第112話 交戦
「我が騎士団に敵対する行為。そう捉えて良いな。シェイルよ」
「オ、オーバス様……あの、これは……」
壁に塞き止められた騎士たちは、馬から放り投げ出され、多少なりとも怪我を負った。オーバス様の後ろでは、骨が折れた人や馬に、回復魔法をかける魔法使いたちの姿がある。
これは間違いなく騎士団に対する敵対行動。わかりきった事を、改めて聞かれるから、なおさらオーバス様の言葉が怖くなる。
シェイル様は、呼吸を乱して一歩下がった。
「オーバス様!」
「オーバス様! すぐにそちらへ向かいます!」
魔法障壁で道を遮断された騎士たちは、剣スキルや魔法を使って打ち破ろうとしたが、傷一つ付かず。少人数の騎士は、真っ直ぐ横に伸びる障壁の端を探して、馬を捨てて森の中へと走っていった。
障壁の長さは1キロ半ほど、迂回した騎士も数分すれば、こちら側に合流する。そうなれば厄介だ。オーバス様以外に戦力的な脅威は無いけど、負傷者を出さないようにという制約があるから、居られるだけで凄く邪魔になる。
早々に決着をつける必要があった。
「何も言う必要はない。己の信じる道に、行手を阻む者が居るならば、全力で戦い相手を退けさせる他、前に進む手立てはない」
「オーバス様……」
オーバス様はどこまで事情を知っているんだろう。ジェームスは少しくらい僕らの話をしただろうか。含みのある口調に、僕らの決心は揺らぎそうになる。
「最後に問おう、シェイル。お前は何のために戦う」
「……友のため」
「そうか……」
オーバス様の体の傾きを見て、踏み込んでくるのが分かったので、僕は鎧の隙間目掛けて矢を放った。しかし、僕の牽制も空く、オーバス様は当然のように躱して、シェイル様に長槍を振った。
シェイル様は自惚れる事なく両手でしっかりと盾を持って、オーバス様の攻撃を受け止める。少し離れた僕の位置ですら、風を切る音は棘のように耳を突いた。耳鳴りが過ぎて、突風が遅れて周りの草木を揺らした。
「【
シェイル様が自分の身を守るためだけの障壁を体に纏わせると、すぐ後にミリィ様の【
「【
構える時間も、力を溜める動作もなく、目にも見えない槍の動きで、巨大な氷はあっさりと両断され、粉々に砕け散った。
間を与えないよう、レイシア様はすかさず【
「【
オーバス様が跳んで回転しながら槍を一周させると、三層の輪が刃となって広がり蔦を一掃し、近くにいたシェイル様は盾に身を隠して防いだ。
斬撃の波間に目掛け、逆風に負けないよう【
「【
オーバス様は、また跳びながら一回転すると、無数の突きが毬栗のように伸びて、僕の矢を悉く折った。
ミリィ様の【
「【
圧縮されて白い影となった空気がオーバス様を包み込み、それが一気に全方向に広がる。上から落ちて来ていた水は、風に吹っ飛ばされて離散し、通り雨を降らせた。
オーバス様の槍は、点でも線でも面でも、自由自在に形を変えて、僕らの全てに対処してくる。せめて体勢でも崩してくれていれば、もっと攻め立てて後手を踏ませる事も出来るだろうけど、今のオーバス様は何事も無かったかのように立つ。
「うっ……!?」
隣で身を潜めていたエリス様が、絶叫を隠すために口を手で押さえている。僕の目にも、こちらをじっと睨むオーバス様が、手の届く範囲に見えているから、叫び上がりそうになる気持ちは分かる。現に最初にやられた時、僕は叫んだ。元より居場所はバレていたかも知れないが、まだ敵対的な行動をしていなかっただけ、見逃されていた僕らにも、オーバス様は【
木陰に隠れているからこそ、一人二人のオーバス様が幻覚に現れるだけだが、真正面で相対する者には、僕らとは違った恐ろしい何かが見えているのか、シェイル様は盾を強く握って、雄叫びを上げて、震える体に喝を入れた。
威圧の影響はやっぱり【
オーバス様の姿が道から消える。オーバス様は遠距離攻撃してくる者の中で、最も火力を持つ者を見定め、ミリィ様の方へ駆け寄った。
僕は多少の負傷も与える覚悟で、それなりの力を込めて【
さらに【
「シェイル!」
「分かってます! 【
半球体の障壁はオーバス様を包み込んだ。シェイル様の障壁魔法は、外からの力だけでは無く、内からの力も遮断して、外へ逃さないようにする。敵を囲ってしまえば、体の良い拘束魔法にもなる。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「ミリィ!」
口から血を吐くミリィ様に、【
それは、ミリィ様の治療が終わるのを、わざわざ待っているみたいだった。
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