第4話…ピンポイント
世の中、不意打ちほど、
怖いものなんてなくて。
感情がなんか、
グワングワン揺れた。
4……ピンポイント
語彙力って読書の量に比例する、とか言うけど。
それよりも、きっと。
その本の世界に入ってることで、現実をぼんやりさせられたり、
なんなら、宇宙へ行けちゃったり、
UFOに乗れちゃう、みたいな。
1種の現実逃避の要素が強い気がしてる。
現に俺は、音楽と本に、
日々救われてるし、だから。
語彙力上げるために本を読む、ってのも。
あんまりオススメしない。
「……どこだっけな……あの本……。」
記憶のどっかに残ってたワードと、
表紙の絵を頼りに探す。
「これだっけ……?」
1冊1冊、思い当たる節がある本を、
手にとっては開く。
図書館の本を片っ端からやっつけてる俺としては。
何となく、あの本とあの物語は似てる、とか。
作者の作風が似てると影響受けたんだろうな、とか。
あれこれ考えちゃってるんだけど。
オリジナル曲のあのベースのうねりを表す本は、
確かにこの空間にあるはずで。
曲のヒントを探しに、ここに来ただけで。
目的はあくまでオリジナル曲の製作だったはずで。
なのに。
「…………居た……よ、ここに。」
思考とはかけ離れたところで、
感情が突然、ぐちゃぐちゃにされた時の、
処理の方法、なんて。
俺は身につけてはいない。
「1年E組……まりな。」
本の1番最後に貼っつけてある貸出カード。
俺の名前の……5つ下に見つけた名前。
「A、B、C、D、E。」
無駄に指折り数えた意味なんて。
特にはないんだけども。
なんか、彼女との距離感を、
知っておかなきゃ、って思ってしまったから。
指折り数えるなんて、そんなことをしてしまうから。
両耳に響く鼓動が、急に耳をつんざく様にデカくなって。
図書館という空間の静けさを、
恨んでしまう。
分かりやすく波打つ鼓動が煩わしくて。
慌てて、本を閉じると、図書館を後にした。
***
毎日歩いてる1年のクラスが並ぶ廊下ですら、
異空間に見えるし、景色がなんかおかしくて。
「………。」
E組の前。
分かりやすく俺の歩幅がゆっくりになる。
そんな自分に苦笑して。
名前を見つけただけ、で。
こんなにアタフタしてる俺は、
彼女と目が合ったとして、
どうして欲しいんだろう、と。
頭のどっかで分かっているのに、
歩くスピードの上げ方が分からない。
俺に気づいて欲しいのに、
どうか気づかないで欲しいとも思う。
ひどく矛盾していた。
[正人!どこ行ってたんだよ!数学のノート見せて欲しくて探してたんだよ!]
「あ、悪い。図書館行ってた。」
俺の元にダッシュで来たシゲに、
こんなに救われたことってない。
「なんか……心臓いてぇ。」
[はぁ?大丈夫かよ?保健室行くか?]
胸を小さく叩いて、呼吸を整えた。
「深呼吸したら治るだろ?こ……んなん。」
ふと視線を上げた、その先。
ちょうど教室に入る、彼女がいて。
ダメだ、結びつけてしまってはダメ。
この心臓の痛みと、彼女を結びつけたら。
彼女にこだわっていることに、
俺が気づいてしまうから。
「シゲ、早く教室戻んないと、先生来る。」
つんざく様に鳴る鼓動は、
急いで教室に戻ったから心拍が上がったから。
「あ……」
声にならない声を、思わず上げたのは。
授業が始まって、すぐ。
シャープペンシルの芯が折れたから。
何かに抵抗するように、
俺の手には分かりやすく力が入っていて。
今度逢ったとき、そんな話をしたら。
彼女は何て言葉にするんだろう、って。
俺はまだ、俺の主観を通してでしか、
彼女を知らない、のに。
見つけてしまったら、もう。
どうしようもなかった。
***
図書館通信、に。
下駄箱の位置。
あとは、ケータイの待ち受け画面が、
飼ってる犬のダンくん。
日常に増えていくまりなちゃんの痕跡。
だって、なんか視界に入ってくること増えるから。
誰に相談する訳でもなく。
人知れず、頭のどっかで彼女の存在と戦ってしまう。
だから、そのせいで。
彼女の視線の先に、誰がいるのかも
俺は知ってしまって。
「結局…ああいう人のが最終的にはモテるんだよなー…。」
小さく呟いて、ふと気づいた。
ことのほか、その声がデカかったこと。
危うく、俺の思考が言葉になって空気に散りかける。
ちょっとした焦りを感じてると。
『日が長くなったね。』
不意打ちで現れた、その人。
「……ちょっ、急に来るなよ…焦ったー…。」
『久しぶりに来たのに、来るなってちょっと失礼じゃない?』
「ご無沙汰してます、1年E組のまりなさん。」
『こちらこそ、お久しぶりです。見つかっちゃいましたか、私。』
ふふっ、と小さく笑った声に、
心の奥が小さく鳴った。
いつからそこに居たのか。
その、俺のデカイ呟きは聞こえていたのか。
聞かなきゃいけないことは多いはずなのに。
上手く言葉が出てこない。
『今日、ギターはないの?』
「あー、今、バンドの他のヤツに貸してる。」
『そうなんだ。』
「……春、近いのかもな。」
『え?』
「いや、さっき。日が長くなった、って言ってたから。」
『あぁ、そっちの話ね。ほら、影が長くなったでしょ?初めてここで逢った時、こんなんだった。』
彼女の華奢な手が表す長さが、
出逢ってからの月日を表すみたいで。
「夏になったらもっと長くなるんじゃない?こんくらい?」
『ノッポな影だー(笑)』
俺の言葉に、そんな顔してはにかんでくれちゃうから。
何だか、この空気感を欲してしまう。
神社の境内のちょっと行った先。
俺のお気に入りの場所へ来る理由が、
いつしか別のもんになっていて。
彼女がここに来る理由も何だかすごく気になった。
きっと、ここに咲く桜がキレイだから、だとか。
実は花火が良く見える穴場だから、だとか。
神社までの道のりにほのかに香る金木犀が好きだから、だとか。
痛いほど冷えた夜には銀河系みたいな夜景が見えるから、だとか。
四季の貴重さをしっかり感じられる場所だから。
彼女もそれが好きなんだろう、って。
1人部屋であれこれ想った、
俺の主観を通してでしか感じてない彼女も、
同じ感覚であって欲しい、みたいな。
独りよがりな気持ちを持て余して。
1人黙りこくった。
沈黙が焦らないこと。
それが唯一の救いで。
だって。
空を見上げて虹を見つけるくせに。
地面に映る影の変化に気づいたり。
今、だって。
『邪魔……かな?私。』
「え?なんで?そんなことないよ。」
『だって…なんか考えたいのかな、って。』
見透かした様に返ってきた返事が。
俺のことよく見ているようで。
そんな彼女がすごく心地よかった。
「まりなちゃんってさ。視野広いよね。」
『視野?』
「空見て、地面見て、横の俺見て、すぐ気づく。虹、影、考えごと。」
『そうかなぁ?』
「羨ましい。俺は前髪上げても、視野狭いまんまだもん。」
重くなった前髪を上げてみる。
『でも、時々見えすぎて…しんどい時もあるよ?見えすぎも問題。』
そう言った瞬間、声がわずかに震えたこと。
それに気づいてしまった自分は、
きっと、彼女に笑って欲しかったんだと思う。
あの日みたいに。
考えまくって動いても、結局失敗してしまうから。
「しんどいなら、目ぇ閉じればいいんじゃない?真っ暗闇。そしたら、静寂で落ち着くかもよ?」
どっかの小説に出てきそうな台詞。
下手くそだなぁ、って。
延びてく影を見て思っていた。
本当の彼女を知りたくなった。
俺の主観を通してではなく、
本当の彼女を。
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