楽な人生

夏伐

楽な人生

 昼下がりの公園。


 砂場の横を通り、ベンチの下にある『家』までつらつらと蟻の行列は続いていた。


 一心不乱に何かを運んでいる。


「いやぁ暑い暑い。これじゃ干上がっちまぅよ」


 一匹の蟻が列を乱した。


 上に一滴の水がもたらされたからだ。

 蟻は丹念にそれを調べる。

 釣られるようにして後ろにいた蟻も列を反れて、ベンチに近いその一滴の水へと向かった。


 数匹で集まると、


「お、これは甘いねぇ」

「これを女王に運ぼう」

「向こうのご飯よりも近いよ」


 相談し、器用に水滴を持って巣に帰っていく。


 それを繰り返してついに列は水滴から折り返す短さになってしまった。


「何してるんだ?」


 ふいに蟻の上に巨大な影が降りかかった。


 俺は蟻から顔を上げてその影の持ち主を見た。


「何って俺作、蟻の会話劇場」


 ばっと腕を開いて友人に答えた。


 持っていたファンタ缶の残り少ない中身を蟻の列を横断するように散らした。


 気づいた蟻が列を離れる。


「見てみろよ」


 俺は蟻を指さして友人に言った。


「目の前の餌に釣られてすぐに食いついて、確かにある餌でなく近くにあるすぐに蒸発するもので代用してる。列から離れた発見者の蟻は、後の蟻にとっては許されざる蟻だよな、ハハ」


 俺が笑うと、友人は呆れて言った。


「許されざるって……自虐か?」


 苦笑いする友人を俺は睨みつけた。


 目の前の餌に釣られて楽な方楽な方に行ってしまう俺。確かに自虐かもしれないが、わざわざいう事ないだろうに。

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楽な人生 夏伐 @brs83875an

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