第79話 版図拡大のとき
躑躅ヶ崎館 武田信玄
1563年春
「御屋形様、みな集まりました」
「うむ、良く集まってくれた。いきなりではあるがこれより軍議を行う」
みな既に話を聞いていたのであろう。誰も驚くことなく、ワシの話を聞き入っている。ワシの左後ろには信友が、目の前には義信と勝頼を中心に此度呼ばれた家臣らがワシを見ておる。
もちろんではあるが、養子にいれた息子らも控えている。
「京の公方様より命が下った。今美濃が荒れているのはみな知っていると思うが、小里城に土岐頼芸とその子頼次が入ったそうだ。小里家を手伝い美濃に安寧をもたらすようにとのことである」
「父上はそのために武田の民を使い捨てられるおつもりですか」
「最後まで話を聞くのだ、義信。ワシも他人のために身を削ることは望まぬ。よって武田のために美濃へと侵攻することを決めた」
するとこの間にいる家臣らがざわめき立った。斎藤家が美濃を押さえていたときは手を出せなかった。美濃へ行くためには厳しい道を越えていく必要がある。
そして山を避けるために今川領を進むこともよしとしておらんかった。
しかし状況が変わる。美濃を押さえていた斎藤が崩れ、勢力は相当に小さくなった。再度、誰かに統一される前に武田の領を増やすだけ増やす好機である。
「ワシは此度の総大将を勝頼に任せたいと思っている」
「私にございますか!?」
「そうです!未だ初陣を果たしていない勝頼では心許ない。そのお役目、私が」
「いや、勝頼でいく。側に信友と信君をおくつもりだ。みなはどう思うか」
「父上、私には荷が重うございます。であるならば兄上にお任せするほうが間違いありませぬ」
何と頼りないことを言うのか。義信は初陣から大将に申し出たというのに。
しかし初陣を飾るのも、大将を初めて任されるのも誰もが通る道である。
相手がワシらと同等、またはそれ以上だった場合に畏れるのは仕方が無い。しかし此度の戦、相手取るのは協力もで来ておらん小勢力ばかり。
そこまで萎縮してはこの先些か不安になるものだな。
「勝頼!ワシはそなたにも兄である義信のように勇ましくあって欲しいと思っているのだ!ワシの期待に応えよ」
「・・・っ、かしこまりました。父の期待に添えるよう懸命に務めまする」
「私もしっかりと勝頼様をお支えいたしましょう」
「同じく」
信友、信君がワシからの命を受けたことで美濃侵攻の決めるべき事は決まった。
そして義信であるが、美濃に行かせぬからと遊ばせるわけにはいかぬ。
「義信、そなたは勝頼に替わり高遠城へと入り、駿河の動向を監視せよ。万が一にも井伊谷城を攻めようと動けば井伊直盛の援軍に動け」
「かしこまりました!」
「虎昌、義信をしかと補佐するようにな」
「はっ」
これでどちらにも対応できよう。勝頼に任せる美濃攻略は些か不安ではあるが、負けることは想定しておらぬ。
勝つであろうが、その勝ち方が問題よ。家臣らに見くびられては困るでな。
そして井伊谷城へ向かわせる義信に関して言えばそこまで心配はしておらん。傅役であった
「御屋形様は如何されますか?」
「ワシは北信濃を注視する。ワシに領地を追われた北信濃の国人衆がまたも長尾に助けを求めておる。此度はあのような無様な戦は出来ぬからな」
「お供いたします!」
真田幸隆を筆頭に北信濃でワシについた国人衆の者らが声を上げた。あやつらもワシが支配を諦めれば立場を追われるで必死よな。
ワシも必死よ。折角山ではない土地を手に入れたのだ。手放すことなど出来ぬよ。
「もしまた長尾と戦が起これば、北条にも挙兵するよう求めるつもりだ。いくら政虎といえど、2つの戦線を持っては本領を発揮できぬであろう。あわよくば越後まで攻め入ってやろうぞ」
「必ずや御屋形様のお力になってみせましょう」
従兄弟である
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