ごん狐 新美南吉

ノエル

いつの時代も世界は愛と悲しみに満ちているのだ。

ぽんきちさんの素晴らしい書評に感銘を受け、わたしも読んでみました。


確かに書評に違わず、素晴らしい簡明な小説でした。この小説を書いたときの新美南吉さんは18歳であったとか。


文体の良しあしや好悪はともかくとして、その温かで伸びやかな筆運びは、少年時の新美南吉そのものなのでしょう。素直で、可愛くて、ちょっと悪戯好きな、その少年の心はまるで小ぎつねに乗り移ったかのようです。


根は悪くないが、ちょっぴりお茶目な小ぎつねが、なまじ親切心を起こしたばっかりに起こってしまった悲劇の結末に、読者の心にはさまざまの思いが巻き起こるでしょう。


ひとはそれを見て、親切心が仇になった小説と言うかもしれません。あるいはまた、有難迷惑ということを知らない者の自己満足が起こした「因果応報の物語」と大仰に捉える方もいるかもしれません。さらには、もっともっと穿った見方をして、あの『ロミオとジュリエット』の原型を見るかもしれません。


ぽんきちさんの評によると、この話は教科書にも掲載されているほどの名作だそうで、評者は恥ずかしながら、タイトルは聞いたことがあっても、中身を知らないまま長じてしまったクチだ。なので、エラそーなことは言えないが、これが18歳の少年の純然たる創作なのであるならば、その真意は奈辺にあるのだろうか……。


さすがにぽんきちさんも書かなかったように、評者もまたその結末を書こうとは思わない。思わないが、人生、ちょっとした悪戯心でしでかしたことが、あとで大いなる災厄をもたらす結果となるかもしれないという点で、この物語は寓話の一種とみることもできる。


だが、不条理は、ひとの世の常。いつの時代も世界は愛と悲しみに満ちているのだ。

――と、そう実感した物語だった、軽く読めるが決して浅くはない、理知の重みがずっしりと心に届く物語なのであった。


ぽんきちさん、素晴らしい本のご紹介、ありがとうございました!


出典 https://www.honzuki.jp/book/204143/review/256934/

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