Side-B 13-*
* * *
彼は時計職人として、
店の奥に作業机がある。必要な場合は貸し出しに協力すること、という形ばかりの条件つきで王宮から直々に譲り受けた村の図書館の小さな辞書が立ててあり、少し色褪せた色鉛筆の絵が正面の壁に貼ってある。
製作の合間に修理をする。出張修理に行くこともある。修理に使う道具を入れている革の袋には赤いリボンが結んである。
彼女は王宮で働いている。
部屋の机にランプが置いてある。一度も使われておらず、いつもきれいに磨かれている。
一番上の引き出しに紙切れが一枚入っている。大きな文字がふたつ書いてある。図書館の司書の女性が以前返してくれたものだ。
彼女も空を見上げる。眼鏡をはずして、遠い宇宙を見ている。
「トモイへ
昨日久しぶりにおまえの日記を読み返した。
懐かしくて笑っちまった。
あいつと結婚することを最初に決めたとき、トモイもその場にいたんだったよな。俺がトモイとばかり一緒にいたから、あいつが焼きもちをやいて大泣きした。だから俺が大声で俺と結婚しろとあいつに言った――ごていねいに詳しく書いてくれてありがとよ。
あの頃はそのうちあいつの気が変わるだろうと思ってた。
あんな子供の頃の約束が、まさか本当になるなんてな。
明日、俺はあいつと結婚する。あいつが花は百本つんでこいと言ってるので、俺は二百本つんでやるつもりだ。
今の俺たちをおまえに見せたいよ。
俺はすごく幸せだ。
トモイも幸せであることを願ってる。
ある星の食料品店のおやじより」
了
宇宙譚 高嶋柚 @yuzutakashima
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