エピローグ ようやく
「……ふぅ」
俺は独り、弟への本心を語り終え、息を吐く。
今さら本音を語ったところで、何になるのだろう。
こんなことをしても、弟は戻ってくるわけでもないのに。
でも、例え自己満足だとしても俺の心の中の棘は、取れたように感じた。
今、目の前で目覚めない眠りについている弟。
この想いをもっと前に伝えられていたら、俺達兄弟はどうなっていたのか。
そんなことは、誰にもわからない。
もしかしたら、そんなこと言われても兄貴のことは嫌いだ、と言われていたかもしれない。
結局のところ、きっと俺は弟が生きている間に自分の本音を言えなかったのだろう。
こんな形でないと、俺は本音を伝えられなかった。
時間なら、機会なら、いくらでもあったはずなのに。
最期まで俺達兄弟が分かりあうことはなかったのかと思うと、それだけはやはり心残りだった。
……もう、眠ることにしよう。ここにいても後悔が波のように押し寄せて、悲しみでどうしようもなくなるだけだ。
俺は、弟に背を向けて、歩き出す。
すると。
「ありがとう。俺も兄貴にあこがれてたよ」
瞬間、俺は声のした方に振り向く。そこには、当然誰もいない。
でも。例え幻聴だとしても、ようやく俺達兄弟は、分かりあえたのだと思った。
そう思うと、涙があふれてくる。
「……そう言う勝手なところあるのは、昔からだよな。本当に」
しばらく泣いた後、俺はそうつぶやいた。
弟が笑ったのを示すように、ろうそくの火が静かに揺れた。
羨望 きと @kito72
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