1.2.3

 私は、2つある。

 元気な自分と、病んでる自分。その二つは、まるで四季のように、日付のようにコロコロと目まぐるしく変わっていく。

 そして、寿命をすり減らしていく。




 「朝だから、起きなさい」

 お母さんの声だ。今日も、閉じようとする瞼を必死に閉じまいとしながら起き上がる。

 今日の自分は………1だ。

 私は2つの自分に、それぞれ番号をつけている。元気な時は1。病んでる時は2。

 なぜ番号かというと、いつでも増えていいようにだ。まあ、増えることなんてないけど。

 1階に降りていく。今日の朝ごはんはお餅だ。

 すでに焼かれて、醤油と一緒に置いてある。私は毎日、パンかお餅を音楽を聴きながら食べる。

 今日は、アップテンポの、少しラップ気味の歌を聴こう。もちろん、聴く曲もその時の気分次第だ。 

 朝ごはんを食べ、食器を台所に持っていき、歯を磨いて制服に着替える。

 当然のように、音楽を聴きながら。

 家を出る。私はいつも自転車で高校に投稿している。今日は一段と寒い。特に上着などを着てるまさわけでもないので、風が容赦なく切り裂くように肌を撫でていく。

 家から学校まで30分くらい。いつも鼻歌を歌ったり、次書く小説の内容を考えながら自転車を走らせる。

 今日もSHRは長かった。いつものように友達に連れられて、ロッカーに行って時間ギリギリになりながら教室に戻る。

 これは、1じゃなく2の自分ならついてなんかいかない。そもそも、2の時はほとんど人と関われないのだから。

 そして、何事もないように時は流れ、部活になり、家に帰宅する。家に帰って、お風呂に入り、ご飯を食べる。

 ご飯を食べながら、家族と今日あったことを話す。授業がどうとか、部活がどうとか、くだらない話を。

 またこれも、2の時はうまくいかない。学校同様、ほとんど話さずに、2階の自分の部屋に閉じこもる。

 この、1と2は2、3日おきに交互にやってくる。そして、それを繰り返すごとに寿命は減る。

 もちろん、周りの人よりもずっと早く。私の体感だと、大人になるのが先か、死ぬのが先かだろう。そんなことを思いながら、今日も眠りにつく。



 目が覚めた。というより、夢に近いかもしれない。感覚や意識ははっきりとしているのに、身体や声が大人だ。

 察しもつくだろうが、将来の自分を見ているっぽい。ちょうど、20歳くらいだろう。ちゃんとなりたかった職業に就いている。安心したと同時に、寂しくもあった。何故かというと、この日は丁度1から2に切り替わる日だったので、「大人になりたくない」という自分の気持ちがあったからだ。

 そんなことをぼんやり考えているうちに、その映像は消えた。



 今日は、いきなり目が覚めた。携帯が起動するように、パッと。身体が重い。

 そうか、今日は2の日か。重い身体を引きずるようにして、1の日と同じようにご飯を食べたり、着替えたりして学校に行く。

 2の日は、何も考えないで無気力なただ自転車を走らせる。

 学校についても、何もしない。

 ただその場に存在するだけ。誰かに話しかけるわけでもないし、何かをするわけでもない。辛くなったら、保健室に行くだけ。

 そこで、先生と話すだけ。あとは、寝てる。授業中は。2の日は、極端に学校にきたくない。

 でも、親が休ませてくれないので、仕方なくきている。どうせ授業にあまり出ないのだから、いかなくても変わらないのに。

 結局、朝よりも少し辛くなったまま、家に帰る。相変わらず、家でも学校でも、ほとんど話すことなく。



 そんな日を何日も、何ヶ月も何年も繰り返して、何かを成し遂げることもなく、寿命だけをすり減らして生きた。


 何事もなく時が流れ、もう卒業の日になった。正直、もう寿命はないに等しい。何故わかるかというと言われてもはっきりとは答えられない。長年の経験がそう語っているのだろう。

 周りのクラスメートは涙を流したり、笑ったりしている。まあ、そうだろうなと納得した。最後の日は、いつもこんな感じだった。3年前も、6年前も。実を言うと、今日の自分は"3"だった。3とは何かというと、もう、全てを諦めて人形のような状態だ。 

 常に無気力で、心は空っぽ。寿命がなくなるに連れて、3の状態が多くなり、やがて3だけになった。

 寿命がもういくばくもないと思ったのも、3の日が増えたことに気づいてからだろう。

 今日も時の流れに身を任せ、3年間の学校生活に幕を閉じた。

 あれから3年が経ち、21歳になった。もう、動くこともままならない。

 いつかみた夢が現実かわからない映像は、多分自分の心のどこかにあった願望だろう。もし、1.2.3がなければ、こうなるはずだった、こうなりたかったという願い。

 自分は後数分で死ぬ自覚はある。というか、数分で死ぬ。

 もう、1〜3のどれでも無くなった。

 そろそろ、カウントダウンが始まる。カウントダウンは昔から嫌いだった。死ぬまでの日数を数えているようで。

 5.4………。

 始まった。もう、後悔などない。せめて言うとすれば、周りの人には、自分のようになってほしくはなかった。

 まあ、誰もが思いそうなことでつまらないが。  

 3.2.1……。

 ああ、もう終わる。長いようで短かった。色々あったような、なかったような。



 そして、終わりが来た。



 0………。

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Lonely world あおぞら @bluesky0308

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