§4 結ばれた後の別れ
二人が次に会ったのは、千宙が高校の入試休みの3月だった。千宙は和葉とのキスが忘れられず、勉強もそこそこで部活にも力が入らなかった。和葉はメールで、話したい事があるからと彼を呼び出していた。
「千宙くん、久し振り!どこかでご飯を食べようか。」
渋谷のセンター街を歩きながら、ランチの食べられそうな店を探した。
「和葉さんから話があるって言うから、俺、気になって。」
「後でゆっくり話すわ。この後、わたしの家に来るでしょ?」と言うと、彼はいきなり無口になっていた。彼の考えている事は、大体想像が着いた。
食事が終わり、彼を連れて家に向かった。食事中や道中は近況を報告し合ったが、彼はそわそわしていて話は弾まなかった。
「わたしの家は2回目だから、慣れているでしょ!」
「いや、やっぱり緊張しますよ!和葉さんと二人だけで、静かだし。」
「わたし、ちょっと着替えてくるから、リラックスして座っていて。それとも、わたしの部屋に来る?」といたずらっぽく言うと、彼は緊張が解けたのも束の間、再び固まってしまった。返事がないので彼を残し、私は2階の自分の部屋に行った。ニットのセーターとショートパンツの部屋着に着替え、冷たい飲み物を持って行くと、彼はそのまま動かずソファーに座っていた。
「君が今何を考えているか、当ててみようか?わたしとエッチしたいと思ってない?」と訊くと、彼は焦って飲み物を口にしていた。
「いいの?」と遠慮がちにつぶやく彼の口を、私の口でふさいだ。そして、彼の手を取って、自分の部屋へと連れて行った。
二人はベッドの中で、和葉は千宙の腕枕の上に頭を置いていた。千宙にとっては初めての経験で、欲求を果たせた満足感と喜びを味わっていた。
「本当に初めてだったんだね!君は、わたしのことをどう思ってるの?」
「好きだから、こうしてできたのが、うれしくて!」
「そうなんだ。好きなのか!前に話してた中学時代の彼女は、どうなるの?再会して好きな子がいなければという話、わたし感動したんだけど、裏切ったことにならないの?」と満足感に浸っている彼に、意地悪な質問をした。
「例えば、何年先か知らないけど、その時にわたしのことがまだ好きで、付き合ってたとしたら、どうするの?誓い合った幼い恋も、終わってしまうのよね!でもまあ、彼女にも恋人がいて、好きにやってる可能性は大か。」
少し言い過ぎたかと思ったが、このまま好きでいられても厄介だと思い、可哀そうだと思ったが彼を問い詰めた。彼はしばらく考えてから、
「それは、ないんじゃないかな。俺が好きでいても、和葉さんはあくまでも遊びなんですよね!高校生のガキを相手に本気になる訳ないし、こんな豪邸に住むお嬢様と貧乏人の家の俺が、釣り合う訳ないですもん。」
彼の言葉を聞いて、自分のわがままな行動が恥ずかしくなった。
「君は分かってたんだね、わたしの気持ちを。悪いとは思いながら、わたしは君を利用してた。実はね、わたしには決められた相手がいて、いずれ結婚することになっているんだ。大学に入っていろんな男の人と付き合ってきたのも、その反発からなんだ。でもね、最初の人は除いてだけど、好きでもない人とはしてないから、千宙くんは二人目なんだ。それだけは信じて!」
私は彼を傷付けないように、言い訳を述べていた。
「結婚相手がいるって話は初耳で驚きましたけど、俺は、初めての相手が和葉さんで良かったと思ってます。好きな人とできて、幸せでした。」
二人は時間の許す限り抱き合い、語り合って過ごした。和葉は4月から留学すると伝えて、さらに千宙を驚かせたが、二人の関係に終止符を打った。和葉は千宙の優しさに乗じて、彼を翻弄していた事を心の中で謝っていた。ただ、自分にとっても彼にとっても、良い思い出となる疑似恋愛には満足していた。千宙も、何の未練もなく、逆にすっきりした気分で彼女を送り出していた。
『すれ違う恋の行方【高校編】』は、ここまでです。千宙と七海それぞれが、異性へのあこがれや体験を通して大人への階段を着実に上りました。ただ、お互いを思う気持ちを心の奥底に秘め、大学生になって再会します。しかし、すれ違いはまだまだ続き、果たして結ばれるのか。『すれ違う恋の行方【大学編】』をご期待ください。
すれ違う恋の行方〈高校編〉 秋夕紀 @Axas-0077
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