第2話…目線の先
ズラッと並んだ想いには、
ホンモノ、なんてないこと。
いつの頃からか気づいてしまったから。
視線の先に見えていたものを。
ただ、一緒に見たくなっただけ。
2……目線の先
[なぁなぁ、今日告られたらいく?]
「ん?」
[だからー、この手紙の山がチョコに変わったとしてだよ?この中の子と付き合うのかって話だよっ]
「んー…いかねぇかなぁ。」
[何でだよ?!ほらっ!この子!学年イチの可愛い子だぞ?!]
県立高校、1年A組の俺の机の上。
無造作に積まれた手紙の山に途方に暮れていると、
目の前にユラユラされるパステルカラーの封筒。
そんな封筒、どこに売ってんだろう、なんて。
ぼんやりそんなことを思った。
シゲのテンションに少しだけ置いてけぼり食らってる俺の感情なんて無視して。
[正人ってモテるから分かんねぇんだよ。この手紙達のありがたみ!]
シゲは手紙の山の奥から、またひとつ。
無作為に手紙を掴む。
[うわっ!この子も?!ショックすぎんだけどー…この子、俺気になってたのにー。]
かと言って、この手紙の山から、
言の葉として俺の耳に届いたのは、たった2つという事実が。
俺を疑心暗鬼にさせてる原因でもあって。
ファン心理みたいなものに近い気もしていて。
好き、って感情の温度や深さ、湿度みたいなもんは。
人それぞれだとは思うし、それを否定するつもりはないんだけれども。
俺ですら、自分自身のことあまり分かってはいないのに。
この手紙の子たちは、俺のどこが好きなんだろう、って。
少しの申し訳なさと戸惑いのがどうしても強くなってしまう。
「………。」
[まぁた、俺のどこが好きなんだろう…って顔してる。お前さー、頭で考えまくるから、行動に移す怖さがあるんだろ?なんつーの?感情が突き動かされるように、どうしようもないくらい、人を好きになると、先に行動しちゃうもんだ。正人にはそんな子いないのかよ?]
「……何で上からなんだよ(笑)よく分かんねぇわ…それ。」
図星をつかれて、ひどく焦った。
シゲはそういうヤツ。
おちゃらけてるくせに、俺のことよく知ってるから。
時々、核心をつく言葉を投げてくる。
だから、『親友』って枠組みにいるんだろうけど。
♫♫♫♫〜〜
両耳にイヤホンをつけると、大好きなバンドの曲。
焦りと戸惑い。
それを隠すのに、両耳に響く爆音がひどく役に立った。
この前シゲを含む5人の仲間で見に行ったライブ。
そっから全曲制覇したい一心で、聞きまくってる大好きなロックバンド。
俺には女の子とのあれこれより、
今はこっちの方が好き。
放課が終わる間近。
手紙の山をかばんに入れた。
1枚1枚手紙読むのは、とても力がいる。
言葉の使い方、だとか。
行間、だとか。筆圧、だとか。
その女の子を想像したり、人となりを予想したり。
そんなとこまで感じながら読もうとすると。
やっぱりそれなりの時間と集中力がいるし。
そんなことをしていると。
[結局、お前は律儀なヤツだな(笑)]って。
シゲに笑われたりするんだけど。
結局、手紙って捨てられなかったりするんだよな。
帰ってからの手紙を読む行為を先延ばしにするように。
バンドの曲をリプレイしながら、授業を聞いた。
6限目の終わりかけの空気感が好き。
放課後への期待感みたいなソワソワするあの感じ。
バンドの曲と周りの雑音が絡まるあの感じ。
でも、今日はそれに重なってる。
バレンタインの空気感。
あ、だからか。
いつもより手紙の質量が大きい気がしたのを思い出した。
[…………!!!おいっ!あれ見てみろよ]
「ん?……っ!!えぇ?!」
それに気づいたのは、
足取り軽く帰った帰り道。
俺の家の近くまできたところ。
俺の家の垣根の前に数人の行列。
[モテるの羨ましいと思ってたけど、今日は大変としか思わないわ。頑張れ!(笑)]
頑張れ、ってさ。
これから俺は、あの子一人ひとりの
想いや声や表情を。
聞く、ということで。
イベントに絡まる真剣な想いを、
しっかり聴けるほどの思考回路も心も持ち合わせてなくて。
心が2つあれば、なんて。
そんなことを思ってしまった。
「ちょっと……コーラ買ってくる。」
心で感じたことと身体は分かりやすく直結していて。
喉の乾きを理由に、今来た道を引き返した。
[お前、ありがとうね!って聞いときゃいいんだよ!なぁ……!]
