205話 離脱者の行方

 ※事前告知

 ここまで毎日投稿を続けていましたが、10/31・11/1はお休みを頂きます。

 ワクチン2回目なのでおそらくダウンしていると思われるからです。もし元気なら通常通り上げると思いますので、把握お願いします。




 小田原城 北条氏政


 1567年冬


「義氏の様子は如何か?」

「現在鎌倉に用意した屋敷にて、御所の完成を心待ちにされております」

「そうか。鎌倉に閉じ込めることに関しては何も不満を漏らしておらぬのだな?」

「現状はそのようなことを申されたとは聞いておりません」


 政景に義氏に関わる全てのことを任せてある。互いの要望や交渉も全て政景を通すのだ。

 話が万が一にも掛け違えると不審を抱かれかねぬからな。


「それにしても義氏様をこちらに抱え込むことで、関東に根を張る者らを黙らせてしまうとは、よく考えられましたな」

「幻庵に助けてもらったあの地下牢でずっと考えていた。如何にすればこの地を落ち着いて治められるかとな」


 長綱は関東の動乱が収まると同時に名を幻庵と改めた。そして子机城を次子綱重に任せると、小田原城へと入り私の相談役として側にいてくれているのだ。


「しかし関宿までも手放されるとは」

「北条が鎌倉公方を支えると誓書を書いたからな。困窮すれば手を貸すし、面倒ごとが起きれば、事の沈静のために兵を出す」

「まるで義氏様の家臣のようにございます」

「おかげで関東一帯の平穏が守られたのだ。上野と龍王丸を手放したおかげで武蔵の全地域も手中に収めることが出来た。北関東の大名らともある程度の信頼関係は築けている」


 関東同盟と呼ばれるそれは、此度の父上の討伐に手を貸した者らで組む同盟である。

 関東管領の関東介入を防ぐために、以後10年の軍事侵攻を禁じ協力関係を築くことで締結した。しかしあの動乱の際に父上に従った結城・小田・小山は真っ先に侵攻の対象となり滅んでいる。

 小田と小山は里見領へと逃れ、結城は上野へと逃げ込んだと聞いているが追っ手を出してはいない。そこまでせずとも、あの者らが関東の地で大名として名を上げることは無いのだ。


「兄上はこれ以上の拡張を行わないということでしょうか?」

「今はな。関東は長く続いた公方と関東管領の戦で疲弊している。それに加えて我ら北条の御家騒動である。一度しっかりと内政に打ち込む時期が必要であろう。おそらく敵対していくこととなるであろう今川とも3年の猶予があるのだ。まずは国力をあげることを考えねば。それに10年後、他の大名らが敵対行動をとればこちらも行動を起こさねばならぬが」

「なるほど・・・」


 氏邦は藤田の名を捨て、北条と改めて名乗り直している。すでにあの家は裏切り者として粛正済みであり、その名を私の弟が継承することは許されぬ事。


「兄上、少しよろしいでしょうか」


 氏規が遠慮がちに手を挙げた。


「どうしたのだ」

「実は伊豆にて水軍を整えている康英より気になる報せがありました」

「気になる・・・、どういったものである」

「あの御家騒動のおり、比較的被害の少なかった伊豆方面でも父上に同調する者が出ていたそうなのです」

「それは真の話なのか?」

「はい。ですが特にこれとった行動を起こしたわけではなく、また兄上に反旗を翻すような行動をとったわけでもない。ということで大きな問題にはならなかったようなのです」


 私が地下牢より救い出された時に、康英が報告してこなかったのは特に行動を起こさなかったために判明が遅れたということであろうか?

 しかしその報せに何がある?今ですら私のやり方に不満を持っている者は少なからずいるが、その者らを全員粛正していては北条は崩壊しかねぬ。

 それでいうのであれば、伊豆で父上の賛同した者らとて同じである。罪には問わず、不問とする代わりに以後懸命に励め、と言うしかない。


「それが関東同盟の締結後、伊豆水軍を離脱する者が多数いるようで」

「・・・何やら嫌な予感がするな。その者らがどうするかなど聞いておらぬのだな?」

「はい。しかしみな揃って船を出すのだそうです」

「それは北条が所有する船を許可無く持ち出しているということで良いのだな?」

「はい。現在伊豆水軍が総出でその行方を追っている最中にございます」


 海へと逃げられれば探し出すのは非常に困難。

 さらにその者らはこの周辺の海域を知り尽くしており、陸で生きてきた我らが探し出すのは至難の技である。


「これ以上離脱者は許さぬと伝えよ。また今川への警戒は緩め、空いた人員をその者らの捜索に当たらせよ」

「かしこまりました」


 どこかの家に仕官し直したのであればまだよい。それも私が不甲斐ないからであると納得が出来る部分もある。

 しかしそうで無かった場合。そう、例えば海賊にでもなってこの辺りを通る船を襲いだした日には、北条が責任をとらねばならぬ事態になりかねぬ。

 特に今川は商人保護を進める一色がいるのだ。万が一があれば3年とは言わず、すぐにでも戦端が開かれかねない。

 まだ復興に注力すべきとき。それだけは避けねばならぬ。


「今川にも遣いを出す。もし被害に遭うことがあっても、それは北条の意思ではないこと。またもし海賊を捕縛し、その者が北条に関係のある者であるならば引き渡しを要求する旨を氏真殿に伝えよ」

「かしこまりました」


 政繁が頷き、私が書状を書き終わるのを待つということで解散となった。

 しかしこれは危ういこととなってしまった。

 今川の信濃支配は順調だと聞いている。信濃の元武田に従っていた領主らも、氏真殿の元で上手くやれている、と。

 今の状況で戦えば負けずとも、被害は大きくなるであろう。それはなんとしても避けねば。

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