27話 攻撃三倍の法則

 アルスター領を目の前にした平地ではすでに帝国軍が陣形を組んでいた。

 それに対してアルスター領の兵士を前領主のガーデイフ・アルスターが指揮、リロイラからの援軍として駆けつけてくれた傭兵たちをエセルコットが指揮をする形の連合軍で迎え撃とうとしていた。


 しかし、帝国軍が5万、連合軍は合わせて2万ほどと劣勢が予想される。

 戦において攻撃三倍の法則というものがある。

 これは攻め側は守りの三倍の戦力を要するという格言である。

 この場合においての攻めはもちろん帝国軍、そして守りは連合軍になり、三倍もの戦力差は開いていない。

 つまりは勝てる見込みが十分にあるということになる。

 連合軍側のモチベーションが保たれているのはこの法則が基本を兵士たちも理解しているからだ。


 さらにアルスター領は帝国から遠く離れた地でもあり、帝国軍は遠征してきている形になる。

 長距離の遠征により疲れはあるはずだし、食料だって沸いて出てくるわけではない。

 連合軍側は帝国軍の兵站が尽きるのを待つだけで勝てるのだ。


「帝国軍のバカどもめ、舐めやがって」

「まさか、リロイラと力を合わせるとは思っていなかったようだな」

 兵士からも余裕の声が漏れる。


「エセルコットの旦那が緊急招集するってもんだから、どんな無理難題をふっかけられるかと心配したが、杞憂だったようだね」

「へいっ、のらりくらりとやってるだけで金になりますね」

「どうしやすか? あまり攻めすぎずに長引かせればがっぽがぽですが」

 傭兵たちは常備軍とは違って雇われなため、金銭が必要になる。

 こういった場合は日給計算になるため戦争が長引けば長引くほど懐が温まるというわけだ。

 しかし、普通の戦闘なら命がけでそんな余裕はないため、今回のような勝ち戦でわざと手を抜くのもなくはない話だ。

 傭兵は信用が大事なのでやりすぎては干されるが、多少は目を瞑られる。


「エセルコットの旦那に目をつけられたければそうしな」

「それはご勘弁願いたいですぜ」

 エセルコットの集めた傭兵にそんな考えを抱くものはいなかった。

 傭兵たちはエセルコットの恐ろしさを知っているからだ。


 オリヴィアたちは屋敷でどういう流れになるかの最終確認をしていた。

「戦意は十分、何事もなければまず守り切れますな」

 スイフトはガーデイフに呟く。


「何事もなければ……か」

 ガーデイフは優しい料理人のおじいちゃんから一変して領主に相応しい雰囲気を醸し出していた。

 戦意に関わるため伏せている情報もあってこの一室の空気は明るくはなかった。

 まず、ロージア・アルスター辺境伯が出立してから未だ帰らず音信不通になっている。

 帝国軍が攻めてくるからにはなんらかの勝算があって攻めてきているはずなので楽観視は全くできなかった。


 それに最悪の事態も想定できていた。

 しかし、それを考えたところで今更どうしようもなく、そんなことにはならないことを願ってやれることをやるしかないのが現状なのだ。

 太陽が登って明るくなり始めたとき、帝国軍の怒号で戦端の幕は切って落とされた。

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婚約破棄されましたが、あなたのあてにしている商会の会長は私ですよ!! セフェル @sefel

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