第11話 夏休み前⑩

ほらほらと先輩を促すと、先輩は素直に従いパソコンの前に座った。

後ろからその様子を伺うと、先輩の耳は頬と同じくらい赤くなっていた。


何故か動揺しているようで、マウスを動かす手もぎこちない。


「どうしたんですか先輩。パソコンの使い方、忘れちゃったんですか?」


「だ、大丈夫だ。問題ないよ。」


しかし、申請画面に入ってもマウスカーソルをぐるぐると中央に滑らせている。

先輩に近づくと「落ち着いて…落ち着いて…」と小声で呟いている。


先ほどの不埒を見透かされたやましさもある。

ここで先輩への名誉挽回を図るべきだろう。



後ろからマウスを操作する先輩の右手に手を重ねる。


「ほら先輩、『月刊ラ・ムー』ならここに……」

「へ、へぁっ……!?」


その瞬間、先輩の耳が沸騰したように赤くなる。

あわあわと不器用にマウスから手を振りほどき、両手を膝の上に置いて固まってしまった。


「うわっ、急にすみません。先輩が探すの手伝おうと思って…」


先輩は相変わらず固まっているが、首だけはマネキンみたいにこくこくと動いている。



どうしようかと思ったが、とりあえず申請を済ませるため先輩に近づくと、「あ、あのっ」と小さく反応があった。


「どうしました? もし手伝えることががあれば言って下さい!」



どうやら先輩のペースを乱してしまったようだ。

申し訳無くなってしまったので、いつもより士気高めに応じる。


先輩は相変わらず目線を下に向けているが、ややあってか細い声で続けた。


「明屋後輩」


「はい!」


「とりあえず、外で待っててくれる……?」


「あ、はい」



名誉挽回、失敗。


なんだか口調も大人しくなってしまった先輩が怖かったのて、そそくさとその場を後にした。


多目的コーナーを出て、校舎の正面玄関へ向かう。

そこで、言われた通りおとなしく先輩が来るのを待つことにした。

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オカルト先輩と孤立世界 みずとは @tuisuke

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