐野輝明”グリーン”は、「ああツーリングデートは失敗だったか。」

誰の目にも明らかだ。

梨田康生”ブルー”と寺島寛治”ピンク”はその不満のとばっちりが自分たちに及ぶのではないかと恐れおののいていた。

そんな心配をよそに野島精一”イエロー”はとても大人しい。

サイコクラッシャーを打ち続けるとガンで死ぬ。

”イエロー”はその事実が頭からはなれない、このままトラウマンとして戦い続ければいつか自分も死ぬ運命なのだ。

そのうえで覚悟を持って職務に励む神崎静留に尊敬の念が生まれていた。

恐怖と尊敬という気持ちが自分の中でないまぜになって頭の中が混乱している。

報告会議では、「メグミン」の活動は活発で巡回を繰り返しているが新たなる侵攻と呼べるものは無く状況は落ち着いているというものだった。

佐野輝明”グリーン”は「やはり敵の人的資本が足りなんんじゃないか、侵攻拡大しても戦線を維持できないから攻めてこんない」

梨田康生”ブルー”は「さすがにそれは楽観的過ぎるでしょう、制圧プランも無いままよその星に宣戦布告なんてしないでしょう」

寺島寛治”ピンク”は「あるいは、地球の風土病が広まって身動きが取れないとかも考えられますね」

梨田康生”ブルー”は「だからと言って、攻勢にでる余力は自衛隊にないでしょう」

神崎静留”レッド”は「手ぬるい、この機を逃す手はないだろう。すぐに威力偵察をするべきだ」

寺島寛治”ピンク”は「実は大攻勢の準備中だとか、実は攻撃を誘い込む罠とか。ここでいろいろ考えても結論は出ないな、とりあえず様子見でいいんじゃないでしょうか」

神崎静留はイライラしながら「大攻勢の準備中ならなおさら攻撃の必要性が高いだろう。」

野中人麻呂も神崎静留”レッド”に答える「何度も言うようにこれは、やるかやらないかの問題ではなく出来るかできないかの問題だ。今の自衛隊にはその余力はないよ。遊撃兵を組織しているリソースがあるなら難民保護に充てられるべきだ・・・」

青山権蔵も咳払いをして「いま遊撃できるとしたら君たちトラウマンしかいない、というわで次の任務は威力偵察だ」

「作戦内容は、横浜港に停泊中の敵旗艦が防衛網を構築している。その防衛網を正面切って攻撃する。

敵旗艦の正面に位置する防衛拠点には敵の幹部がいる、こいつは火炎放射器を実装しているタイプのようだ。

適当にあしらって攻撃すれば敵旗艦が攻撃機を発艦させて支援攻撃を繰り出してくるだろう。

この時、敵艦に張られているUT結界を一時的に解除してくるはずだ。そこを見計らって防衛庁の実験機T-2CCVを敵艦の発艦口に突入させる。

T-2CCVはその俊敏さを生かして敵戦艦の中を飛びながら潜入エージェント1名と探査用のドローン2台を搭載したポッドを放出したあと帰還するという段取りだ。

これにより、今我々が一番ん欲している敵の情報を得られる事になるだろう。」

「それ絶対助からん特攻任務だろ」佐野輝明”グリーン”は、口をはさんだ。T-2CCVはカナード翼を付けた実験機だ。実験機ゆえに一切の武装が施されていないはずだった。自殺行為だ。」


T-2CCVとは、日本が独自開発したジェット練習機T-2を改装した機体である。

主翼の前コックピット横に先尾翼つまりカナードが取り付けられた機体である。

このカナードをコンピューターに制御させることによって斜め前に飛行することが出来る機体だ。

斜め飛行には色々なメリットがある。

その一つが防御面での効果である。

飛行機は高速で動くので攻撃するときは弾が機体に届くまでのタイムラグを考えて予想飛行進路の前に向かって攻撃しなければ当たらない。

飛行機は機首の向いている方向に飛ぶので、その予想飛行進路というのは通常機首の向きを見て考えるのだ。

ところがCCVによって斜め飛行をされると、機首の向いている方向と実際の飛行進路が違ってくるのだ。そのため敵が、機首の方向を参考に予想飛行進路を考えて攻撃しても全く弾が当たらなくなるのだ。


青山権蔵もそれに答える。

「確かに無論生還が難しい任務ではあるが作戦参加者からは快く了承を得ている。」

快くはどう考えても嘘だろう。自分たちがトラウマンにスカウトされた経緯を考えるととても言葉どおりには受け取れない。佐野輝明”グリーン”は気持ちがますます暗くなった。

「T-2のパイロットは、自衛隊側から派遣される。潜入エージェントは寺島寛治”ピンク”にしてもらう。潜入期間は無制限だ頼むぞ。」

青山源蔵はいやらしく微笑みかけると、寺島寛治”ピンク”はこわばった表情でうなずいた。

神崎静留”レッド”「待ってください、どうして”ピンク”なんですか。長期間サイコクラッシャーの使い手がチームを離れるのは困ります」

というのは方便で、こんな死亡リスクの高い任務に同僚を行かせるのが神崎には了承できなかったのだ。

青山源蔵「何度も言うように人手がないのは自衛隊だって同じだ。寺島寛治君にはトラウマン入隊前に潜入訓練を受けてもらっていた。一般の自衛官より有力だ。」

青山源蔵「したがって今回は4人編成で攻撃してもらう。”レッド”グリーン”ブルー”が前面で陽動任務、野島精一”イエロー”はスナイプ担当で後方で敵の幹部の火炎放射器野郎が出たらサイコクラッシャーで攻撃すること。攻撃開始から12分後には敵の増援が駆けつけてくるので戦局の如何にかかわらず即時撤退、T-2CCVの離脱を確認出来た時も即時撤退だ。これは威力偵察であることを忘れるな。」

作戦の説明が終わり隊員たちは会議室を出て行った。

部屋の中には青山権蔵と野中人麻呂だけが残る。

野中人麻呂は青山に「いいのか、ピンクを使うのは少し早い気がするんだが、最終決戦は2年後の予定だぞ。」

青山権蔵「構わんよ、ナイトメア計画はすでに発動している。あれが完成すれば勝利は確実だ。それに・・・」

野中「それに?、なんだね。」

青山権蔵「神崎静留にはそれほど時間が残されていない。」

どうゆう意味だ、崎静留”レッド”の寿命があるうちに使い切るという意味か?それとも彼女の命があるうちに父親の仇を取らせたいのか?

たしかに神崎静留のトラウマン入隊条件で「父親の仇を取らせること」があったが・・・まさかな、そんな甘い男にこの仕事は務まらない。


トラウマン達は横浜港にやってきた。

海上には「メグミン」の巨大な軍艦が浮かんでおりその大きさに圧倒される。

港の周辺地域は敵の船が降りてきたときに大戦闘が起きて人間はすべて排除された、かつての風光明媚な街はすべて壊されてしまった。今はその残骸は「メグミン」達に撤去されてだだっ広い広場のようにされている。このどもまでも続く平地には所々に「メグミン」の出城が建設されていて敵軍艦を守る拠点になっている。

その出城と出城の間には「メグミン」によって対人地雷が敷設されていてうかつには近づくことができない。

つまり地上部隊で敵旗艦を攻略するためにはどうあってもまずこの出城をつぶして敵旗艦までの道を確保しなくてはならない。

ところがこの出城にもUT結界が付いているため、それすら容易ではないのだ。


神崎静留”レッド”と梨田康生”ブルー”と佐野輝明”グリーン”は、アンチマテリアルライフルで劣化ウラン弾を出城に向かって打ちながらゆっくり出城に向かっていく。

打ち出された弾丸は出城のUT結界によって弾かれ弾頭は粉々に砕けてその周辺に放射性物質を大量にまき続けている。

だが砲撃によるダメージを城に全く与えることが出来ていない。それでも基地内には衝撃音が伝わる。

「メグミン」の出城を守る隊長ダイガクは状況を確認する。

およそ3名の正体不明の敵が攻めてきたらしい。「3人だと、よほど頭のおかしい連中か」攻め手の勢力の少なさに困惑する。

敵の攻撃にUT結界を貫通できないようなので放置しても問題ないだろうが、上から「味方の戦力不足を悟らせないため通常どおりの迎撃行動」を指示されている。

放置することはできない。

この出城の将兵も人員不足で3交代制から2交代制に変わった。部下は疲弊している。

これぐらいの敵なら部下を攻撃にさせることもないだろう。自分自身のUT結界は健在だ。

ダイガクは自分だけで打って出ることにした。

出城から表に出るとトラウマン達との距離を詰めて得意の火炎放射器を使って攻撃する。

巨大な火の柱が梨田康生”ブルー”に襲い掛かる。だがその火の手が体に触れる直前に梨田康生”ブルー”のリアクティブアーマーが反応して爆発する。

その爆発力で火炎放射器の燃焼薬剤をはじき返してしまって炎はかき消されたしまった。

「なんだと、火炎放射器は効かないのか相性が悪い敵だな」ダイガクは近接格闘で攻撃することを決める。

自身を球体状に覆っていたUT結界を皮膚表面ぎりぎり5㎜に発生させるモードに変更して。

一番近い位置にいた佐野輝明”グリーン”に襲い掛かる。

佐野輝明”グリーン”も高周波で振動するチェーンワイヤーを武器に応戦するがチェーンワイヤーにはUT結界を切り裂く能力がない。

佐野とて元自衛官だ、格闘戦の経験はある。だがダイガクも敵幹部だけにかなりの手練れだった。押されている。

”レッド”も”ブルー”も加勢に入るが全てかわされる。

佐野輝明”グリーン”は苛立ちながら野島精一”イエロー”に通信を入れる。

「何している野島、敵をおびき出したんだ。さっさと狙撃しろ」


少し離れた後方でスナイプセンサーを作動させて狙撃モードに入っている野島精一”イエロー”。

だが野島精一”イエロー”は全く集中できない。

サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

そう考えると手が震えてくる。

神崎静留”レッド”はダイガクに後ろから飛び掛かると高周波ワイヤーチェーンをダイガクの首に巻き付ける。

UT結界と高周波振動が干渉してワイヤーチェーンは凄まじい火花を上げる。だがダイガクには全くダメージが入らない。

それでも”レッド2の体が覆いかぶさることで動きを阻害される。鬱陶しくなったのでダイガクは体をよじらせて”レッド”を振り払おうと暴れまくる。

体を振り回される”レッド”は思わす悲鳴を上げた。


サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

サイコクラッシャーを撃つと癌になって死ぬ。

・・・でもここで撃たなければ、仲間が死ぬ、神崎が死ぬ。

意を決した野島精一”イエロー”は全神経を集中させて電磁波を練り上げるとピンポイントでダイガクを狙撃した。


ダイガクは悪夢に落ちた。

ダイガクは子供のころから体が大きく、いかつい人相をしていた。

だから周囲の人は、ダイガクの見た目を恐れて声を掛けられることも少なかった。

要するに友達がいなかった。

「こんな見た目だから俺には友達ができないんだ。」

ダイガクも大学生になっていた。

そんな彼に声をかけてきたのがトシオだった。

自分の姿に物おじしないトシオにダイガクは好感を持った。

話は次第にお互いのプライベートに及ぶようになった。

トシオは新興宗教のアラヤシキ教とか言うのに入信しているらしい。

自然とダイガクはアラヤシキ教の説法会に出入りするようになった。

アラヤシキ教の説法というのは、他人を大切にしろとか、平和が尊いとか、食べ物を粗末にするなとか、そうゆう一般的な道徳観を語るのみだった。

ダイガクにしてみればそんなことは、教導師様に言われなくとも知っている。

皆が知っている一般常識を教えるなら、知っているのにあえて教えているということに意味がない。

確かに世界平和は重要だ、だがそれはアラヤシキ教に入信しなくてもできることだ。世界平和の実現とアラヤシキ教の拡大とは因果関係がないのだ。

つまりアラヤシキ教に意味が無いと思った、それでも反社会的な事を吹き込まないだけもまだマシなのかなと考える。

そんなわけで、アラヤシキ教に共感ができないままトシオとの付き合いで教団の人々と交流することになる。

彼らとの雑談はとても刺激的だった。

友達ができるというのはこんなにも楽しいものなのか。

やがてダイガクも布教活動を手伝うことになった。そこには獲得入信者のノルマも課せられる。

ノルマってなんだ。教導師様によると「アラヤシキ教を広めることが世界に幸せを広げることになるので、幸福実現のためには必要な事なのだ」と言い切った。

ダイガクはアラヤシキ教と世界平和に因果関係は無いと考えているので、教導師様の説明には全く納得できない。

やっぱりこの宗教は駄目なんじゃないか?と思った。しかし今更アラヤシキ教と縁を切ろうとは思えなかった。

アラヤシキ教を辞めるということはトシオたちとも縁を切ることを意味していた。せっかくいままで築き上げてきたコミュニティーを放棄してまた自分は孤独に戻るのだ。

ここに残るなら布教活動をがんばるしかない。

しかしながら布教活動はなかなかうまくいかない。勧誘対象はこぞって「今の生活に満足しているのでアラヤシキの神様の助けは不要だ」と断っていく。

ダイガクは彼らの言葉を反芻して考える、つまりこの世の中が平和で人生が満ち足りている人はアラヤシキ教に入信しないのだ。

逆に考えれば、勧誘対象に不幸な事件や社会不安を煽るような大事件が起これば勧誘活動がはかどるのではないか。そのためには勧誘対象の個人情報を集める必要がある。

そこで、ダイガクは勧誘対象の学校同期生のネットワークIDを盗んで個人情報を盗み見る計画を立ててトシオに相談してみた。

トシオは大変驚いた「何を言っているんだ。そんなだまし討ちみたいなこと神様が許すはずないだろ」

ダイガクもカっとなって言い返す「仕方ないだろ、入信者のノルマ上げないと俺がアラヤシキ教団で白い目見られるんだ。ここにいられなくなる」

トシオはあきれ果てて言った「お前そんなだから、友達できないんだよ」

「はっ」

トシオ「ダイガクは友達出来ないのは自分の見た目が怖いからだと言っているけど。本当のところはその自分の都合ばかりを他人に押し付けて生きて来たからみんな呆れて相手しなくなるんだ。そんな自分を振り返ってもらうために俺はダイガクをアラヤシキ教に誘ったのに・・・・」


野島精一”イエロー”のサイコクラッシャーを受けて夢うつつのダイガクはさらに暴れまくり混乱し、

「ちがう、俺は悪くない、俺が友達出来ないはこの顔のせいだぁぁぁっぁ」

やがて自分の火炎放射器の燃料タンクを殴打する。

「俺は、俺は、俺は、なんでこんなん生き方しかできないんだよ」

ダイガクが泣きながら叩く衝撃で燃焼燃料は発火して大爆発を起こした。混乱状態だったダイガクのUT結界は四散していてその炎をまともに浴びて火だるまになってゆく。

神崎静留”レッド”はダイガクの体から振り落されて少し離れた所に居たのだが凄まじいい爆発に巻き込まれて彼女も軽い火傷を負ってしまった。


その様子をモニタリングしていた「メグミン」の出城の兵隊たちは大混乱に落ちった。

指揮官のダイガクの戦死を横浜港に停泊する旗艦スターリオンに伝えると共に援軍要請をする。

これを受けて直ちに旗艦スターリオンのカタパルトゲートが開かれて艦載機の発艦準備が始まった。

間髪を入れずに湾岸高速道路に隠されていたT-2CCVが道路を使って離陸する。

本来なら湾岸高速道路は滑走路としては短すぎるがCCV機独特のカナード翼大きな揚力を発生させて短距離離陸を可能とさせているのだ。

更に4台のラジコン飛行機も続けざまに離陸する。

T-2CCVのデコイとして準備していたものだ。

近距離に突然現れた飛翔体に対して「メグミン」の自動対空砲は迎撃行動を開始するがCCVのトリッキーな動きに機関砲を制御するAIが十分反応できないでいた。

「行ける!!」

T-2CCVのパイロットはスラスターを全開にしたまま一気にカタパルトゲートに突っ込んだ。

船の内部に入ってしまうと対空砲火は一切無くなる。「メグミン」の宇宙船の中は意外に広いとパイロットは感じた。

小型のT-2CCVにとって旋回するには十分な広さだった。だが如何せん加速が付きすぎていた。

艦載機の駐機場の広さを瞬時に判断すると一番旋回半径を確保できそうなルートコースを思い描いて機体を誘導する。

先尾翼と尾翼がチグハグに反り返ることでありえない角度で旋回を始めると内壁ぎりぎりの所をなめるように飛行する。

「ち、荷物が重い」

T-2CCVは搭載していたポッドを切り離すことで身軽になり、何とか回頭することができた。

来た道を引き返すT-2CCV、そのすぐ後ろから発艦準備中だった「メグミン」の艦載機ついてくる。

艦載機はT-2CCVに対して機銃照射を仕掛けてくる。

狭い発艦カタパルトのトンネル内では回避行動をとる事ができない。

数発の機銃が機体に命中した振動を感じる。

こんなところで撃墜したら攻撃してきた側の飛行機も四散したT-2CCVの部品に後ろから突っ込んでタダでは済まないはずだ。

宇宙人どもの飛行機乗りはよほど命が惜しくない大馬鹿野郎らしい・・・ははは、この俺も同じ穴のムジナか・・・・

幸いT-2CCVの受けたダメージは深刻な被害のものはなかった。無事にカタパルトゲートを抜けて再び大空に戻ってきた。

「メグミン」の軍艦に備付けられた対空攻撃制御AIは機銃攻撃による迎撃を有効では無いと判断し、追尾ミサイルによる攻撃に切り替えた。

レーダー照射をT-2CCVに浴びせてロックオンをしようとする。

T-2CCVに対して管制指揮車両から忠告する「T-2レーダー照射を受けているぞ、対抗しろ」

T-2CCV「はぁ?、試作実験機にミサイル警戒装置なんか積んでるわけないだろ。」

対空ミサイルが発射されると、あっさりT-2CCVは撃墜された。

軍艦から発艦した艦載機たちは、T-2CCVのデコイとして飛行しているラジコン飛行機の掃討にとりかかっている。

その混乱のうちにトラウマン達は無事戦線を離脱することに成功した。


第九話終わり



第十話 その声はもう届かない


スズコは戦場でみた光景が頭から離れなかった。

戦闘員がなんの前触れもなく突然自決しだす。

それは、スズコが「メグミン」の日本方面でよく発生していたというPTS戦場心疾患の事例とあまりにも酷似していた。

これが、あのとき「メグミン」兵士に起きてきたことではないのか、そして改めて”ミッドナイトブルー”とは何者なのか非常に気になった。

スズコは”ミッドナイトブルー”の経歴を調べようとサイキック防衛団本部のコンピューターサーバーに侵入してみた。

「メグミン」の技術レベルからすれば日本のセキュリティ対策なんかザルである。

海外派遣部隊に転属する前は経歴抹消となっている。

いやいや怪しすぎるだろ。

スズコの中で疑惑が広まりつつある。あの”ミッドナイトブルー”こそが「メグミン」に自決行動を促すファクターに違いない。

だがまだ具体的な情報が足りない。ここは策を弄するより思い切って本人に探りをいれてみるか。

幸いにも自分と”ミッドナイトブルー”との間には一定の信頼感がある。

スズコは”ミッドナイトブルー”を飲みに誘った。

「作戦の成功を祝して二人で飲まない?」

「えっ」

突然の誘いに”ミッドナイト”は面食らった。

「これは、・・ああああ・・・いいけど」

ふと”ミッドナイトブルー”の顔に影が走ったような気がした。だがすぐにいつもの優しい顔に戻った。もしかして私は少し苦手意識を持たれているんだろうか。

野営陣地の夜に焚火の前で二人でビールをあおる。

スズコは、自分が撮ったスナップ写真を見せながら”ミッドナイトブルー”が留守にしていた間の小隊内での面白エピソードを聞かせていた。

”ミッドナイトブルー”もスズコの語り口が楽しくてついつい会話にのめり込んでいく。

「スズコはこの海外派遣部隊に来る前は何をしていたの」と聞いた。

「傭兵稼業をする前は私は医者だったわ、と言っても研究職が専らで患者を治療することは少なかったわね」

スズコの話は楽しいだけでなくどことなく知的な独自解釈も混じっていて感心することも多かった。なるほど生粋のインテリ女子だったのか。

スズコは続ける「で、研究内容の事を上司が認めてくれなくてそれが原因で転職しちゃったの」

”ミッドナイトブルー”「そうなのか!、でもいくら何でも傭兵部隊というのは転職先としては畑違いすぎるんじゃないか」

スズコ「うーん、全く畑違いとは言えないかな、私の研究テーマは戦場精神疾患だったから”現場も知らずに研究員気取れない!!”て思って入隊しちゃった。」

”ミッドナイトブルー”「なるほど、でも、それで本当に入隊しちゃうなんて君は強いな、・・・じゃぁ、ある程度現場を見たらいつかは医者に復職するつもりなのかな」

スズコ「どうかな、ホントのこと言うとね、ここの皆のことが家族みたいに思えて馴染んじゃってる所もあるんだよね」

「その家族には俺も入っているのかな」と”ミッドナイトブルー”は少し冗談めいた調子で軽口をたたいた。

だがスズコはとても真剣な眼差しで「もちろんよ、トラの事も大切に思っている」と答える。

その真剣な態度に”ミッドナイトブルー”はドキッとした。

今度はスズコが”ミッドナイトブルー”の前歴の事を聞いてきた。

”ミッドナイトブルー”「海外派兵部隊前は日本国内で「メグミン」と戦っていた」

スズコ「へー、”ミッドナイトブルー”はとても勇敢だから日本でもとても優秀だったんでしょうね」

「ミッドナイトブルー」「そうでもないよ、日本にいたころの俺はとても臆病な人間だった。あの頃の自分に今ぐらいの勇気と決断力があれば、関空島でもっと多くの人を救えたんだ」

関空島だと、関空島決戦の事か、つまりスズコの知人のシユウがPTSで自決した戦いにこの男も参加していたのか。スズコの中で疑惑の念が更に濃度を高めてゆく。

スズコ「関空島?もしかして”ミッドナイトブルー”って関空島決戦に参加していたの」

”ミッドナイトブルー”「そうだ、あれはひどい戦いだった。少人数編成の部隊で敵の首領を暗殺する作戦だった。ただでさえ味方は劣勢だったのに、俺は作戦中に脱走してしまった。・・・・それが原因で、その、俺は多くの味方を見殺しにしてしまったんだ」

過去の忌まわしい記憶を呼び起こしてしまって”ミッドナイトブルー”はみるみる憔悴していった。

そんな”ミッドナイトブルー”を見かねてスズコは傍に駆け寄りそっと肩を抱いた。

スズコ「ごめんなさい、とても無神経な事を聞いてしまったわ。でも聞いてほしいの貴方はとても素晴らしい戦士よ、だからその苦しみもいつか克服できるわ。自分を信じて」

”ミッドナイトブルー”「ありがとうお世辞でもうれしいよ」

スズコ「お世辞なんかじゃない、本当にあなたは優秀よ、ミサイルの終末誘導の時だってアッという間に敵の偵察部隊を倒したじゃない、

”ミッドナイトブルー”「あれは、その、ただの特技というか、その、人殺しが特技だなんてとても笑えない話だ」

スズコ「それでも、あなたが居なかったら私も今頃どうなっていたか分からない、あなたは私を救ってくれたのだからそんなに自分を責めないで、でもあの時はよくわからないのだけどあなたの特技って具体的にどんなものなの?」

”ミッドナイトブルー”「人にトラウマ白昼夢を見せて自決に追い込む呪われた特技、サイコクラッシャー。俺の人生をゆがめ、そして、君を・・・結局のところこいつと折り合いをつけるしかないのか。」

スズコ「そう・・・・それがあなたの特殊能力だったの?告白してくれてとてもうれしいわ」

そう言うとスズコは”ミッドナイトブルー”に隠し持っていたクロロホルムを嗅がせた。

一瞬の事に驚く暇もなく気を失った”ミッドナイトブルー”はその場に倒れ込んだ。

スズコはポケットからボタンのついたクラシカルな携帯電話を取り出した。

スズコは母国語で会話する。

「私だ、重要なサンプルを手に入れた。母星に持ち込んで尋問と実験をしたい、至急小型輸送機を手配してくれ」

5分ほどすると何処からともなく異星人の小型ステルス円盤が音もなく飛んでくるとスズコは”ミッドナイトブルー”を抱えてそれに乗り込んだ。

そしてやはり音を立てずにその場から飛び去っていた。

圧倒的な静かさと一瞬の出来事。

ステルス迷彩がかかているので、サイキック防衛団の防空警戒システムも何があったのか全く把握できていないだろう。

だがすべてを見届けている観測者がいた。

観測者は物陰から姿を現すと携帯無線機を取り出し、今しがた起こった出来事をやはりどこかに報告し始めた。

「こちら木下、作戦は第二段階に入った」


”ミッドナイトブルー”が気が付くと見知らぬ部屋に監禁されていた。

手足は縛られて体の自由は効かない。寝かされた姿勢。

金属質な構造物で構成された浮世離れした不思議な部屋だ。

「おはようごさいます、”ミッドナイトブルー”催眠薬が切れたようね」

声のするほうに体を向けるとスズコがいた。

スズコ「ここは私たち「メグミン」の母星なの、ようこそわが祖国へ。つまりあなたは逃げ出すことも出来ないし助けが来ることも無いということね」

捕虜にとってはかなり絶望的な状況だろう、だが”ミッドナイトブルー”はどこか落ち着いている。

スズコは”ミッドナイトブルー”の態度に違和感を覚えた。

”ミッドナイトブルー”「つまり、スズコは「メグミン」の人間だったということか、我々を偵察するスパイ」

スズコ「理解が早くてとても助かります、あなたには聞きたいことが山ほどあるの、特にサイコクラッシャーという特技の事なんだけど」

”ミッドナイトブルー”「理解が早いと言うのは正確じゃないな、正しくは知っていたということだ」

突然の告白に今度はスズコの方が混乱した。(自分の正体がはじめからバレていたというのか?どうやって知った?とても信じられない。そもそも自分の正体がバレていたのならどうしてこんなに隙を見せてあっさり拉致されてしまったというのか。”ミッドナイトブルー”の言っていることはどこか筋が通らない、彼が真実を言っているとは思えない。きっとハッタリを言っているだけだ!!)

”ミッドナイトブルー”「そんなにサイコクラッシャーの事を聞きたいのなら教えるよ。サイコクラッシャーとは人間の体内電流を使て電磁波を発生させる技なんだ。

ある特定の周波数の電磁波は生物に対してひどい悪夢を見させることが発見されている。それを応用して被験者に恐ろしいトラウマ悪夢を見せて精神的に攻撃し、自決を促す技なんだ」

スズコは彼の言葉を聞いて有頂天になった、やはり自分の研究は正しかったのだ。日本でのPTS発生率の高さにはからくりがあった。そしてその正体もすぐに明かされようとしている。研究者としての輝かしい実績が約束されているのだ。彼女にとっては至極の瞬間だった。

”ミッドナイトブルー2「実はこの電磁波研究で更に興味を引く研究結果が見つかってね、ある特定の周波数の電磁波には生物の殺人欲求を極限まで高めるという研究結果も発見されたんだ。

ただこの殺人欲求を高めるという効果は万人に発生するわけではなかった。

その発生確率は20人に一人、この電磁波を浴びると5%の人間は誰彼かまわずその目で見た人間すべてをたまらなく殺したい衝動に駆られる。

そして我々トラウマンは、制御チップを体に埋め込むことによって殺人欲求の発生率を20%まで高めることが可能になった。この特殊なサイコクラッシャーの事をサイキック防衛団では”ナイトメアモード”と名付けた。」

スズコは”ミッドナイトブルー”が語る内容を頭の中で整理することでいっぱいだ。(何が言いたいのだろう)、それでもこれからとても良くないことが起きる不安感がふつふつと湧き上がってくる。

さっきまでの高揚感はどこ吹く風だ。

”ミッドナイトブルー”「”ナイトメアモード”はその効果の高さゆえに地球上で使用することは出来なかった。もし地球圏で使えば全人類も技にかかって同志撃ちによる人類滅亡が始まるからだ。だからこの技を使うためには、トラウマン達を地球圏外である「メグミン」の母星ないし前線基地に送り込む事が必要だった。その計画こそが「ナイトメア計画」だった。・・・だか本当に拉致されて母星までたどり着けるとは・・・」

思った以上の計画の出来栄えに思わず”ミッドナイトブルー”に笑みがこぼれた。

「サイコクラッシャーぁぁぁぁ、ナイトメアモード、アルティメットバースト!!!!!」

そう”ミッドナイトブルー”が叫ぶと彼の周りから大出量の電磁波が放出されてその波はあっという間に、メグミンの母星全土、そして母星の衛星軌道上に集結している6大師団の宇宙戦艦軍すべてを包み込んでいった。

これまでにない大出力の電磁波を発生させたことによって”ミッドナイトブルー”はひどい倦怠感に襲われた。自然に彼の視線は下がって自分の前の床をじっと見つめる。

”ミッドナイトブルー”「スズコ君の負けだ、所詮君は青山権蔵の手のひらの上で踊らされていただけなんだ・・・そして俺自身も」

しばしの沈黙。

スズコはゆっくりと歩みを進めて”ミッドナイトブルー”が横たわる前に来た。無言。

”ミッドナイトブルー”「聞いてくれ。スズコ、俺と君の出会いは確かに青山権蔵に仕組まれたものかもしれない。でも、それでもやっぱり俺はスズコの事が・・・」

そう言って”ミッドナイトブルー”は視線を上げた。

”ミッドナイトブルー”の視界に見えたものは、殺人欲求に駆られて正気を失ったスズコがナイフを振り上げている姿だった。

ああ・・もうスズコに俺の声はとどかない。

ぶちゅ、ぶちゅ、ぶちゅ、んぶちゅ、グサッ。


惑星メグミンは狂気にあふれていた、ある日通行人が突然、人を襲いだした。なんの脈略もなく。逃げ惑う人々。

そんな逃げ惑っている被害者も逃げているうちに突然殺人欲求に駆られて襲う側に変身してしまう。もはや誰が正気で誰が殺人者か分からない。自分を守るためにはとにかく見えている人間全てを殺し尽くすしかない。

正気を保っている人すらそう考えなければ生き残ることが出来ないとろろまで追い詰められていた。もはや誰も信用できない。

だがそんな状態の人間はもはやナイトメアで殺人狂となった人と区別する意味がない。


衛星軌道上にある宇宙軍艦が突然周囲の船に対して攻撃を開始した。軍艦だけでなくメグミン本星にもその攻撃は及ぶ。

瞬く間に惑星全土は炎に包まれ宇宙に浮かぶ戦艦群も同士討ちの果てに一隻残らず大爆発を起こしてしまった。

そしてかつて惑星だったものの上では何一つ動くものがなくなってしまった。


第十話終わり



第十一話 落日のメグミン


世田谷の事務所で威力偵察の結果検証が行われる。

神崎静留”レッド”が会議室に入るとすでに青山権蔵と野中人麻呂が待機していた。その他のメンバーはまだ来ていない。

その後、梨田康生”ブルー”が入室してきた。

すると青山権蔵は梨田康生”ブルー”に声をかける。

「梨田康生君、ちょうど話をしたかったところだ。実は君の兄の寅之助君がエジプトで行方不明になったそうだ。君が望めば現地に行く手配をするがどうしする。」

耳をそばだてて聞いていた神崎静留”レッド”は突然の話に驚いた。

”ミッドナイトブルー”は確かに海外派遣傭兵になると聞いていた。命の危険のある現場だ。

それでもいざそういう話を聞くとやはり辛いものがある。

梨田康生”ブルー”は青山権蔵に答えた。

「その必要はありません。

・・・・兄は勝手な人でした。

大学院で文化人類学の研究をしているかと思えば家族になんの相談もなくこの会社に入りました。

どうしてそんな事をしたのか、どんな仕事をしているのか全く教えてくれませんでした。

そうかと思えば、今度は外国で傭兵として戦うとかいきなり言われました。

全く理解できません。

ずっと本人からは音信不通です。

自分の家族にとって、兄はもうずっと前から”行方不明者”なんです。今更本当に失踪したからといって全く実感がわきません」

”ミッドナイトブルー”が家族に連絡できなかったのは機密保持のためだった。今同じ立場にある康生君ならわかりそうなことだが、兄の行動がそれだけ受け入れがたかったのだろうか。

トラウマンを抜けたのは”イエロー”とのいざこざが原因だった。

少なくとも神崎静留”レッド”の目から見ればは”ミッドナイトブルー”はそんな自分勝手な人間ではなかった。

”ミッドナイトブルー”の弁護をしたい気持ちにかられた。

その事を話すには”ミッドナイトブルー”と”イエロー”との確執の事を話さなければならない。

そんな事をすれば、今度は”ブルー”と”イエロー”との関係がますます悪くなるだけだろう。

今は死んでいるかもしれない”ミッドナイトブルー”の名誉を守るより、生きているトラウマンのチームワークを守る方が大事だと考え神崎静留はあえて何も言わないことにした。


他のメンバーも集まってきて威力偵察の検証会議が始まった。

敵軍の追撃態勢は完ぺきだった。動きも早く包囲網の構築も穴がない。

あと5分脱出が遅れたらトラウマン達は全滅していただろう。

敵旗艦に突っ込んでいたT-2CCVは敵旗艦から脱出した直後に撃墜されてしまった。パイロットは戦死。

脱出して来たT-2CCVには寺島寛治”ピンク”が乗っていたポッドはついていなかったので敵艦に届ける事ができたと予想される。

だがあれから寺島寛治”ピンク”からはなんの連絡もきていない。

結論的には敵攻撃は時期尚早であるというものだった。

だがその結論はすぐに撤回されることとなる。


ワームホールというものがある。全く違う時間、全く違う空間をつなぐワープトンネルである。

そんなものが時折自然発生しているのが確認されている。後の2012年にNASAが人工衛星による観測で発見した太陽の磁場と地球の磁場をつなぐXポイントがそれだ。

このワームホーを使えば遠くの場所に瞬間移動できたり時間をさかのぼることも可能だ。

だがそれは物理的に難しい。ハーバード大学の物理学者ダニエルジェファリス氏によるとワームホールは素粒子レベルの大きさの存在で光子、つまり光を通すのがやっとの大きさだという。その存在時間は2秒程度しかないといわれている。つまりそのトンネルを通ることはもちろん見つけることすらままならないのだ。

だが「メグミン」はこのワームホールを人工的に任意の大きさで発生させる技術を持っている、おそらくそれが星間飛行を可能にしているのだろう。とういことが予想された。

「メグミン」は空間跳躍は可能にしているが時間跳躍の技術はまだ確立できていないようであった。

なぜならそれが可能なら、この戦争はあっさり終結しているからだ。

ワームホールを発生させるにはそれなりのエネルギーを必要とする。たとえ「メグミン」といえども、おいそれと巨大なワームホールを作ることはできないはずだ。

そこで普段、他の地域と連絡するときは小型のワームホールを作りそこに向かって電波で通信することにしている。

その定期通信の様子が自衛隊の観測班にも確認されている。

地球の言語体系も違うし、おそらく暗号化技術が施されているので具体的な通信内容を窺うことはできない。

その定期通信の様相に異変が生じていた。

横浜にいる敵旗艦からは発生させたワームホールに電波を発信しているがワームホールからの返信電波が全く届いてこないのだ。

これをどう解釈するべきか。青山権蔵と野中人麻呂は協議していた。

青山権蔵「やはりこれはナイトメアが成ったということだろうな」

野中人麻呂「ああおそらく、敵さんの無線機の故障などとは考えにくいな」

青山権蔵「最終決戦の日程を繰り上げる必要がある、アレはどうなっている」

野中人麻呂「フランスのスネクマなどで分散生産中だ。あと三カ月ほどで先行量産機が50機ほどできる予定だ。」

青山権蔵「50機あれば十分だよ、武器が多くてもどうせそれを扱う自衛隊員の数の方がそろわない。」

野中人麻呂「それはそうだが。今仕掛けようとしても支援攻撃もままならないぞ。50人であのデカ物を落とすのはやはり骨がおれるだろう。今の状況を同盟国に伝えれば”勝算あり”と軍事支援を得られるのではないか。そのほうが確実性が上がる。」

青山権蔵「確かにそうだが、外部の人間を入れればアレの存在がバレる危険性も上がる。せっかくダミー会社を駆使してパーツを分散して発注したんだ漏洩だけは避けたい」

野中人麻呂「そういうものか?。俺はこの決戦に敗北してしまえば漏洩どころの騒ぎで済まなくなると思うのだが。」

青山権蔵「大丈夫、我々は勝つよ」


3か月後の「メグミン」の旗艦宇宙船スターリオンでは会議が開かれていた。

議長は日本方面作戦司令の女性”トラバーサー”そして話し相手はいつもの幹部3人だった。

事態は深刻だ、母星との定期連絡が突然途絶えて3か月、何度も物資の補給を要請したが返信が来なかった。

燃料、食料、人員、そして何よりマグネタイトだ。

マグネタイトは「メグミン」軍の強さの象徴であるUT結界の燃料だった。これが無いと全く戦争にならない。

3か月後にはマグネタイトの補給があると確約していたのに支援物資は全く来ない。

トラバーサーもUT結界の出力を絞って温存に努めたがもはや底をついてしまった。

船の燃料も残り少ないが状況を確認するためにワームホールを作って小型のステルス船を母星に派遣した。

その驚くべき報告が上がった。

母星が壊滅していたというのだ。

母星だけではない、状況からして母星の周りには「メグミン」の誇る全6師団の主力軍艦が終結していたはずだ。それも壊滅している。

あたりには無数のデブリが散乱していることからどこかへ移動したとうより戦闘でつぶされたと考えるほうだ妥当だろう。

ありえない出来事だ、全宇宙に覇を唱える最強の「メグミン」の全戦力をいともたやすく壊滅できるものなど存在しないはずだ。

誰がこんなことをしたのか皆目見当がつかない。だが敵は確実に存在して自分たちの事を狙っているのだ。

トラバーサー「とにかく、これで我々に補給が届くことは永遠にないということがはっきりした」

中年太りの幹部ポチョムキンが続いて発言をする。「もう物資がりません、弾薬の量からして前面交戦は2回が限度ですね」

面長の初老幹部エイシンは「このまま日本に止まり続けても意味がありませんさっさと引き払って他の同胞と合流しましょう、第三師団の連中がマゼラン銀河のLV42とかいう星の軍事制圧作戦をしているはずです。」

トラバーサー「LV42の現地抵抗勢力は日本人より強敵とう話だった。いま問題なのは母星を失ってマグネタイトの補給が途絶えていることだ、当然第三師団も同じ状況だろう、」

面長の男の幹部アコンカグヤ「それはそうですがここであれこれ言っているより直接通信して現状を確認するのが早いですよ」

トラバーサーは渋々応じた。そうは言っても気が重い。上を通さないで直接他の師団と交渉するという事は責任を自分が全て被るということだ。

LV42惑星に続くワームホールをすぐに開いて無線連絡を入れる。

トラバーサー「こちらは第六師団指揮下の地球日本方面侵攻作戦司令トラバーサーです。第三師団のLV42攻略師団の指揮官と連絡を取りたい」

コウゼキ「トラバーサー司令こちらは第三師団のコウゼキ少将です、ちょうどいいタイミングでした。連絡内容は母星の消滅と事後対応の事だとお見受けしますが」

トラバーサー「察しが良くて助かります。ところでタイミングが良いとはどうゆうことですが」

コウゼキ「実は我々も母星からの兵站が途絶えてしまってたので、これからアンドロメダ銀河の惑星エスカジングに移動するところだったんです。もう少し遅ければすれ違っていましたね」

トラバーサー「なるほど、惑星エスカジングは確かうちの第六師団が攻略していた星だったと思いますが、お話から推察すると、そこに行けば補給が受けられる見通しが立つということでしょうか。我々も補給に困っている状況なのですが」

コウゼキ「いえ、直接補給のめどが立っているわけではないです。むしろ激戦区です。ですが惑星エスカジングにはマグネタイトの鉱脈が見つかったと報告が上がっています制圧できれば我々メグミンの劣勢は一気に押し返すことが出来ます」

トラバーサー「それは地獄に仏ですな。とても魅力的な話です。」

コウゼキ「しかもあの星には石灰石もメタンハイドレートも出るんですよ」

トラバーサー「石灰石ですか。石灰石やメタンハイドレートに何かあるというのですが」

コウゼキ「エスカジングの第六師団のラボの研究でマグネタイトと石灰とメタンハイドレートを混ぜることでUT結界の威力と燃費を3割ほど上げられるらしいのですが、ご存じありませんでしたか。第六師団で発見されたこの技術をオープンにすることで、他の師団の信頼を確保してこの共同戦線が動き出したのです」

トラバーサーは、なぜ師団長がわざわざ日本の攻略に踏み切ったのかやっと合点がいった。日本で大量にとれる石灰石が目当てだったのだ。その石灰石の有効性を内々に隠して他の師団を出し抜くつもりだったのだろう。だが母星が消失した今や師団単位での利権のやり取りをしている場合ではない。

コウゼキ「エスカジングに配備された第六師団の援軍要請に全メグミンの残存部隊が応じてすでに8割ほどの軍勢が集結しているそうです。我々もこれから向かうところですよ。」

トラバーサー「なるほど、有益な情報をありがとうございました。この借りはいずれ戦場でお返ししましょう」

コウゼキ「その時を楽しみにしています。またお会いしましょう」

通信は切れた。

方針会議は日本から撤収する方向で動き出した。

会議の終盤緊急連絡が入ってくる。衛星軌道上に待機している僚艦からの連絡だ。

横浜に停泊中の旗艦を遠巻きに囲っていた自衛隊の野砲、155mmりゅう弾砲部隊が砲撃準備に入ったのを確認したという。

その存在は知っていたが遮蔽物でその動きまでは確認できない。だが宇宙からは丸見えだ。

僚艦から155mmりゅう弾砲を攻撃すべきか判断を求められている。

対応は地上で行うので攻撃の必要性はない、展開している野砲群の正確な座標を送るように指示を出した。

そこで通信が途絶えた。

自衛隊が電波かく乱用のチャフ弾で飽和攻撃をかけてきたので通信が途絶えたのだ。

宇宙にいる僚艦は命令を受けて沈黙したまま、地上軍は攻撃座標が不明なので155mmりゅう弾砲に攻撃不能。

その一瞬の隙が勝負を分けた。自衛隊の砲撃がスターリオンに襲い掛かってきたのだ。

横浜港にいるスターリオンの防空対応AIが飛んでくる砲弾を自動的に機銃で迎撃しようとするがチャフの濃度が濃すぎてレーダーが目標をとらえきれなかった。

UT結界はもはや存在していない。自衛隊の砲撃が宇宙船に着弾する。

着弾場所は正確にカタパルトと主砲を狙い撃ちにしていた。

それを合図に周囲から自衛隊の普通科連隊が港に向かって一斉に襲い掛かってきた。

地上の旗艦スターリオンの動きがおかしいのを感じた衛星軌道上の「メグミン」の僚艦は直ちに命令違反を承知で自衛隊の155mmりゅう弾砲部隊を攻撃して全滅させた。

だがすべては遅すぎた。

続いて僚艦はスターリオンに襲い掛かる自衛隊に支援攻撃を加えたいところだが、自衛隊と出城の味方が近すぎて宇宙から精密砲撃して自衛隊だけを退けることは不可能だった。

宇宙船からは支援砲撃をすることが出来ないので防衛の要となるのは地上に設置された出城の部隊に委ねられた。

「メグミン」の兵士たちは固く城にこもって迎撃を試みる。

これに対して自衛隊の兵士が手に持つバズーカ砲のような大きな火器を向けると一斉に城を攻撃しだした。

だが砲身からは砲弾やビームが出ることはない。それなのに城に籠っていた「メグミン」の兵士たちは一斉に狂い死にを起こしだした。

この自衛隊の持つ新兵器こそナイトメア計画の産物”アレ”だった。

トラウマンが発生する特殊な電磁波を機械的に再現させることが出来る銃なのだ。つまり自衛隊員は誰もがサイコクラッシャーを撃てるようになったのだ。

船を囲っていた出城が次々と突破されついに自衛隊員たちは「メグミン」の旗艦宇宙船スターリオンに乗り込んでくる。

「メグミン」兵士にしてみれば、来ると約束されていた増援は未だに来ない。その結果休息がまともに取れなくて疲労困憊で弾薬食料の配給もままならないとくれば「メグミン」の士気は低い。それを鼓舞するためにトラバーサー達幹部も前線に出て迎撃の陣頭指揮を執ることになった。

それでも防衛網は薄い。待ち伏せ攻撃を仕掛けても次々と突破される。

情報を漏洩させている内通者でもいるのか?。ありえない。

先陣を切って最深部に侵入する部隊の中に他の自衛官とは異なる服を着た人間がいるのをモニター越しに確認する。

赤い服の女?、それに黄色や青い服の奴もいる。ふざけた格好の奴だ。その中の赤い奴が周囲の人間に指示を出しているのがわかる。

指揮官だと予想される。まずこいつを潰すのが先決だろう。進軍先は艦載機の駐機場を目指しているようだ。

トラバーサーは手勢を引き連れて駐機場に伏兵の準備をさせる。その一方で初老のエイシンにスターリオンの発進準備をさせることにした。

更なる自営隊の増援が来ると手におえない、いつでも逃げる準備をするべきだ。どうせエスカジングに撤退する方向性は決まっているのだ、その時期が早まっただけだ。

これまでの自衛隊の戦いぶりをモニタリングすると「メグミン軍」が扉の前手で扉を自衛隊がこじ開けてくるのを待っていると扉が開く前に突然待ち伏せ部隊が狂い死にをしだすのを確認している。毒ガスのようなものを散布しながら進軍しているのだろうか?よくわからない。

とにかく艦載機の駐機場に通じる扉のすぐ前に布陣すのは危険だと考えて扉から大きく距離を取って部隊を配置する。

自衛隊の部隊がたどり着くまでしばしの時間が空いた。トラバーサーはふと考える。

なぜ駐機場を目指すのか、普通の司令官ならエンジンルームや艦橋を襲うのがセオリーだ。

まあ自衛隊にこちらの船の内部構造がバレているわけでもないのだが。たまたまなのだろうか。

駐機場に何が戦略的に重要なものがあるのか?艦載機のサンプル?、ワームホール作成装置?・・・そういえばこの駐機場は先の戦闘で敵の機体が侵入してきた場所だった。

あの機体は船に潜入して偵察ドローンを一台射出したようだがすでに偵察ドローンは我々が破壊した。

ちょっと待て、射出したのはドローンだけでだったのだろうか。

ふとトラバーサーは駐機場の大きな空間の壁面を見渡した。そこに見慣れない傷を発見した。いや、傷では無い。円柱形のポッドが壁に刺さっているのだが光学迷彩で周囲の景色に溶け込んで判らなくなっていたのだ。・・・・まさか・・・・・

気づいた時には円柱形の物体からサイコクラッシャーが放たれて待ち伏せ部隊が次々と狂い死にをしだした。

トラバーサーに戦慄が走る。本能的に危険を察知したトラバーサーは駐機場の扉を開けて逃げ出した。

その結果トラバーサーは走り込んでくる原色カラーの服を着た怪しい自衛隊と鉢合わせるすることになった。

「貴様ーーー」

血路を開くため一団の中で重要度の高そうな赤い服の女にめがけて炸薬弾を乱射するが、リフレクトアーマーの爆発圧に阻害されて全く当たらない。

呆気にとられるトラバーサー、リフレクトアーマーの爆炎によって目標を一瞬見失う。

その爆炎の向こうから神崎静留”レッド”はサイコクラッシャーを撃ち出した。


第11終わり



第12話 トラバーサー伝


トラバーサーはとても美人で頭の良い才女だった。

だが彼女の家は貧しいかった。

そんな彼女に転機が訪れた。地元の名家の家が後継がないことを悩んでいてトラバーサーを養女として迎えたいというのだ。

彼女の両親はこの名家”アンジョウ家”に仕事を請け負っていたので嫌といえる立場ではなかった。むしろ歓迎すべき話だった。

話はとんとん拍子に進んでトラバーサーは14歳の時アンジョウ家の養女になった。

アンジョウ家の中に入ると外からは見えないものが見えて来る。

彼女の養父母はとても仲が悪かった。

アンジョウ家には男系の子が出来なかったので、名家の家系を守るため養父は実は養子縁組で入籍した人間だったのだ。

それなのに中々夫婦の間に子供が出来ない。

養母は自分の直系血族を残せなったうっ憤を晴らすため、養父の事を”役立たず”と罵ることがある。

それに対して養父は養子の手前上何も言い返せない。

その一方でアンジョウ家の事業を大きくして家を発展させたのは間違いなく養父の手腕によるところだった。

「名家の一族」という看板が何をしたのか、ここまで家を大きくしたのは自分の手柄である。

いつも家系の事を鼻にかけて偉そうにしている養母に対して養父の方も心の底では馬鹿にしていた。

こんな二人に愛も子供などできるはずもなかった。

養母は自分の血を受け継いでいないトラバーサーに対してとても冷たい。

その一方で養父の方は美しいトラバーサーに対して男の欲望を感じていた。養母が家を留守にすると度々養父はトラバーサーの事をレイプした。

「俺は役立たずじゃない!。俺はちゃんと出来るんだ。」

殺気だった顔で乱暴に腰を振る養父の顔がトラバーサーにはとても怖かった。

無論レイプのことなど誰にも相談できなかった。

事を公にすれば実家に迷惑がかかるのは分かり切っている。「早くこの家を出たい」とトラバーサーは強く願っていた。

「軍の士官学校に進学したい」とトラバーサーは両親に言った。士官学校は全寮制なのでトラバーサーがこの家を離れる口実としては冴えた手だ。

アンジョウ家の家督を継がせるために養女にしたのに家業を継がないのでは約束が違うと両親は反対した。

家業はもちろん継ぐが、軍に入隊して外の世界を知ることも家業を継ぐうえで有益だとトラバーサーは更に言う。

養母は、自分の血を受け継いでいないので内心気に入らないトラバーサーが、一時的せよ自分の目の前から消えることは悪い気はしていない。

養父は、自分の肉奴隷が離れてい行くことがやはり不満でしかないようだったが、養母が折れてしまうとそれ以上意義を唱えることはできなかった。

トラバーサーは必死に勉強して見事に士官学校に最上級職候補生として合格した。

合格が決まって入学するまでの間にトラバーサーは体の異変を感じた。

・・・私、妊娠している。

思いがけない事態にトラバーサーは焦る。妊娠したままでは士官学校入隊などできるはずもない。

家を出る・・・実家の両親に迷惑がかかる。・・・というか行くところがない。経済力のないただの子供の自分が子供を育てるなんて夢物語だ。

堕胎手術を受ける・・・・手術費用はどうやって工面するのだ、当然妊娠に至る過程を聞かれることになる、アンジョウ家の内実をばらすことを意味する・・・それこそ大問題になる。

誰にも相談できない。

追い込まれたトラバーサーは、下半身を裸にして氷の張る冬の川に5時間つかることでわざと流産することにした。

冬の寒さで体の感覚が無くなる。こんなことで本当に流産できるのだろうか。というか本当に辛い苦行だ。

体をヨレヨレに衰弱させながらも家に帰り、トイレで血の塊が排出するところを見てホッとしてた。

上手くいった。

ホッとした自分に強い罪悪感が襲った。

そしてそのあととめどもなく涙が溢れて大泣きする。この血の塊は自分の子供だったのだ。

私は、取返しのつかないことをしてしまったのだ、人殺しだ。

トラバーサーの様子がおかしいので養母もさすがに心配してくれたが「外で遊んでいたら体調を崩しただけです」と嘘をつくとあきれられてそれ以上何も言われなかった。

養父に対しては「川で流産をした」と短く真実を告げた。

養父は事情を察して「そうか、よくやった」とだけ答えた。顔色一つ変えない。

そんな養父母に対して無性に腹がたった。

私の子供はこんな人間のこんなくだらない家庭環境を守るために死んでいったのだ。

そしてそのくだらない人間にはもちろんトラバーサー自身も含まれるのだった。


神崎静留”レッド”のリフレクトアーマーの爆風で軽く後ろに飛ばされたトラバーサーは床に座り込みながら上半身を壁にもたれかけていた。

ふとトラバーサーは下腹部を自分で優しく擦りながらつぶやいた。

「生んであげられなくて御免ね」

そして自分の銃をこめかみに当てるとトリガーを引いた。


駐機場防衛ラインが突破されたことはすぐにエイシンの知るところとなった。

総司令殿も自決されました。

もはや猶予はない、地上にはまだ味方大勢残っているが全滅よりはマシだ。エイシンはスターリオンを緊急発進させる。

「一度宇宙に出て僚艦と合流した後に緊急ワープをするのだ。」

宇宙船全体を低い振動が伝わり、それが徐々にヒートアップしていく。

その振動は船に侵入していたトラウマン達も感じていた。

佐野輝明”グリーン”「まずい、船が動き出した、どこに向かう気かしれないが今逃げ出さないと家に帰れないぞ。」

梨田康生”ブルー”「そうですね急ぎましょう」

トラウマン達が艦載機の駐機場に入ると広い空間を見渡す、地面から4メートルほどの高さの所に”ピンク”が乗っていたポッドが突き刺さっているのを発見した。

野島精一”イエロー”「高いな、えらいところに刺さってるが本当に今もあの中に寺島が居るのか?」

梨田康生”ブルー”「間違いありません」

佐野輝明”グリーン”「でもあれから3か月だぜ、飯もトイレもないぞ寺島は大変な貧乏くじだったな」

神崎静留”レッド”「どうやってあそこまで行けばいいのかな」

梨田康生”ブルー”「僕が高周波ワイヤーで壁に穴を開けて足場を作りながら登りますから皆さんは敵が来た時に備えて援護をお願いします」

そういうと梨田康生はするすると壁を登り始めた。”ブルー”は小心物だと侮っていたが思ったより感が良い。すぐにポッドまでたどり着く。

世田谷の事務所からモニタリングしていた青山権蔵から通信が入った。

「よしよくやった梨田康生君、託しておいたコアチップをポッドに挿入しろ」

梨田は命令のままに小型のチップをポッド側面の挿入口に入れた。

野中人麻呂「よし、任務完了だ総員撤退しろ」

神崎静留”レッド”「ちょっと待ってください、まだ寺島君を助けていません。”ブルー”、ワイヤーチェーンでポッドを切って寺島君を引きずり出してあげて」

野中人麻呂「その必要はない、寺島寛治”ピンク”には別の任務を与えているここに残しておけ」

佐野輝明”グリーン”「何を言っているんでる、意味が分かりません、この船は動き出しています。どこに行くか分かりません、今助けないと”ピンク”の回収は困難になります」

