10話.[俺が悪いからな]
「いつまで寝てんだ」
「……いいでしょー、暖かいのが悪い――寒いっ!」
「じゃあ起きた方がいいな」
最近は何故か早く起こされるようになっていた。
智くんがいないからってなんでもしていいわけではないというのに。
「菜月、おはよう」
「あれ、最近はいっぱい来ているけど大丈夫なの?」
「うん、朔とふたりきりにさせておく方が危険だからね」
やだなー、私達は別に変な関係というわけでもないのに。
キスだってしたことがないんだからそれ以上なんてありえない。
人の心配をする前にまた逃げられないよう彼女さんと多く一緒にいるべきだ。
「人を危険人物扱いしやがって」
「朔のせいでまた菜月に出ていかれても嫌だからです」
「俺のせいじゃ、……俺のせいか」
すっかりとしょげてしまった朔くん。
「あんまり気にしなくていいよ、私が言っていなかったのも悪かったんだし」
「いや俺が悪いからな……」
ああ、これは回復まで時間がかかりそうだ。
その原因を作った智くんはにこにこと笑みを浮かべてそれを見ているだけ。
「大体ね、菜月にだけ異常に冷たかったのもよくないと思うんだ」
「ああ……」
「菜月もよく言い返さずに我慢したよ、いやもう本当に」
「ああ、智の言う通りだ、俺は菜月にとって悪い存在だったよな……」
「いやまあそこまでは言わないけどね、菜月は朔のことが大好きだし」
少し言いすぎてしまったことを気にしたのか智くんは出ていってしまった。
残されたのは依然としてダメージを負っている朔くんと、私。
「あんまり気にしないでね」
「でも、うざい、んだろ?」
「あのときはそう感じただけ、いまはもうそんなのないから」
手を握ってにこりと笑う。
朔くんはまだ微妙そうな顔ではあったものの、同じように頷いてくれた。
「腹減ったから飯でも食うか」
「そうだねっ、手伝う――」
「駄目だ、最近は菜月に頼りすぎていたからな」
「おお!」
前なんて手伝おうとしたら冷たい視線で貫いてきていたぐらいなのに。
智くんが少し注意してくれただけでここまで変わるってすごい話だよね。
「朔くんが作ってくれた方が間違いなく美味しいからね」
「違う、菜月は学校生活にだけ集中しておけばいいんだよ」
「えー、どうせなら朔くんのためになにかしてあげたいんだけど」
「いらない、また逃げ出したりしなければそれで十分だ」
そんな動物じゃないんだからさ……。
少し上手いようにいかなかったぐらいで拗ねて出ていったりはしない。
「できたぞ、食え」
「いただきますっ」
うん、美味しい。
ずっとやっていたらどんどん上手になっていくというのはすごい話だ。
だから頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
「あとはまあ、そうして元気なままでいてくれたら十分だ」
「それは大丈夫だよ!」
「ふっ、そうか」
これからもこうして一緒にいられるように頑張ろうと決めた。
大丈夫、両親と智くん、あとは朔くんがいてくれればできるからね。
55作品目 Nora @rianora_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます