第1話 すべての始まり
人が下した決定も、果たして神の御意思と呼べるのだろうか。
すべてを動かしたのは、1枚の羊皮紙だった。
フロレンスは今朝、宮廷の配達人から手渡された手紙に愕然と目を通す。
本来、王立騎士団の頂点に立つ『
王家の紋章を押した
王国テネーレの王都に拠点を置き、人々の治安を護り、発生した事件を解決する王立騎士団。しかし騎士たちを統率する立場の総轄長が3ヶ月前に突然辞任し、空席となってしまった。おかげで総轄長本人の決裁や意見を必要とする書類の数々がたまり通しで、次位にある補佐官のフロレンスが中身を確認したり草案を練ったりして
新しい総轄長決定の知らせが来るのが先か、それとも楽に人を窒息させられそうな量の処理待ち書類が雪崩を起こすのが先か。やきもきしていた頃にようやく内示が来てフロレンスは安堵した。
心が躍ったのは封を開ける瞬間だけ。たった数行の文面を読むなり、フロレンスは金茶の髪をぐしゃりと掻いた。指の間からさらさらと零れる。
「……ふっざけんな……!」
思わず漏れた罵倒は、存外大きかった。怒りに任せて羊皮紙を床に叩きつける。
3ヶ月かけて宮廷が決定した、次期総轄長の指名。
そこにフロレンスの名はなく、ただ修道女と記されていた。
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