第8話 夢で逢えたら-8
*
翌朝、授業の前にメダカの様子を見に来た萌が、北校舎に入ると二階の踊り場から話し声が聞こえた。その声が普通の調子ではなく、怒りの色合いを帯びていたので、萌は気になった。そっと階段を数段上がって、こんなことしちゃいけないんだけどな、と思いながら、様子を伺った。その声の一人は、美術の島抜先生のものだとわかった。もう一人は、学生のようだった。
「どうして、あんなことになったんだ!」
「そう言われても、私も知らないことだよ。今、真堂君に教えてもらったところじゃないか」
「僕だって、今朝来て見て、びっくりしたんだ。僕の名前がなくなってるじゃないか!」
「いや、まぁ、確かに、他の先生から訂正するように言われてたけどね。まぁ、適当にごまかして来週までこのまま行くつもりだったんだが」
「だけど、変わってるじゃないか!あんたは、どういうつもりなんだ」
「そう言われても……。私は、君に頼まれたように、順位をごまかして、名前を載せておいたんだ。君のお父さんには色々お世話になってるから」
「当然だ」
「だけど、誰かが、勝手に貼り替えたんだ」
「本当か?」
「当たり前じゃないか。私が、そんなことをする訳ないだろう」
「じゃあ、一体誰が…」
―――何?何の話なの?
萌は困惑してしまった。
―――順位をごまかす?…それって、何のこと?
萌は戸惑いながら一層聞き耳を立てた。
「何だ、あいつは?小山田ってのは?あれが、本当の二〇位か?」
「たぶん……」
「たぶん、って何だよ。あんただろ、担当は」
「一々個人の名前まで覚えていられないさ」
「まぁ、そうかもしれないけど」
「こんなことを言うのもなんだけど、君がもう少し頑張ればよかったんだ」
「仕方ないじゃないか。こないだの実力テストは体調が悪かったんだ。暑すぎるんだよ、ここの教室は」
「まぁ、そういうこともあるんじゃないのか?」
「なんだ、その言い方は。僕には僕のメンツっていうのもあるんだ。親にも弟にも、優秀な兄貴でなきゃいけないんだ。なのに、なんてことだよ。あんなことになるなんて、いい恥さらしじゃないか。一回、名前が掲示されて、実はそれが間違いでした、なんて……。どうして?一体誰が?」
―――成績表…のこと?
萌はその時足を踏み外しそうになった。
「誰だ!」
島抜の声が響いた。慌てて萌は、階段を駆け降りて理科室に向かった。
「聞かれたぞ。どうするんだ」
「とりあえず、捕まえろ!」
その声は校舎内に響きわたった。捕まえられる不安を高めるように、真堂と島抜が足音を立てて階段を駆け降りてきた。理科室の前に来ると、鍵を出して開けようとした。
―――中から閉めればとりあえずは逃げられる。
そう思って、慌てて鍵を取り出そうとした。が、扉は少し開いていた。
―――お父さん?
父がいるのではないかと思い、萌は勢いよく飛び込んだ。
「お父さん!」
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