第7話 夢で逢えたら-7
と、その時、おさむが入ってきた。泥だらけになってバケツを持っていた。部屋の中が緊張していることにも委細構わずづかづかと横断した。そして、にこにこしながら、モグラに餌を与え始めた。そして、モグラが食べ始めると振り返って、
「ほら、食べてるよ。元気だな、お前。腹減ってたんだな」と言った。
その緊張感のなさに賀津美は不満そうにして何か言おうとしたが、おさむがあまりににこにこしてるので何も言えずそのまま黙って出て行った。
賀津美が出ていったことで緊張感が和らいだ。萌は晴に近づいて、そっと告げた。
「賀津美ちゃん、悪気はないのよ。晴君のこと、自分のことのように思ってるから、つい、あんな物言いになっちゃうのよ、きっと」
「ぅん。わかってる」
「どしたの?」
晴をなだめる萌に、おさむは屈託なげに訊ねた。
「あのね」と萌は説明を始めた。
「そうかぁ。あそこの掲示板に、晴君の名前が載ってるはずだったのかぁ。全然、知らなかった」
「そうなのよ。何かの間違いで、晴君の名前が抜けたの」
「ふ~ん。直んないの、それ?」
「うん。まだ」
「そのうち?」
「でも、もう木曜でしょ。来週になったら、掲示ははがされるから、もう、あと二日しかないの」
「明日になったら、直ってるかな?」
「わかんない。でも、もし、訂正されてなかったら」
「たら?」
「晴君の名前、みんなに見てもらえない」
「ーん」
「それでね、賀津美ちゃんが、先生に言いに行くって言ったんだけど、晴君が止めるの」
「どして?」
晴は俯き加減に答えた。
「だって、もう三年だし、あんまり、そんなことで文句言って、印象悪くしたら内申点に影響するかもしれないじゃない。賀津美ちゃんに、そんなことさせられないよ」
「ーん」
「そうね…。言われてみれば、そうよね」
萌も他の部員も晴の言葉に頷いた。
「じゃ、明日を期待して、今日は我慢しましょう」
「…ぅん」
晴は小さい体を一層小さくするように頷いた。
「どうしたの?」
「賀津美ちゃん…わかってくれるかな?」
「大丈夫よ、ちゃんと説明したらわかってくれるわよ」
萌の励ましに晴は少し安心したようだった。周りの雰囲気もようやく和んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます