第9話 止まる世界
フリーズ
時が止まる
静止する
言い方は色々あるかもしれない。
何を言ってるか分からないと思うけど聞いて欲しい。ここ最近の私の日常をダイジェストでお送りするので是非とも聞いて欲しい。
いつものお猫様に恋愛相談。
↓
好きな人の落し物を拾う。
↓
好きな人が学校を休んだので家に突撃。
↓
翌日私が風邪をひく。
↓
学校を休んで少し回復。
↓
好きな人と母親が自宅に登場。
↓
玄関先で父親という壁に阻まれる。
↓
父親の壁が無くなり好きな人とご対面。
↓
とぅ〜び〜こんてぃにゅ〜
「――っ!!!」
「――っ!!?」
フリーズ
時が止まる
静止する
言い方は色々あるかもしれない。
何を言ってるかわからないと思うけど教えて欲しい。この状況は私には刺激がとても強い。例えるなら通ぶってインドカレーを適当に頼んだら辛過ぎて泣けてくるぐらい。
ねぇ、教えて偉い人。
一体ここからどうすればいいの?
「あっ、えっ……あぁ……み、
ここに私がいると予想してなかったのだろう。
「あの……その、いつからそこに?」
それを聞いちゃうかぁ。まぁそうだよね。
素直な私は素直に答える。
「……はじめからいました」
「……で、ですよねぇ。アハハ」
どう答えていいかわからないと
私の愛が想良羽くんに届いて笑ってくれる。
強引だな……
やんっ、そんないきなり呼び捨てなんて……激しい。
俺たちの仲じゃないか? いいだろ?
でもでも……
雛も呼んでくれていいんだぜ?
……れ、れ。
ん? どうした、ほら早く。
あっ……うぅ。れ……
「……鴒」
「――っ! ひ、雛……さん」
アレ? 今、私の耳に鴒くんの声が。
待って待って待って!
落ち着いて目を開けるのよ。
ゆっくりと深呼吸をして現実世界に戻ってくる。そして目の前には……
「……鴒くん?」
「はい……えっと、雛さん」
やってしまった。
とうとう私は取り返しのつかない所まで来てしまったようだ。
「んもうっ、そんな所に居ないでこっちに来なさい2人とも」
「そうよ鴒ちゃん、せっかく招待してもらったんだから」
マザーズはすっかりコミュニティを形成したみたいでリビングへと消えていく。そして恐らくその現場に唯一いたであろう父親は。
「うん。うんうん! うんっ! いいね!」
何故か鴒くんに向かって仕切りにうんうん言っていた。
「……い、行こうか……れ、鴒くん」
「よろしくお願いします。ひ、雛さん」
もうどうにでもなってしまえ。という気持ちを抱きつつ冷めない熱のままリビングへ。
――――――
「なっははは、そうですかそうですか! 想良羽さんの所はあの和菓子屋さんでしたか」
「私もよく買いに行ってるのよ。まさかそこの息子さんだとはねぇ」
それが
晩餐会の前に心さんと鴒くんが改めて菓子折りをくれた。それを見た両親は有難く受け取ると店名を見てしきりに店の事を褒めていた。
なんでも鴒くんの所の和菓子屋さんは結構な有名店らしく、町内会の集まりや会社の得意先に持って行くと重宝されるとか。
「それにしてもこの料理美味しいですね」
「あらありがとう鴒くん。しっかり雛に叩き込んでおくからね」
「えっと……ん?」
少しだけ緊張が解れた鴒くんはお母さんの強引な勧めで夕食を食べていく事に。そんな鴒くんにお母さんはわけが分からない事を言う。
「雛ちゃん。ウチの息子はやればできる子だから、一緒に台所に立つといいわよ」
「あわわわ……心さんっ!」
お母さんの言葉に対して理解してない彼。
心さんの言葉に対して理解する私。
「いやぁ……いいね。うん、いいよ鴒くん」
ほんの少しお酒を飲んだお父さんは鴒くんをしきりに褒めていた。さっきから同じ事しか言わないけどお父さんは鴒くんのどんな所を見ているのだろう。
