第2話

 アリスやチェシャ猫のいなくなった物語の世界は登場人物の欠員により、次の新しいアリスが生まれるまで時を止めようとしていた。


バジル「なぁウサギ、私はアリスを探しに物語の外に出てみようと思ってるんだ」


ウサギ「このままここに居ても時が止まってしまうからね。女王様が行くなら俺も一緒に行くよ」


穏やかな日々を気に入っていたバジルだったが、【鏡の国のアリス】の世界を守るため、アリスとチェシャ猫を探すために、ウサギと共にアリスたちの使った割れた鏡の隙間に飛び込んだ。


 バジルとウサギが到着した場所、そこはボロボロの本が山積みになり、野原のあちこちに破れた本のページが散らばった荒れた世界。

 そこでは、物語を捨て本の世界を飛び出した、ならず者や乱暴者達が争い、本を荒らしたり、様々な本の登場人物の座を奪い合う戦場だった。


バジル「なんなんだこの荒れた世界は、こんなところにあの子アリスたちは来たのか?」

 

 バジルはこの世界に来たアリスやチェシャ猫を心配し探し回った。

すると、破れた本と一緒に転がるアリスのヘアバンドとハート女王の鏡のかけらを見つける。


ウサギ「女王様、これアリスの・・・?」


バジル「この近くに二人いるかもしれないな」


 そう言って辺りを捜索すると、近くの本の山影に倒れていたチェシャ猫を見つけた。チェシャ猫は、乱暴者達の争いに巻き込まれ、深い傷を負い瀕死の状態だった。



 アリスとチェシャ猫は凄まじい戦いの真っ只中に来てしまい、アリスはあっという間に消され光の玉になってしまったこと、そしてアリスが消えかけるとき


アリス「私は本当に自分勝手だったわ。心優しいハートの女王…バジルは大好きな友達だったのに…。こんなことになってしまって…私が消えたら【鏡の国のアリス】の物語は時を止めてしまうのに…。本当にごめんなさいバジル…。」


チェシャ猫「アリスを許してあげてね。彼女はあなたのことも、【鏡の国のアリス】の世界も本当は大事に思っていたんだ。ちょっとだけ冒険をしてみたかっただけなんだ。」


アリスの言葉をハートの女王(バジル)に伝えると、チェシャ猫も光になって東の方へ飛んでいってしまった。     


 大切な友のアリスやチェシャネコを亡くし、アリス達が消えた【鏡の国のアリス】の世界の時は止まる。物語を唯一繋いでいたハート女王の鏡の隙間も閉ざされ、バジルとウサギはその場に取り残されてしまった。


 アリスたちを助けることも「鏡の国のアリス」の世界を守ることもできなかったバジルは、酷く落ち込み泣いて悲しみ、ウサギは黙ってそばで寄り添って涙を拭いていた。どれだけ泣いたのかしばらくそこに留まっていた。


乱暴者A「さっきの子供と猫どこ行ったんだ?おい!!誰か俺の獲物とったか?くそ!!」


遠くの方で怒鳴り声が響いている。それに気づいたウサギは高く積まれた本の後ろにバジルを連れていき隠れながら言った。


ウサギ「ねえ女王様、気持ちはわかるけどずっと落ち込んでるわけにはいかないよ。俺たちは元の世界には戻れない、ここでふさぎ込んでてもならず者たちの戦いに巻き込まれてしまう。これからどうするか考えよう」


バジルも周りのピリピリした空気に我に返り気持ちを切り替える努力をする。


バジル「ああ、そうだね。この世界で私たちは新しい生活を始めなきゃ…ね…。私たちの故郷「鏡の国のアリス」も守っていかなきゃ」


そう言って泣き顔を袖で拭き、パンッと両頬を叩くと辺りを見回す。

バジルはあちこちに散らばった本の中から、止まってしまった【鏡の国のアリス】を見つけて手に取った。


バジル「ウサギ、まずはここに散らばってる止まった童話の本達を、新しい登場人物がそろって動き出すまで大切に管理する場所を作ろう」


バジルはまっすぐ前を見て凛として立ち上がった。


ウサギ「かしこまりました、女王様」


とウサギは膝まづいた。


バジル「ウサギ、私はもう女王じゃない、バジルでいいよ」


そう言ってウサギに微笑みかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼノテイル♯2〜はじまりの物語〜 虹桜 @nijixacura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る