第9話 夢で逢えたら-最終話

そう叫んで萌が見たものは、散らかっている紙屑の山と、大の字になって寝ているおさむだった。

 萌は、その場に立ち尽くしてしまい、わずかな瞬間に、部屋の様子を見回した。大きな模造紙の屑、鋏、定規、マジック、糊。模造紙には、文字と数字が書いてある。違う。文字、ではなく、名前だ。数字、ではなく、点数だ。萌は茫然としながら、冷静に見回していた。

 慌ただしく真堂と島抜が入ってきた。そして、立ち尽くしている萌の腕を掴んだ。

「こいつ、ちょっと、来い!」

しかし、萌は怯えることもなく毅然とした姿勢を崩さなかった。そして萌が見つめている部屋のありさまに、真堂も島抜も気づいた。

「こ、これは……」

「なんだ?」

島抜はそこに散らばっていた模造紙を掴み、それを広げて見た。そこには、三年の実力テストの結果が記されていた。

「こ、こいつか……」

「こいつが、貼り替えたんだ」

そう呟く真堂と島抜に萌は言い放った。

「だったら、どうしたのよ」

その言葉に、二人は怯んだ。

「あんたたち、卑怯よ。カンニングより卑怯よ。なによ、捕まえるんなら、捕まえなさいよ。あたしは、逃げないわ。だって、正義がここにあるもの!」

凛とした萌の姿に二人はたじろいだ。

 ばたばたと足音が聞こえて、息せき切って賀津美が飛び込んできた。

「あ、いた。ね、ね、見た?掲示が訂正されてるのよ!やったぁ!」

そう言って飛び込んできた賀津美は紙屑を踏みつけて驚いた。

「何、これ?」

そうして、ゆっくりと紙をつかむと、それをまじまじと見つめて驚いた。

「こ、これ?」

「そう、おさむ君なの」

「ホント?…これ、おさむ君が?」

「そうなの!」

その時初めて賀津美はおさむがそこに寝ていることに気づいた。

「ホント…?まさか、ひとりで?徹夜したの?」

「きっとそうね」

賀津美は言葉を失っておさむを見つめていた。そして、少し目を擦ると顔を上げて振り返った。その時初めて、そこにいた真堂と島抜に気づいた。

「誰、この二人?」

そう訊ねる賀津美の前で、真堂と島抜は、少し怯んだようだった。萌はそれに気づくと、姿勢を正し、

「オホン、それでは紹介します」と言った。

「こちらは、贋物作りの名人の美術の島抜先生と、贋の二〇位の真堂君です」

賀津美の顔はそれを聞いて察したようだった。きっと睨むとそれ以上何も言わず、おさむに近づいた。寝顔を見つめながら、しゃがみこんだ賀津美は、そこに萌以外誰もいないかのように語り掛けた。

「ね、ほら、すごく楽しそうよ、おさむ君。いい夢見てるのね」

萌も覗き込んで応えた。

「本当、楽しそうね」

 おさむの寝顔に見入っている二人の後ろを真堂と島抜はすごすごと退散して行った。二人はそんなことはもうどうでもよく、ただ、おさむの寝顔を見つめながら会話した。

「早く、晴君来ないかな?」

「もう、来てるかもね」

「喜ぶかな」

「喜ぶわよ。だって、おさむ君がやってくれたんだもん」

二人は小さく笑い合った。おさむは、少し寝返りを打った。そして、目を覚ました。目を擦りながら、賀津美と萌の二人が覗き込んでいることに気づいたようだった。

「あれぇ、賀津美ちゃんと萌ちゃん?」

「おはよう、おさむ君!」


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グリーンスクール - 夢で逢えたら 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi

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