「それでそれで、修学旅行の話でも聞かせて貰おうかしら〜」
「うふふっ、
どうやらマザーズは一気に意気投合したらしく隣に座り正面に座る私達を見つめる。今更だがこの席順はおかしいと思う。
正面に座るのは左手側から父、母、心さん。そして私の隣には……
「雛さん、熱はもう下がったの? 顔赤いけどキツくない? 大丈夫?」
今顔が赤いのは貴方のせいです。とは流石に言えないのでコップのルイボスティーをゴクリと飲む。
「……大丈夫です」
それが大人達からいいようにからかわれる私が発した唯一の言葉。
それからしばらくは文字通り遊ばれた。
――――――
「さぁデザートもあるからねぇ」
お母さんがプリンをみんなのテーブルに運んだ時に不意に鴒くんの顔に陰が差した。
「……鴒くん、プリン嫌い?」
「えっ? あぁ、いやプリンは好きです」
「どうかしたの?」
私は反射的に尋ねていた。すると本人じゃなく心さんが口を開く。
「この子、
「大切な物?」
「もしかして財布とかスマホとか」
母と父は真剣な顔で覗き込む。しかし鴒くんは首を振って否定する。
「あの……お守り……なんですけど」
「お守り?」
お母さんの言葉に鴒くんは続ける。
「はい。学校を出る時まではあったんですけど、途中本屋に寄って家に帰った時には……昨日と今日探したですが見つからなくて」
今まで見たこと無いような表情で落ち込む横顔にチクリと胸が痛くなる。
「お守り……お守り……んっ?」
はて?
お守りという単語をどこかで聞いたような気がする。
「どんなお守りなんだい?」
「えっと、色は水色で健康のお守りなんですけど……」
父親の質問に答える鴒くん。
「水色……健康……」
はて?
その単語どこかで。
しばらく考えた私は家の中だと言うのに大声で席を立ってしまう。
「あぁぁぁっ!!」
ガタンと椅子が倒れてしまったけどそんな事は気にしない。
「ちょっと雛、どうしたのよ?」
「こら雛っ! お客さんの前で」
両親に怒られるけど今は気にしていられない。私は急いでダイニングから部屋へと移動して鞄を漁る。
「えっと……確かここに……あった!」
ドタドタと勢いよく階段を降りて息を切らせながら彼のもとへ。
「はぁ……はぁ……鴒くん。お守りってこれの事?」
目の前に差し出す水色のお守り。
それを見た瞬間彼の顔色が目に見えて変わっていく。
「これ……どこで……でも、あれ? この紐……」
一瞬だけ彼の顔が疑問符へと変わる。それもそのハズ私が補修した所を見て違うのではと思っているのだ。
「一昨日、鴒くんの後をストーカ……コホンッケホンッ。たまたま偶然本屋さんで拾って……紐が切れてたから勝手に補修したんだけど……ごめん、迷惑だったかな?」
その発言に両親と心さん、それに鴒くんが目を見開く。
「そっか……そっかぁ。迷惑だなんてそんな事ない。ありがとう……ありがとう……雛さんっ!」
私の手はお守りごと彼の手に優しく包み込まれる。触れ合う手は暖かく彼の温もりが伝わってくる。
「……ひっく……うぅ……ありがとう、ありがとう」
「――っ!? れい……くん?」
彼の手は震えて泣いているように見える。いや、実際私の手を握りしめて額にあてて泣いているのだ。
これには私も両親も驚きを隠せず鴒くんと心さんを交互に見る事しかできない。そんな心さんは慈愛に満ちた聖母の顔で微笑みかける。
「良かったわねぇ鴒。これでまた……お父さんに逢えるわね」
その言葉を聞いた瞬間……私の時が止まる。
次回
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