青山権蔵「それは本人も了承の上でこの作戦を行っている、それに今寺島寛治をポッドから引きずりだしたら彼は死ぬ」

神崎静留”レッド”「どうゆうことですか、もう3か月もポッドに押し込められて彼も衰弱しているはずです。早く助けないと」

野中人麻呂「実は、トラウマンのサイコクラッシャーにはナイトメアモードと言うのがあってね、簡単に言うとメグミンを同士討ちさせる特別な技だ。これをなすべく寺島寛治君には敵母艦への潜入を命じていたんだ。これを成すにはある程度敵母艦を攻撃して敵を本拠地に帰還させる必要がある。そしてナイトメアの撃ち手として”ピンク”には敵の本拠地まで行ってもらわなければならない。さっきポッドに入れたチップはナイトメアモードの制御用チップだ初期のチップにはバグが見つかっていてねどうしても交換する必要があったんだ」

青山権蔵「そしてその長期の潜入任務を成すために”ピンク”には改造手術を受けてもらった。長期の生命維持を優先するためにサイコクラッシャーを撃つのに必要な器官以外の・・・そう手足などの不要な臓器をすべて排除してポッドの中に入ってもらっている」

一同は絶句した。

なんてこと、をあまりにも非人道的だ。

梨田康生”ブルー”「いくらなんでもそんな作戦を気弱な寛治が了承するわけないだろう」

青山権蔵「いやちゃんと了承してくれたよ、君の兄やレッドの父親と同じだ、家族を引き合いに出したらすぐに了承してくれた」

”ブルー”は思いもよらなかった告白に「そんな・・・」と声を失う。

神崎静留は一気に怒り心頭になった「青山ぁぁっぁぁぁっぁぁおまえぇぇーーーーー」

野中人麻呂「落ち着き給え神崎君、今メグミンの残党を逃せば彼らは必ず体制を整えて日本を攻めてくる。ここでとどめを刺さなくてはならない」

青山権蔵「野中副社長の言う通りだ。ここで「メグミン」を逃して、次に再攻勢をかけてきたときに君に責任をとれるのか」

神崎・・・・・・しばし考える。

そうだ、社長の言う通りなのだ、ここで「メグミン」を逃がして再攻勢をかけて来た時にはも自分は癌で死んでいるのだ。

感情に任せて自分で「メグミン」を逃がしておいて再攻勢をかけてきたとにはもう死んでいて、残ったメンバーで勝手に何とかしろという方が無責任では無いのか。

自分には寺島寛治”ピンク”を助けるとう選択をする権利がそもそもないのだ。

それにここで寺島寛治”ピンク”を回収したところでどうなるというのだ、もし万が一命を取り留めたとしても、体をバラバラにされた彼の人生は積んでいる。

寺島寛治”ピンク”の決意を後押しすれば、未来の「メグミン」の大攻勢で失われる多くの日本人の血が止められるのだとしたら・・・。

論理的な最適解はすでに出ているのだ。

神崎静留は自分のアンチマテリアルライフルを壁によじ登っている梨田康生”ブルー”に向けた。

「すぐに降りなさい、我々はここから撤収します」

野島精一”イエロー”は態度を豹変させた神崎静留にいきり立つ「何言ってんだよリーダー!!仲間を見捨てるのか」

神崎静留は銃口を”イエロー”に向けると発砲した。二人の距離があまりにも近かったのでリアクティブアーマーも十分に効果を発揮できなくて、弾丸の発生させる衝撃波で

野島精一「イエロー」の右肩の肉がこそげ落とされる。

「これはリーダーとしての命令です」

神崎静留の本気を見た他のメンバーはもはや何も言えなかった。

サイキック防衛団の残存攻略部隊は次々と「メグミン」の宇宙船から海に飛び込んだ。


スターリオンはぐんぐんと高度を上げて衛星軌道上の味方の僚艦と合流した。

その後惑星エスカジングへとつながるワームホールを形成する。

そして艦隊の表面に負のエネルギーのコーティング被膜を形成するとワームホールの中に消えていった。

艦隊がワープアウトしたエスカジングではまさに激戦が繰り広げられていた。

「メグミン」軍側の兵士たちは味方の増援に歓喜の声が上がっていた。

副指令を任された面長のアコンカグヤは意気揚々と味方の僚艦に伝令を下す

「我々も参戦するぞ、全艦、反物質ミサイルエスカジングに向けて発射する。」

命令内容に驚く中年太りポチョムキン「待ってください。反物質ミサイルは威力が大きすぎます、敵粉砕どころか惑星そのものを破壊してしまいます。それにこの角度から打てば味方の軍勢にも甚大な被害が及びます」

横で聞いていた初老のエイシンは、ポチョムキンに銃を撃って言い放つ「どうかしているのは君の方ですよ、全ての生きとし生ける生物はすべて殺さなければならないのです」

ポチョムキンは銃弾に額を貫かれていてすでに絶命していた。

スターリオンの格納庫に取り残された寺島寛治”ピンク”がすでにナイトメアモードを発動させていたのだ。

スターリオンおよびその近くを移動する宇宙船のクルーは殺戮欲求が極限に高まりつつあった。

旗艦スターリオンの巨大なミサイルドアベイが開かれてミサイルが放出された。巨大ミサイルはとても太い外観をしている。

ミサイル内部に反物質を詰めていて、その周りは真空状態にしてある。中身は絶対零度近くに常に冷却されている。

そして真空を保つ外殻の外には超重力場の発生装置がぐるりと取り囲んでいた磁場によって反物質の位置をコントロールして反物質が真空外殻に触れないようにしているのだ。

そのような複雑な構造をした球体の弾頭であるためミサイルも自ずとずんぐりと太いデザインになっていしまう。

その巨大さゆえに当然運動性能が悪いので、敵には良い的になる。その弱点を補うためにステルス能力をミサイルに付与されている。

敵にも味方にも気が付かれぬままミサイルはゆっくりと加速してゆき、気が付いた頃にはエスカジングに落下していた。

ミサイルの外観が壊れると中身の反物質が外に漏れだしエスカジングの大地と触れて対体消滅反応をする。その時に生み出されるエネルギーが星系内にあるすべてのものを破壊しつくしてゆく。

そしてそれを撃ち出したスターリオン自身も大爆発に飲み込まれて四散してしまった。


こうしてこの宇宙からすべての「メグミン」は滅亡してしまったのである。

日本の平和は回復されたのだった。

めでたしめでたし。

だがその事を日本人はまだ知らなかった。


世田谷のサイキック防衛団事務所。

薄暗い会議室で二人の男がやり取りをしている。

やれやれ、計画通りという訳か。

そうだ、神崎君はようやってくれた。

これで軍を解散して本格的な復興支援に移れる。

解散なんてしない、出来るわけがない。仕事の依頼が殺到しているんだ。

確かにそうだ。超先進文明を持つ謎の異星人をたった一個のNPO法人が撃退したんだ、傭兵市場の信頼も厚い。それでも破壊された国内の秩序の回復は急がなければならない。

分かっている。だが復興には金がかかる、金を稼ぐのに我々が出来ることは戦争だけだよ。

人を助けるために人を戦場に送る。とんだ自己矛盾だな。

中国から案件が来ているそうじゃないか、あれも受けよう。

人民解放軍がモンゴル自治区の独立派を皆殺しにするのを支援するという例の件か。我々のクライアントは元々モンゴル自治区だったはずだが。

今は違うさ、人民解放軍は我々の戦力の高さを身に染みて知っている。6億ドルは取れると思うがね。

まさかあえてモンゴル自治区の依頼を受けたのも、計算のうちだったのか。

男はニヤリと笑って答えた。来るべき第2次メグミン戦争に備えて我々は世界最強の軍隊を編成しなければならない。さあ金を稼ぐぞ。


第12話終わり


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精神戦隊トラウマン @turutokugorou

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