最終章(第一巻完)


最終章 ホーム


私の頭上にある空は、まるで鈍重な群青色の塊。私たち人間の体を覆い尽くし、抱きしめる。

清涼な風は目に見えないせせらぎのよう。私たち人間の体を洗い流し、清める。

輝く太陽の光は、まるで地上を舐めるカーテン。私たち人間の体を明るく照らし、夜から守る。

地上にある何もかもが愛おしい。その全てが幸福の欠けらでできているみたいだ。


あの戦いからどれくらい経っただろうか。すっかり平和になったこの国にもうホームレスなどいない。投獄された王様は数年間の後に病で死んだ。でもあれでよかったのだろう。

私は噴水広場で行き交う人々を眺めていた。どの人も退屈そうに平和を噛みしめている。それが私にとって何よりも嬉しいことだった。


そんな中、都会の喧騒をかき分けて、

「女神様!」

誰かが二代目の女神となった私のことを呼ぶ。それはガンを完治させて、立派に成長した黒髪の青年だった。

「何? 改まって、いつもみたいに愛でいいわよ」

「そうか、なら愛。お前の力を貸してくれ。新しい敵だ」

「わかったわ」

黒髪の青年は、ウィンドウを空中に表示した。私は何の迷いもなく、『はい』のボタンを押した。

「さあ、行きましょう!」

空に浮かんだ何度も見た一文を、私はじっと見つめる。

『ホームレスを装備しました』

それは、どこか暖かくて、どこか優しいように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホームレスを装備しました(この小説はホームレス専用の小説です! ホームレスではない方は見ないでください!) 大和田大和 @owadayamato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