「そんな訳にいくかよ!俺、好きって言われても何もしてやれないんだよっ!ムリムリ!どんな顔すりゃいいのか分かんない……っ!」
[その真面目なんだか、シャイなのか分かんないお前の性格に、皆キャーキャーしてんだな(笑)無口で大人しくて、顔が可愛い。んで、バンド始めたって聞きゃあさ、女の子あんだけ列作るわ(笑)]
「シゲ、面白がってるだろ。はい、もう帰った帰った!」
シゲの背中を押して、帰るように促す。
イベント事に列を作る女の子の心理。
俺には全く理解が出来なくて。
そんな俺だから。
女の子に対して、望んでいるような空気感も
きっと作ってやれないから。
あれこれ考える癖は昔から。
いつの頃からか、
物事をどこか達観的に見てしまうし。
高校というどっちつかずの季節が持つ
取り返しのつかないだろう瞬間の貴重さを、
知ってしまっているから。
夢中になってるものを取りこぼしたくない一心だった。
音楽、ロックンロール。
今、俺のすべてに近いもんに、
囲まれて過ごすことを望んでいる。
近くの自販機でコーラを買って。
高台の神社の石段を1段飛ばしで駆け上がった。
「はぁ……はぁ……っ!」
お気に入りの場所。
神社の境内の端からちょっと先に行くと。
街を一望できる俺だけの場所。
考えまくってもどうしようもない感情に困ると。
いつもここに来る。
四季の変化や1日の変化。
そこから見える景色は、ひとつとして同じことはなくて。
それでいいよ、って。
いつだって、そう言ってくれてるみたいで落ち着いた。
だから、俺にとって大事な場所。
「…………っ」
思わず息を呑んだ。
その横顔が映す感情が、あまりに分かりにくくて。
かけるべき声のトーンや言葉が浮かばなくて。
でも、夕陽に照らされて浮かび上がる佇まいが。
…………キレイだと想った。
『………っ!!びっくりしたぁ……ごめんなさい!』
「……あ、ごめん…とつぜん。」
言葉も声のトーンも用意してないくせに。
何を見てどんな表情してんのか。
気になってしまって。
その横に立つ距離感を見誤った。
肩が小さくコツンと触れた。
彼女が一歩だけ後ずさりした砂を踏む音。
嫌いじゃないと思ってしまった。
「何見てんのかなぁと思って。…気になったから。」
『冷たさが痛いなぁって。』
「ん?」
『ここ、高台だから、空が近いからかな?寒くてほっぺが痛い。』
「景色見てたんじゃないの?」
『見てたんだけど、考えてたのはほっぺが痛い。』
「変なやつ。夕陽とか言うのかと思った。」
『初めは夕陽見てたよ?でも、寒くて(笑)』
イベントの日とは無関係な会話。
名前、とかの前に話したこと。
冷たさが痛い。
その言葉がひどく心の奥に残って。
たぶん、俺は気がついてしまった。
言葉より行動が先に出ちゃう感情の意味に。
目線の先に見えていたのは、
温度が伴っていて。
両耳に響く鼓動が煩わしくて。
たまらなくなった。
それが、
1段飛ばしした石段のせいなのか、
目の前の彼女のせいなのか、
分からないけれども。
覚えているのは、
彼女が口許まで隠した真っ赤なマフラーだけ。
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