あなたのことが大嫌い【街の灯×五月雨に光る太陽×土砂降り】

 その日も街は雨だった。それもとっておきの土砂降り。

 もちろん、探偵は当然のように、びしょ濡れだった。

「あーもう、こんな大雨になるなんて…。

 ぁ、助手くん!僕も傘に入れてよー」


「こっちに来ないでください。服が濡れます」

「もー!冷たいなぁ。僕、風邪ひいちゃうよ」

「それは困りますね」と彼女は折り畳み傘を投げて寄越す。


「おっとっと…!ありがとね」

 ふにゃあと微笑む彼を見て、彼女は顔をしかめた。

「どうして、そんなにいつもヘラヘラしているんですか…」

 怒りに満ちた彼女の言葉を雨は掻き消していく。

「依頼人からも、警察からも、犯人からも…。

 みんなからあんなにバカにされてるのに…。

 どうして、そんなに平気な顔をしてられるんですか…」

 土砂降りの中を怒りに任せ、ズンズン進む。しかし、地面は石畳。

「待って、助手くん!そんなに急ぐと…」


 彼女の靴が宙を舞った。


 雲に覆われた空は暗く、止む気配は無い。降りしきる雨が、尻もちをついた彼女をただただ濡らす。

「大丈夫?」

 探偵は手を差し出して、ふにゃっと笑った。

「みんなが馬鹿にしてたって、君は分かっていてくれるだろ?」

 びしょ濡れ山高帽子の下の澄んだ目は、真っすぐ彼女を見つめていた。

「リトルトランプには花売り娘がいれば、充分なのさ」


 彼女は再び、顔をしかめると彼の手をとる。

「こんな頼りないチャップリンはお断りです」


 いつの間にやら、雨は止み、雲の裏地が鈍く輝く。ようやく、5月の花が開きそうだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嫌よ嫌よ嫌なのよ おくとりょう @n8osoeuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説