おさらい

 四月四日 月曜日 十五時十五分――


 大田原はメモ帳を広げながら、大きな独り言を続けた。


 二月二十七日、土曜日――

 朝八時から八時十分の間に、ゴミ出しをしていた佐々木良子の家から鞄の中から財布が盗まれた。金額は不明。本人の記憶によると一万円はなかったとのこと。その他クレジットカードとポイントカードなど。鍵は施錠されていなかった。ゲソ痕、指紋ともに不審なものは発見されず。なお、佐々木良子は家事代行サービスの利用はしたことがなかった。


 立花恵里のアリバイ。土曜日は朝八時から十二時まで染倉家で家事代行中。



 三月三日、水曜日――

 朝九時から九時半の間に、車で孫を迎えに行っていた猪瀬夫妻の家から十万円が入っていたご祝儀袋と貴金属が紛失していた。鍵は施錠されていたが、庭と通じる窓ガラスが割れていた。ゲソ痕、指紋ともに不審なものは発見されず。なお、猪瀬夫妻は毎週月曜日に家事代行サービスを利用。水曜日であったが、ひな祭りのため家事代行サービスを利用。

 家事代行サービスの立花恵里は毎週月曜日の午前中、猪瀬家を出入りしていた。


 十二時に、立花恵里の入電により、立川昭三宅の電話台の現金五万円が盗まれていたことが発覚。玄関の鍵は施錠されていたが、二階の窓の鍵は開いていた。立川昭三は在宅であった。居空き。ゲソ痕、指紋ともに不審なものは発見されず。なお、立川昭三は毎週火曜日と金曜日に家事代行サービスを利用。

 家事代行サービスの立花恵里は毎週火曜日と金曜日の十八時から二時間、通っていた。


 立花恵里のアリバイ。十時にちらし寿司を受け取っているのを確認。電車を乗り継いで、十一時三十分に猪瀬夫婦宅に到着。休憩なしで一時間掛かる道のりであり、九時に、例えば十分ほどの犯行に及んで、ちらし寿司を受け取るのは不可能とみられる。



 三月十六日、火曜日――

 十時から十一時の間に、娘と出かけていた上田洋子宅からダイヤの指輪が盗まれた。ドアはピッキングか鍵で開錠されており、室内は荒らされていた。指紋は不審なものは発見されなかったが、玄関には犯人のものとみられるゲソ痕があり、鑑識によれば二十七センチのスニーカーであり、男性のものとみられている。なお、上田洋子は家事代行サービスの利用はしたことがなかった。


 立花恵里のアリバイ。火曜日は朝八時から十二時まで染倉家で家事代行中。



 三月二十五日、木曜日――

 十六時半から十六時四十五分の間に、セキュリティシステムが作動。警備員が駆け付ける。その後、井口季実子宅の箪笥から現金百万円が盗まれていたことが発覚。室内に荒らされた様子はなく、ゲソ痕も指紋も不審なものはなかった。なお、井口季実子は毎週月曜日に家事代行サービスを利用。

 家事代行サービスの立花恵里は毎週月曜日の十二時から二時間、通っていた。


 立花恵里のアリバイ。木曜日は十四時から十七時まで飯島家で家事代行中。



 四月三日、日曜日――

 十三時から十四時半の間に、室内が激しく荒らされる。盗まれたものはなかったが、飼い猫のアポロが失踪中。アポロは、三月二十六日にも一度失踪している。ゲソ痕も指紋も不審なものはなかった。なお、飯島家は毎週日曜日以外は家事代行サービスを利用。

 家事代行サービスの立花恵里は毎週火曜日、木曜日、土曜日の十四時から十七時で通っている。また、同じく家事代行サービスの折原玲子が毎週月曜日、水曜日、金曜日の十四時から十七時で通っており、家人いわく延長することもしばしばであるという。


 立花恵里のアリバイ。日曜日は仕事が休みで、一日中家にいたと家族が証言。


「とまあ、俺は立花恵里が怪しいと思うんだが、上田洋子の件では、男ものらしきゲソ痕が出ていることと、飯島家の事件以外はすべてアリバイがある」

 大田原は壁に向かって独り言を続ける。

「やっぱり素直に空き巣で地道に怪しい人物の聞き込みするしかないのか」


 安賀多は唸る。

「うーん。こうなると、本気で折原玲子のアリバイがない。いや、飯島家の日に限って言えば、俺と家からビデオ通話している。やっぱり、行きずりの犯行じゃないか」


「ちょっと待て、牧瀬だ」

 その時、大田原の携帯に通知が来た。携帯電話を大田原は耳にあてる。

「もしもし。おう、どうした」

 うん、うん、と短く相槌を打っている大田原が突然立ち上がる。

「なに! 本当か。よし、分かった。すぐに行く」


 電話を切ると、大田原が財布から二千円を出してカウンターに置いた。

「上田洋子のダイヤの指輪が質屋に流れてきた。持ち込んだ男は、田山浩明たやま ひろあき、三十二歳、無職。上田洋子の別れた旦那だ」

「旦那か」

「今、署で詳しく話を聞いてるみたいだが、合鍵を使って入ったみたいだな。金に困って別れた女房の家に入るってどういう了見だ……」

「合鍵を使ってるということは、他の空き巣事件とは関係ないのか?」

「とりあえずは否認しているらしい。行ってくる」


 大田原は、ドタバタと店内を走って出て行った。


「そうかー」


 真琴は最後にとっておいたプリンをすくいながら呟いた。

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