第113話 歴戦
【
「ギルド本部で会って以来か……」
オーバス様は目を瞑り、精神を集中させる。高濃度の魔力を込められて、火の粉を出しながら赤黒く光る槍が縦になぞると、薄皮ように魔法障壁は裂けていった。
シェイル様は本隊を食い止めるために、大きな【
「お前たちが戦うのは、エリスティーナ様のためか」
ミリィ様の治療が終わり、再び体勢を立て直そうかという時、オーバス様に図星を突かれた御三方は、動揺を隠すように無表情を貫いた。
「脱走したエリスティーナ様を追いかける際にも、一級の矢が飛んできた。いま矢を放っている者は、おそらくあの時の弓使いと同じ人間だろう。エリスティーナ様も、近くにいるのか」
オーバス様は僕の居る方向に顔を向けているから、姿まで捉えることは出来ないだろうが、位置は気付かれているだろう。こういった質問をしてくるあたり、ジェームスから僕らの事も、呪いの存在も聞かされているわけではないようだった。
「……そうか」
オーバス様は何も言わない御三方に小さく呟いた。エリス様の居場所を教えても、こちらに良いことは一つもない。かと言って嘘をついても見透かされる気がして、御三方は否定も肯定もしない。
「【
よそ見をしている隙を突いて、ミリィ様はオーバス様に氷の槍を発射した。オーバス様が長槍の石突で地面をトンと叩くと、纏った覇気が壁となって、ミリィ様の方を見ないまま氷の槍は砕けた。
「【
シェイル様は盾に高濃度の魔力を注ぎ込み、圧縮した力を突き出してオーバス様にぶつけた。
流石のオーバス様もシェイル様が突進してくるとは思っていなかったのだろう。咄嗟に長槍を振るが、シェイル様が持つ膨大な防御力を変換した圧力を、受け止め切るには構えが足りず、どんな攻撃にもその場を動かずにいたオーバス様の体がついに吹っ飛とんだ。
レイシア様は【
「【
オーバス様を包み込んだ蔦は、締め上げるようにとぐろを巻いて、頭を空に尖らせる。レイシア様が指を差して唱えると、空に現れた黒い雲から、蔦の角に向かって雷が落ちた。
焼け焦げた蔦が、内側から爆発するように飛び散る。煙から現れたバーベル様は、全くもって無傷だった。
「【
縦に振った長槍が、陸が割れるかの如く、大きな切れ目を地面に作る。シェイル様は、ミリィ様とレイシア様を守るように、盾で斬撃を凌ぐ。受け止め切れなかった斬撃は、シェイル様の後ろにあった【
ロイド様に切り付けられた時は、10数回と受けても切れる事はなかったのに。一撃で紙のように切れる光景を見ると、研ぎ澄まされたオーバス様の一回の斬撃は、切れ味だけならロイド様の10倍以上の力があると分かる。
僕は【
「【
ミリィ様が出現させた天にも登る炎の柱は、僕の【
樹海から騎士団を追い払うために使った時と、同じぐらいの威力に見えるから、手加減をしているのは分かるけど、炎のに包まれたオーバス様の命が心配になる。
が、オーバス様が一振りすると、周りにある木がなぎ倒され、炎の柱は突風にかき消された。やはり無傷。心配したのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、何事も無かったように、そこに居る。
オーバス様は音を置き去りにするほどの速さで走り、シェイル様たちの方へ近づいていく。僕は動きを止めるために、【
オーバス様はシェイル様の眼前に立つ。
「避けて!」
頭上に槍を構える動作は、明らかに今までの一撃よりも溜めが長い。受け止め切れるか分からないと、シェイル様は叫ぶ。
後ろにいるミリィ様とレイシア様が逃げようとした時、胃袋を握り潰されたかのような恐怖心が、生暖かい風に乗って広がる。オーバス様が【
逃げる時間を逸して避けられないと察したシェイル様は、オーバス様の一撃を受け止める事に集中するため、展開させていた【
僕は一撃を阻止する為に7本の矢を放ったが、オーバス様は端から避けるつもりが無かったのか、全ての矢が鎧の隙間から突き刺さっても体勢を変える事なく、強烈な力を振り下ろした。
辺りが真っ白になるくらいの激しい光が散る。圧縮された時間が刹那の無音を生んだあと、盾と矛の間に生まれた衝突は、空間を歪ませながら衝撃波を運んで、近くにいたミリィ様とレイシア様はもちろん、少し遠くにいた僕とエリス様まで、突風で体を飛ばされた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「は、はい! それよりも、今のは……」
近くに転がったエリス様は、怪我もしていない様子だった。
安否を確認する為に【
150メートルほど遠くに飛ばされたシェイル様は、盾を砕かれ、気を失った状態で倒れている。
オーバス様は自分に刺さった矢を引き抜きながら、ミリィ様たちの元へ歩いていく。
僕は形振り構わず、今度はもう、一切の手加減もせずに、あらゆるスキルで矢を放ち続けた。もはやそれでオーバス様が重症を負ったとしても、知ったことじゃない。一歩ずつ確実にレイシア様に近づいていく、その足を止めなければ、今度はお二人が危ういのだから、僕はもう、冷静になってなどいられなかった。
オーバス様に影が落ちる。上を向けば、今度は直径50メートルはあろうかという岩が空に出現していた。全ての矢が槍で撃ち落とされている時間、治療を終えたレイシア様は持てる魔力を使って【
「【
ミリィ様が目標に向かって指を差すと、青い魔法陣が空に浮かび上がり、大量の水が出て滝となった激流は巨大な岩を押す。
1秒間に8本、9本、10本、11本、12本と矢継ぎの速さは限界を超えて、オーバス様が足を止めて対処しなければ受け切れない連射速度にまで上がる。僕は摩擦で切れるたびに、矢を摘む指を変え、決して避ける間を与えないよう放ち続けた。
「【
オーバス様の大きな声が響く。地面を舐めるように引き摺った長槍は、そのまま一回転して、虹のような半円に広がっていく黒い斬撃を生む。オーバス様に向かっていた矢は全て吹き飛び、頭上にあった岩は砕けた。
「【
だが、岩の上から落ちて来ていた水は、岩を盾にして衝撃を逃れた。レイシア様はすかさず魔法を唱え、水の重力を操作した。落ちる速さを加速させ、重さの増した強烈な滝が何千トンという圧力となって、オーバス様に叩きつけられた。
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