後編

 E.A.T.フェイズ、それはバイサズにとって最も真摯に己の罪状と向き合う時間……のはずだった。

「えーっと、これ喰うんですか……?」

 黙々と肉をばらしていく只野の後ろから金本が話しかける。しかし答えを聞くまでもなく自分の中の“獣”がソレを喰らえと呼びかけてくる。ケダモノの因子がソレを“知性あるものの肉”とみなしている証拠だ。

「我々バイサズは定期的に“知性あるものの肉”を内に取り込まねば正気を保てない悲しき化け物なのだ……」

 いつになく真面目なトーンで只野が独り言つ。その後ろ姿に他の者は黙り込んでしまう。

「しかしもっと『これぞ悪!』みたいな方が気分が乗るんだがなぁ……」

 続く言葉に周囲の沈黙の温度が変わる。

「一瞬でも見直して損した……」

 金本の言葉に近江と入椅子も顔を見合わせざるを得ない。正義と悪、どうあがいてもこの男の脳内にはそれしか物差しがないようだ。

「えーと、そもそも上への報告無しに捕食っていいんでしたっけ?」

 近江が遅まきながらも常識人ぶりを発揮する。

「任務であれば部隊長権限が必要となるが、今回は非番時のトラブルでありその場で最も歴の長いものが部隊長として扱われる。なおかつ今回は対象が人間ではないためB.I.N.D.S.の対人保護条項も適応されない。従って私が全てを判断する。」

 只野の口からするするとB.I.N.D.S.内規に関する知識が出てくる。彼は正義バカではあるがバカではないのだ。

「そして私の判断は、喰う、だ。飽食度管理の面からも諸君らにも最低一口は食べてもらう。さあ、さあ!」

 その手に持ったなんかヌメヌメのグチャグチャを差し出しながら皆に迫る只野。その見た目の気持ち悪さとバイサズの本能との間で各人がどうしたかはここでは伏せたい。



「海、大変だったみたいね?」

「オウミ、おつかれ。」

 合宿から戻った翌日、天野とファーレンハイトが話しかけてくる。かたや苦労話が聞きたくてにやにやと、かたやいつも通りに無表情に。どちらも行かなくてよかったという気持ちが少し漏れ出している。

「いやあ、あはは……」

 対する近江は苦笑いで誤魔化すしかない。

「いやあ! 実に充実した合宿であったな! もちろん近江くんもそう思うだろう!」

 遅れて入ってきた只野が大きな声で近江に話しかける。迂闊なことを言ってしまえばまたトラブルが増えると知っての苦笑いだ。気付けば天野とファーレンハイトはさっと距離を取っている。

「そうですね、次は是非隊の全員で行きたいものです。」

 少しでも犠牲者を分散したい近江が天野を睨みつけながら答える。

「よし、早速部隊長に提案しに行こう! 正義は急げだ!」

 数分後、熱弁を振るう只野と苦い顔で対応する永山の熱い舌戦バトルが繰り広げられる事になるが、それはまた別のお話。

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[WoC]正義が征く2 かおりな @kaorina

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