最終話 そして、イカイ・ワカリは歌い続ける
第十四話
結婚するために頑張ったロリエルフ、チグサの新製品により、映像の撮影・録画・放送・アーカイブ再生などが、魔石を使って誰にでも簡単にできるプロセスを生み出された。
それにより、撮影、再生や生中継のやり方がずいぶん楽になった。
ちなみに、スタンがいなくてもイカイ・ワカリを別の人が動かせるところまで開発が完了した。
すなわち、スタンでなくてもイカイ・ワカリを動かせるようになる、というおまけまでついた。
声はボイスチェンジャーで変えられるのだ。
もちろん、これでも演技や撮影技術などに個人差が出る。
「道具の性能の違いが結果に影響を与えるものではないことを教えてやる」
などとスタンが言い、いままでの設備での限界を攻めるような動画を作り続けたりもした。
結局、イカイ・ワカリの生放送だけは、トップ・シークレットであり続ける。
スタンが「中の人」であることを知っているのは、当初メンバー以外は、チグサの夫になった元近衛騎士のブルーザだけだ。
ブルーザも、信頼に足る人間だとは思えるものの、慣例にしたがって契約魔術で縛られた。
そして撮影現場に入り、番組が始まると茫然とした。
まさか、密室の中でスカートを履いたスタンが踊っているとは思わなかったのだろう。心中は察せられる。
だが、それも数週間のことだった。
人間は慣れる動物である。
見ていくうちにブルーザも慣れ、問題なくチグサの助手を勤めるようになった。
ついでに、魔道具学校での雑用・庶務などもやるようになり、もう不可欠の存在になっている。
そして、ある日、ついにスタンの代役がイカイ・ワカリをできるかテストすることになった。
まずは録画で見て、不自然でないかどうかチェックする。
演じるのは、なんとスタンの元パーティーメンバーの小柄なシーフ、獣人のミミだった。
スタンと背が全然違うのだが、チグサが開発した機材は、なんと外見も変更できた。 背を伸ばすとか体をスレンダーにする形でのモーションキャプチャーが稼働したのである。
ミミは、普段イカイ・ワカリの腑振り付けをやったり、演技指導をやっているので、動きは完璧だった。
最初のうちはそれでもなんだか落ち着かなかったが、そのうちに台本にも
慣れ、テイク4で完パケ(納品できる状態の完全パッケージ)となった。
放送で使ってみたところ、普段のワカリんとなんか違う、という指摘をしたのは、王子と、視聴者の子供たちだけだった。
さすがは王子、よくイカイ・ワカリを見ている。
また子供たちは直感が優れている。
実用には問題はないが、やはりもう少し性能の向上が必要だ、とチグサは実感したのであった。それまではスタンに頼ることになる。まあ、それで今までと特に変わりはないのだが。
一方、イカイ・ワカリ以外のVチューバーを公募するプロジェクトが始まった。
女の子を募集し、その子をもとにしてキャラクターを作る、というイカイ・ワカリとは別のアプローチである。
新たな3Dモデルを作る必要がある。しかも本人にある程度似せた形で。
ここに、大量の絵師が必要になる。そのため、急遽、絵師コンテストも開催することになった。上位数名は、プロジェクトの絵師として採用することを明言してイカイ・ワカリの正面、横からの全身イラスト2枚、加えて自由に女の子を描いたもの2枚、計4枚提出というハードなコンテストだった。
だが、ガチイラストレーターたちは歓喜し、争うようにコンテストに参加している。
新たなVチューバーの誕生は近い。いつかそのうち、イカイ・ワカリとのコラボも実現するだろう。
別にリモートで共演する分には、正体がばれることもないのだから。
異世界VTuberの未来はきっと明るい。そして、みんなそれをわかっている。ミライ・ワカリのおかげで。
なお、「アノクタラ山脈の虹」のメンバーがどうなったのかというと、
リーダーのアンドレは奴隷堕ちし、足枷をつけて鉱山で働いている。週に一度、食堂でイカイ・ワカリの番組を見ながら、なけなしの金でキンキンに冷えた酒を飲み、「悪魔的だあ」と叫んでいるそうだ。
タンクのアブドラは、元のサンボの町に戻り、フリーの冒険者をやっている。固定のパーティには入っていない。
その理由はカーミラだ。
タンクとアブドラと魔術師のカーミラは、以前から出来ていた。とはいっても、カーミラはアンドレとも寝ていたのだが。
もともとそれほど好き同士でもなかったはずなのだが、カーミラが妊娠したことで状況が変わった。
お互い、まさか、とは思ったが、出来てしまったものは仕方ない。二人とも、「ちゃんとしよう」という意識が働き、結婚に至った。
アブドラも、今はイカイ・ワカリは見ていない。だが、子供が生まれてある程度の年齢になると、イカイ・ワカリの教育セットやテレビ番組をみることになるのだろう、とアブドラは思っている。
アーシはギルド専属のヒーラーになり、定職を得た。
毎日朝・夕の二回、エリア・ヒールを掛ける。
ケガをした連中をまとめて癒すので、時間がかからず効率のよい仕事である。
ギルドに住み込みになり、仕事がない日中は、誰かを部屋に連れ込んでいるそうだ。
時々、昼間から何やらあやしい声が聞こえるらしい。
まあ、夜中ではないので放置されている。特に誰も迷惑はかけていないのだから。
実は、アーシがここに住めるようになったのは、ギルマスと寝たから、という噂も立っている。真偽のほどは定かではない、ただ、ギルドマスターも昼間から時々いなくなることが増えた、とか肌つやがよくなった、とかの評判もある。
シーフのブルーナの行方はわからない。
アンドレの共犯ということで、王家に追われているため、なかなか表には出られないだろう。だが、シーフという特性もあり、名前を変えて活動しているのかもしれない。
そして、スタンは…
ミミと結婚した。
人間と獣人の結婚は別に珍しいことではない。また、ミミのことは商会メンバー全員が知っていたのだ、反対などなく、むしろ後押しされたとも言える。
変な人間と結婚して秘密が漏れる危機がおとずれるくらいなら、獣人だけど状況を知り尽くし、秘密を絶対に守るミミと結婚するのが一番なのだ。少なくともスタンはそう思ったし、姉のマキも大賛成だった。
今夜もイカイ・ワカリは歌って踊る。
王子の異世界ソングのレパートリーはまだまだ尽きることがない。
スタンも、イカイ・ワカリの役割を楽しんでいる。横ではミミが彼を支え…結局いままで通り、雑用で飛び回っている。
姉のマキ・ラリアットの合図が入る。
「本番5秒前、3、2,1、スタート!」
スタンは笑顔で撮影玉の前に飛び出す。
「皆さん、こんばんは。異世界からあなたを笑顔にするためにやってきたイカイ・ワカリです!今日もよろしくお願いしますね~~」
Sランクパーティから追放されたのはほんの数年前。でも、もうずいぶん昔のことのように感じる。
スタンは、これからもイカイ・ワカリとして人々に夢を与えつづけるのだ。みんなの癒しであり、楽しみであるために。そしてナゲナゲのために…。
ーーー
とりあえず、これで一段落です。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
今後閑話や外伝、続編等がある…かもしれませんが、未定です。
いずれにしても、お付き合い感謝いたします。
読んだ証に、ぜひ★などお願いします!!
【完結】Sランクパーティを追放され大人気のVチューバーになりました。今さらパーティに戻ってほしいと言われても無理です。 愛田 猛 @takaida1
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